龍の巣
「えぇ……これからどうしよう……」
頭が混乱している。
日本語で思考して、口から出そうとしているのも日本語だ。でも、実際に口から出たのは聞いたことのない未知の言語で、なのに意味が理解できる。
それに私の周りで――。
「あら? この子、なんだか戸惑ってません?」
と語るのは、赤い鱗が美しいドラゴン。
「んん〜? 本当に同胞か、こいつ?」
と、私に怪訝そうな視線を向けるのは砂色と煉瓦色が斑らになった鱗のドラゴン。
「コスモドラゴンですか。初めて見ましたよ」
と、私に興味津々だと言わんばかりの目を向けるのは空色の鱗が爽やかなドラゴン。
ここからどう動くのが正解かわからず固まっていると、三体のドラゴンの後ろからもう一つ声があがった。
「これこれ、皆が壁になってよう見えん。退いて儂にもよう見せてくれ」
「あら、ごめんなさい。アル爺」「悪りぃな、じいさん」「すいません、つい夢中に……」と口々に謝りながら三体のドラゴンが避けると、そこにいたのは金色のドラゴンだった。
先の三体のドラゴンは、見た目が前世で言うところの西洋龍に近いのに対し、四体目のこのドラゴンは、東洋龍に近かった。
顔はドラゴンのそれだが、体は長い金色の体毛に覆われていて、鱗があるのか見えないほどだ。
「ちょいと、失礼するぞい」
「え? うわっ?!」
金色龍の体毛が私目掛けて伸びてきたかと思うと、抵抗する間もなく持ち上げられて、金色龍の顔を真正面から見る形になった。
「ちょっとばかし、我慢しておくれ」
「え?」
言うが早いか、金色龍は顔を傾け角を私が持つ角にくっ付けてきた。直後、私の頭の中に響くキーンという甲高い音。
「いぃっ?!」
「ふぅむ、なるほどなるほど」
角を離した金色龍は体毛で私を持ち上げたまま、首を回し他の三体の龍に顔を向けて、
「すまんが、儂らだけで話をさせてもらえるか。きちんとした説明は後で必ずするでの」
三体の西洋龍は、渋々といった態度でこの場を去っていった。
「……さて、少し儂と話をしよう。おぬしの中身について」
「は……はい」
持ち上げていた私の体を、ゆっくりと元居た位置に戻す。
「あぁ、そう怯えずともよい。おぬしの肉体も魂もドラゴンのものであれば、なにも問題はなかったのだが、おぬしの魂は人間のものだ」
「…………」
「もし、話せるなら事情を聞かせてくれ」
「……はい、実は――――」
私は全てを話した。元居た世界で寿命を迎えて死んだこと。不思議な空間に招かれて転生すると告げられたこと。気が付くとドラゴンに生まれ変わっていたこと。
「なるほどのぅ。転生者の存在は知っておったが、ドラゴンに転生したものの話は聞いたことがなかった」
「……折角、健康体に生まれ変わって美味しいものを食べたかったのに、ドラゴンの姿では人里に降りることができません」
「肉体がドラゴンのものなら、ヒトの形をとることも可能だぞ?」
「本当ですか?!」
私の心に一筋の光が差した。
「うむ。こうやるのだ」
金色龍の全身が淡く輝いたかと思うと、その細長い体がみるみるうちに人間の形に収斂していく。
「おぉ~!」
思わず拍手してしまった。
「ほっほっほ。この程度で喜ばれると、なんだかこそばゆいのぅ」
「そ、それはいつ出来るようになりますか?! 今すぐ出来るようになりますか?!」
「まぁ待て。そう慌てるでない。おぬしはまだ生まれたばかりだ。幼いまま下に降りれば、ドラゴンといえど命を失いかねん」
そう言われ、自分の体を見遣る。鱗も爪もあるが、さっきまでいた三体の西洋龍と比べて随分と小さい。
もし、口の中に放り込まれたら、簡単に丸呑みされるだろう。
……彼の台詞を頭の中で反芻していると、気になる点があった。
「あの……下に降りればって、この場所は地面にあるのではないのですか?」
私の質問に、彼は変化したヒトの腕を大きく広げながら告げる。
「ここは『龍の巣』。大陸を切り取り、空に浮かべた、ドラゴンのための避難場所よ」
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