汎用共通語とこれからの予定
「アル爺、私達が話しているこの言語は何なのですか?」
空中吊り下げ状態からアル爺の頭の上にポジションを移した私は、喋っている言語についての疑問をぶつけた。
思考は日本語だ。
話そうとしているのも日本語。
だが、口から出たのはまるっきり知らない言語なのだ。
例えるなら、映画の字幕版と吹替版の音声を同時に視聴しているような感覚なのだ。
しかも、自分が話す言葉も相手が話す言葉も両方理解出来る。
これは一体、何なのだ! と思っていると、アル爺は、龍の巣へゆっくりと降下しながら、
「これは、『汎用共通語』じゃ」
と言った。
「汎用共通語?」
アル爺が語ったところによると、太古の昔、使用する言語が異種族間では勿論、同族間ですらバラバラで、戦争や諍いが絶えなかった時代。
その状況を憂えた神々の中から、言語の神グラマトンが人族、魔族など種族関係無く遍く全ての知恵ある存在が読み、書けて、話し、理解できる言語をもたらした。
それが、『汎用共通語』だそうだ。
そして、言語の神グラマトンは続けて世界中の汎用共通語が通じる存在に話しかけた。争いは控え、相互の理解に努め、手を携えて暮らしなさい、と。
「…………」
前世の記憶があるからわかるが、そんな事をしても絶対に仲良しこよしにはならない。
争う原因は意思疎通だけが理由では無いし、言葉が通じることで浮き彫りになる問題だってあるだろう。
……しかし、事はこれだけで終わらなかったらしい。
「実は、我々ドラゴンなどの生物から下級魔族のゴブリンに至るまで、汎用共通語を操れるようになった存在が現れ出しての。そこからの泥沼の戦乱は、それまでの比では無かったらしい」
「うわぁ……」
しかし、汎用共通語の有無に関わらず、争いが一番激しかったのが人族と魔族の戦争だったそうだ。
宗教の違い、領土争い、資源の争奪、種族間の諍いなど、理由は様々だが、人族と魔族は平和な時間よりも争っている時間のほうが多かったそうだ。
そして、人族と魔族の戦乱の大半が繰り広げられたのが、何を隠そう、ここ『龍の巣』だったそう。
「え?! ここが!?」
「うむ。当時、ここがまだ大陸にあった頃、ドラゴンが縄張りにしていたんじゃが、鼻先で戦争が起きるは、両陣営から助力を請われ、それを拒否すると両陣営が軍勢を差し向けるわで、ずいぶん鬱陶しかったそうじゃ」
で、当時のドラゴンたちは何を思ったのか、有り余る魔力でドラゴン以外の汎用共通語を操る存在を拒絶する結界を張り、他種族を追い出し、大陸から大地を切り取り、空に浮かべて『龍の巣』を作り出したらしい。
「はえぇ~~~」
壮大というか豪快というか……。規模が大きすぎて言葉が出ない。
「よぅし、着いたぞい」
そう言ってアル爺が降り立ったのは、だだっ広い草原の端っこだった。
かなり広いな。東京ドームは見たことがないし、比較できるものが何もないので、『広い』以外の感想が出てこないが。
「アル爺、ここは?」
「ここは、ドラゴンの子供がのびのび遊ぶための広場じゃ。……まぁ、今はおぬし以外の子供はおらんから、おぬし専用の特訓場じゃな」
「おぉ! 特訓!」
特訓! なんてワクワクするワードだろう!
「まず、明日からドラゴンとして基本的なことを随時、学んでもらい、並行して食事をたっぷり摂って体づくり。体が成体になったら、身体操作を学び、下界に馴染む手段を習得してもらう」
「はい! わかりました!」
「では、明日の朝、教えるものを連れて来るでの。今日はゆっくり休みなさい」
「はい! ……それで、ええと、寝床は……?」
見渡しても、草と木しかない。
「ん? ドラゴンなのだ、どんな環境でも寝られるぞ?」
「いえ……そうではなく……」
「では、また明日。おやすみ、エジダイファ」
そう言うと、アル爺はあっという間に飛んで行ってしまった。
「…………」
明日からの修行に加えて、快適な寝床作りが私のやるべき事に加わった。
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