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第19話 魔法対決・親友vsいじめっ子 ~その後の虹とキラキラ芸

 闘技場へ下りたセシリアは右手をかかげて詠唱を始めた。


「女神ルミナスの導きに我が魂呼応せん。この手に宿りし炎の精華、灼熱の意志を持て」


 右手の数メートル上に光のドームに向かって赤い魔方陣が展開され、その中心に火の玉が作られて大きくなり始めた。


「燃え盛れ、炎舞連撃!」


 セシリアが叫ぶと、直径三メートルぐらいの火球が魔方陣からドームに向けて発射される。


 パーン! 火球はドームの光の壁に当たって八方に飛び散った。

 光の壁越しに得意げに鼻で笑うカリーナの顔が見えた気がした。


「まだまだ、これからよ!」


 セシリアが手を振り下ろすと魔方陣から二番目の火球が発射された。

 しかし、再び光の壁に当たって砕け散る。


 今度は間髪入れずに、三番目、四番目と次々に火球が発射され続け、光のドームに当たってはバーンと細かい炎に砕けて飛び散る。

 それが何度も何度も繰り返されていく。


 観客はシーンと静まりかえり、その光景をただ見ていた。

 私も砕け散っていく火球をア然として見続けた。


 なによ、これ、まるで決闘じゃない!

 平民、平民とバカにされ続けたセシリアの恨みが火球にこもっているのかもしれない。


「よーし、いけいけー! ぶち破れー!」


 ミラ様は最前列で手を振り上げてあおりまくっている。

 その横をソフィア様が血相を変えて前に走っていく。


「セシリア、おやめなさい! これは発表会よ!」


「あらあら、割れそうよ」


 エリザ様が指差す先、光の壁に当たった火球が今度は飛び散ることなく壁を押し続け、そこにピシッとヒビが入った。

 押しつけられる火球の圧力でヒビがじょじょに大きくなっていく。


 ソフィア様が立ち止まり、右手をかかげて青い魔方陣を展開し、大気中の水分を集めて水球を作り始めた。

 その時、光のドームの中でもカリーナが左手を頭上にかかげるのが見え、ドームの上に金色の魔方陣が現れた。


「あらあら、あの魔方陣は光槍。そんなの使ったら死んじゃうわよ、あの火球の子」


 すごいことを言いながら平静なエリザ様の隣で、シルビア様は怒ったような目でカリーナを見ている。


「なにをやってるの、カリーナ!」


 ミラ様がヒビをみながらのんびりと言われた


「炎舞連球の火球は術者を殺しても止まらねえんだけどなあ」


 金色の魔方陣の中心に光の棒のような物が作られセシリアに狙いを定めた。


 シオンが光槍を指差して、私の耳元に急いで言った。


「水球と火球で」


 シオンの意図を一瞬で理解して両手をかかげ、完成しつつある光槍とセシリアの間に小さな水球と火球をいくつも作って互いをぶつけ合う。

 水球は即座に蒸発して大量の水蒸気となり、風魔法で水蒸気をまとめて、雲のようなかたまりを作った。


 光槍が発射されたが雲に突っ込むと、光は吸収されて雲を光らせて消えた。

 ほぼ同時に、ソフィア様の魔方陣から放たれた水の流れがセシリアの火球を消し去った。

 全ては一瞬の間に行われた。


 ふー、間に合った……。

 私は安心してホッとタメ息をついた。


 魔法を発動させようとしていたのか、エリザ様が上げていた右手を降ろしながら言った。


「より強い光で光槍を消し去るつもりでしたが、火と水で簡単に無効化するとは面白い発想ですわね」


 前の方では、あの温厚なソフィア様が真っ赤になって魔法を解いたカリーナとセシリア怒っている。


「あなた方、いったい何のつもりですか! 今は魔法発表会、武闘会ではありません!」

「すみませーん、ちょっと熱くなりすぎましたあ」


 セシリアはすまなそうに頭をかいているが、カリーナは頭を下げているだけだった。


 魔法研究所のグリモア所長が立ち上がり、聖女様たちに問いかけた。


「今の光槍の無効化はどなたがされたのですか? ミラですか?」

「あたしはなんにもしてねえよ。水魔法なんか使えねえし」


 次に、戻ってきたソフィア様を問うような目つきで見た。


「いいえ、わたくしは火球の対応でなにもできませんでした」


 エリザ様も、私もちがうと言いたげに首を横に振った。


「アンジェリーヌ・テレジオさん、次の準備お願いしまーす」


 運営係の女生徒が次の出番となる私を呼びに来た。

 あわてて、彼女のあとについて闘技場の入り口へと向かう。

 ちょうど戻ってきたカリーナとセシリアとすれ違った。


 接待係としてシルビア様の後ろに立ったカリーナに、シルビア様が厳しい口調で言うのが聞こえてきたので振り返る。


「己を見失うとは情けない。恥を知りなさい」

「……申し訳ありません、お姉さま」


 カリーナは唇をかみしめながらうつむいた。


 超優秀な姉にこんなにガンガンやられたら大変だ。

 きっと、親にも何かにつけて比較されたりするんだろうなあ。

 カリーナがちょっとかわいそうになってきた。


 しかし、あんなすごい魔法のあとでの発表とは……。


 自分の運の悪さを嘆きつつ、ドキドキしながら闘技場の中央に進み出て、来賓席の方にペコリと頭を下げた。


 観客席から話し声、クスクスと笑う声が聞こえてくる。


”へー、今年は出るんだ”

”彼女、魔法が使えないんじゃなかったっけ?”


 大丈夫、大丈夫、あんなに練習したんだもの……。


 この半月、シオンに手伝ってもらって庭で一生懸命繰り返し練習した。

 両腕を広げて小さな赤と青の魔方陣を作り、小さな火球と水球を出す。


 観客がざわめいた。


”なんだこれ、チャチな魔法”

”でも、水魔法と炎魔法の同時発動よ”


 かまわず小火球と小水球をぶつけて水蒸気を作る。

 発動の速度を上げて何度も何度も繰り返し、水蒸気を作り続けて風魔法で私を中心にまとめていき、どんどん大きくしていく。


 最後には闘技場全体を観客席まで水蒸気で覆い尽くした。


”なに? 前が見えない”


 聞こえてくる観客の声に、そろそろいいか豆粒ほどの小さい光球をどんどん作っていく。


”あっ、虹だ、丸い虹ができてるぞ!”

”わあー、きれい!”


 光球を中心にして虹の輪が見える。

 雨のあとに虹ができるのと同じ原理。

 その間も火球と水球をぶつけ合って水蒸気を作り続けるが、一部分を氷結させて風で舞わさせる。

 そのそばに見栄えが良くなるように白銀に輝く光球を配置する。


”なにかキラキラしてる! 氷?”

”ダイヤモンドダストってやつじゃないのか?”


 そうそう、シオンが教えてくれた北国で見られる凍った水分に光が当たって起こるという現象を参考にした。

 わかってくれた人がいて嬉しい。


 しばらく虹とダイヤモンドダストを出し続けると、観客席からひっきりなしに拍手が鳴り響いた。


 よし、受けた!


 会場全体からの拍手に、うまくいったと確信して魔法を止めた。


 水蒸気もなくなり、私の姿も丸見えになったが、観客席から歓声と拍手がわき起こった。


”よかったぞー!”

”とてもきれいだったわ!”


 シオンのアドバイス通り、小さい魔法の組み合わせだけど、なんとかなった。


「姉さまー、とってもキレイ!」


 ちびアンジェもシオンも一緒にうれしそうに手を叩いてくれているので、私も笑顔で手を振って答える。


 しかし、その下の貴賓席の方に目をやると聖女様たちとソフィア様がこわばった顔で私をじっと見つめていた。 


 うわ、なに……、怒ってる。

 私、なんかやっちゃいましたか……?


 その異様な雰囲気に私の笑顔は凍り付いた。


次回、「第20話 聖女たちの驚き ~恐ろしい子」に続く。


ぜひ、評価、ブックマークよろしくお願いいたします。

今後の参考にさせていただきたいと思います。


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