この世界での私の名前
地の文が少ないなと感じたので、意識して多めに書いてみました。
「ええと、いくつか聞きたいことがあるんですが……」
「うむ。答えられる限り、何でも答えるぞ?」
「あの、貴方の名前を教えてくれますか?」
人の姿から東洋龍の姿に戻った金色龍に声を掛ける。
「……名乗ってなかったかの?」
「はい」
「しまったしまった。名乗りなんぞ何百年もやっておらんかったからの。つい失念しておった」
そう言うと、彼は頭を私の正面に合わせ、咳払いを一つして名前を告げた。
「儂の名は、アルルクィンスト。ここの皆からはアル爺と呼ばれることもある。おぬしも気軽にアル爺と呼んでくれ」
「はい、アル爺」
「うむうむ」
アル爺の目が細められる。ドラゴンの表情なんて分からないけれど、多分、笑っているんだろう。
「あ、私の名前は『九頭龍 巽』といいます。前世での名前ですが」
するっと喋ったが、『九頭龍 巽』という私の名前だけは前世での日本語に聞こえた。
口から出るのは前世の名前以外、未知の言語のままだ。
「ふぅむ、耳慣れぬ響き。やはり『外』から来たのだのぅ」
「名前は変えたほうがいいでしょうか?」
「いずれ下に降りるなら、な。下界に住まう大多数がヒトのままであれば、異物は畏怖され、忌避され、そして迫害されるだろう」
アル爺の言葉に私は納得していた。前世でも少数派が多数派に押し込められるように区別されていた歴史がある。意識改革が進んだ前世でも差別意識の撲滅は成されなかったのだ。
ましてや、ここは異世界。警戒するのは当然として、漠然と受け入れられると期待して裏切られたら。
体は丈夫なドラゴンでも、心はか弱い人間のままなのだ。
「では、私にこの世界にふさわしい名前を付けてくれませんか?」
私の提案に、アル爺はあっけにとられた顔をした後、大笑いした。
「わははははは! よし、ここにじっとして喋るのもアレじゃからの。龍の巣を案内しつつ、おぬしの名前を考えるとしよう」
「はい!」
そう言うと、アル爺は私を金色の体毛で操り持ち上げ、頭の上にちょこんと乗せてくれた。
「では、まずは龍の巣の全景を見せてやろう」
そう言うとアル爺は、真上に向かって急上昇した。
アル爺が体毛でしっかりと固定してくれなければ、振り落とされそうなスピードだ。
アル爺にしがみつくように耐えていると、速度が次第にゆっくりになり、そして止まった。
「さぁ、ご覧。これが龍の巣だ」
思わずつぶっていた目を開けると、そこには大地が浮いていた。
「おぉーーー!!」
眼下に広がる光景は、圧巻の一言だった。
歪な円形に見える大地には、山があり、森があり、平地があった。
大陸を切り取ったという言葉は比喩では無いことは、山の稜線が不自然に途切れていることからも分かる。
こんな巨大な物が浮かぶなんて、流石は異世界!
そして、視線をふっと水平に戻すと、龍の巣が浮いている高さに驚いた。
アル爺の『空に浮かべた』という言葉から、てっきり雲の上あたりを浮いて漂っているイメージだったのだが。
見えるのは、前世の地球と同じように緑と青の美しい惑星。もやがかっているのは、大気層の境目だろうか。
そして、頭上を覆うのは、漆黒の闇に無数の小さな光を散りばめたソラ。
端的に言って、宇宙があった。
私があまりの光景にポカンとしていると、アル爺が声をあげた。
「よし! おぬしの名前が決まったぞ!」
アル爺は、体毛を伸ばして私を彼の正面に持って来た。
私の今の体勢は、アル爺の体毛で腋の下をぐるりと巻かれたまま、足元には何もなく宙ぶらりんなので、この世界に来てから一番の恐怖を感じているのだが、アル爺はそんな私に気づくことなく。
「おぬしのこの世界での名は『エジダイファ』じゃ! 長ければ、『エッジ』と名乗るが良いぞ!」
と、大層嬉しそうに告げた。
対して私は、引き攣った顔を自覚しつつも、
「あ、ありがとうございます……」
と、返すのが精一杯だった。
主人公の名前、決まりました。
エッジくんです。
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