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あの時の赤い鱗の龍はギャネットという名前




 いつの間に眠っていたのか、バサッバサッという音と風圧を感じて目を開ける。


 うつ伏せで寝ていたので眠れるか不安だったが、熟睡できたようだ。


 仰向けや横向きで寝ようとしたものの、背中の翼が邪魔でしっくりこなかったのだ。


「あら、随分とお寝坊さんね」


 そんな言葉を私に投げかけたのは、私が生まれた瞬間にいた赤い鱗のドラゴンだった。何故か、果物を山のように積んだ大きな籠を持って。


「あ、おはようございます」


「はい、おはよ。あたしの名前はギャネットよ。これからあなたがドラゴンとして生きる為の基本を教えていくわ」


「はい! 私の名前はエジダイファです。アル爺に付けていただきました。長ければ、縮めてエッジと呼んでください」


「丁寧な挨拶ありがとう、エッジ。さ、この果物は貴方の朝食よ。全部食べなさい」


「ぜ、全部!?」


 ギャネットの持っている籠は、私が尻尾と翼を目一杯広げた状態で十匹は入る大きさと深さだ。


 その籠に山と積まれた果物。


 いまだに小さな私の体が埋もれてしまう程の量だ。


 胃袋の容積からいっても、入るわけがない。


「食べ始めれば分かるわ。ほら」


 ギャネットは雑に籠を傾け果物を私の前に転がすと、早く食えと言わんばかりに首をしゃくった。


 恐る恐る手を伸ばし――指は人間のように五本生えていたので問題なく掴めた――選んだ果物は、前世でのリンゴに酷似した赤い果実。


 ……いや、見たことのない果物もあったからそっちも選べたんだけど、未知の食べ物って怖いじゃん?


 食べようとしたところ、さっき雑に転がされたせいでついた土を拭おうと二の腕辺りで擦ったら、ゾリゾリゾリッという音と共に果実がすりおろされてしまった。


「……何やってるの? あなた……」


「いや、つい……」


 龍の鱗、恐るべし。


 映画やドラマで、林檎なんかを服で拭ってから食べるやつを真似しようとしただけなんだが。


「いただきます」


 気を取り直して見た目リンゴの謎の果実に齧り付くと、味も食感も前世の林檎と同じだった。


 飾った瞬間に響くシャクリという音に、甘味と酸味が渾然一体となった味。


 ゴクリ、と飲み込んだ後に思うのは一つ。




 もっと食べたい。




 こうなっては自分で自分を止められない。


 前世で見たことのある果物も、色に形に匂いまで未知の果物も、手が届く物から順番に口の中に放り込んでいった。


 そうして食べ進めていると、感じること違和感が二つ。


 一つは、食べても食べても満腹感を感じない。食べた量的に、私の体積は優に超えているはずだが、一向に腹が膨れない。


 二つ目は、体の中に今まで感じたことのない、エネルギーのような物が渦巻いているのを感じるのだ。


「これは……」


「それが『魔力』だよ、エッジ」


 魔力! いよいよ異世界転生、ファンタジーっぽくなってきた!


 ……まぁ、ドラゴンに転生している時点でびっくりのピークは過ぎていたけど。


「ドラゴンは食べたものを胃袋で溶かし、魔力に変換して体に吸収するんだ。この魔力を使って、あたしたちは火を吹いたり、翼に風魔法を組み合わせて空を飛んだりするんだ」


「ほほぅ」


「そして、体の成長にも魔力は必要なんだ」


「なんと!」


 じゃあ、いち早く下に降りるためにも、この用意されている果物はひとつ残らず食べつくさなくては!


「それを全部食べたら、火を吐く練習をするわよ」


「ふぁい!」


 口の中に物が入ったまま喋るのは、行儀が悪かったな。反省反省。





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