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王子はクラスの給食係に任命される

作者: ゆくえ


 リエと名乗った少女は、小型の枕のような白い袋を渡してきた。

「はい、オウジくん。これが割烹着ね」

「割烹着」

「あ、着方がわからないかあ。細田くん教えてあげてよ。わたし、立花さんと牛乳運んでこなきゃだから」

「おー、任せとけ」

 ホソダという男子は袋からやはり白い上着と、白いナイトキャップのようなものを出して渡してきた。

「ほら、ここに袖を通して」

「……ああ」

「こっちの袖もな。で、背中で紐を結ぶ。簡単だろ。あとは帽子をかぶる」

「かぶる」

 ぱちぱちぱち。教室内で拍手が起きる。

「これが給食係の正式なスタイルだぜ、オウジ」

 ホソダは親指をぐっと突きつけてきた。

 みんなからはオウジと呼ばれている。だがぼくの正式な名前はアウグストゥス=トラス=ザッカリア。ザッカリア国の第一王子だ。『ここ』に召喚された際にそう名乗ったら、なぜか皆から『オウジくん』と、王子とは若干違うイントネーションで呼ばれる羽目になった。

 ここは、ガッコウのなかのクラスというものらしい。クラス委員長(名誉ある役職に違いない)の秋川望実が教えてくれた。

 ここに召喚してきたのは数時間前だった。

 ザッカリア王国の神殿で五十年に一度行われる召喚の儀──聖女を召喚する儀式──の最中に、不届き者の手によって召喚陣に落とされ、光に包まれたと思ったら『ここ』──4-竹組というクラスにいた。右隣のクラスは松組、左隣のクラスは梅組といい、松竹梅ともこの国の植物の名前をあらわしているらしい。

 召喚した当初は困惑した。同い年くらいの子供たちばかりがいる室内。名前を名乗ると、『オウジくんだね』と誰かが言い、『やった!転校生だ!』と全員が喜びの声をあげた。これまで読んできたザッカリア国の文献では、召喚された聖女が役目を拒んだ例や、国に馴染めず衰弱死してしまった例まで読んで知っていたからなおさらに、歓迎されていることに困惑した。その間に、誰かが教室の一番後ろに、机と椅子を持ってきた。隣の席の、市ヶ谷正樹という男が、一時間目から四時間目まで教科書というものを見せてくれた。

 勝手にこちらの世界に押しかけてきた立場なのに、なにも返せないのは申し訳ない。

「なにか役目を果たしたいのだが」

 そう言うと、誰かが、

「じゃあ給食当番やってもらおっか」

 と、言ったのだ。


 お玉を手に、おかずの缶の前に立たされる。目の前にあるのは酢豚という料理らしかった。今日のメインディッシュと聞いて緊張した。

「いいか、肉はなるべく均等に、ピーマンもだぞ」

「あ、ああ」

 やはり同じく給食当番であったマサキが囁く。マサキは汁物担当で、今日はかきたま汁というものらしい。黄色くてふわふわしたものを、リズム良くかつ均等に椀によそっていく。

 今日のメニューはご飯、酢豚に小松菜のおひたし、かきたま汁、そして牛乳であった。ご飯にはふりかけというものもついてくる。

 あちらでの祈りの言葉の代わりに、皆で「いただきます」と手を合わせて唱和し食べ始めた。

「どうだ、美味いだろう」

 マサキの言葉にうなずく。自分でよそった酢豚なる料理はたいそう美味く、飯が進んだ。

「明日はナポリタンとコッペパンだから、ナポリタンドッグを作れるんだぞ、オウジ」

 そうか。

 どんな料理かはわからない。だが、異国に来てなお明日が楽しみだと感じる幸せを噛み締める我だった。

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