プロローグ:はじまり はじまり
初投稿です。誤字脱字ありましたら報告お願いします。
意識が、だんだんと遠のいていくのを感じる。
自分の体に繋がれた医療機器が発する電子音。今までお世話になった先生に看護師さんが、私の命を繋ぎ止めようと必死になっているのを、どこか他人事のように見ていた。
これが、『死ぬ』って事なんだなぁ。
目を開けていることすら億劫になり、瞼が閉じるのを止められない。
『成人まで生きられるかわからない』と言われていたのに、30過ぎまで生きられたんだから、よく頑張ったよ、私の体は。
……あぁ。いよいよ、その時が来たみたいだ。
自分の中の『命の火』と言うべきものが小さくなっていくのを感じる。
あぁ……。お世話になった病院の方々への手紙は残したけど、感謝の言葉くらいは、自分自身の口で伝えたかったよなぁ……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
気がつくと、真っ白な場所に立っていた。
上を見ても、前後左右を見ても、真っ白だ。
白すぎて、ここが区切られた空間なのか、だだっ広い空間なのか判別出来ない。
「おぉっ?!」
ふと視線を足元にやって、自分自身の変化にようやく気が付いた。
純白のスーツを着ている。この空間に溶け込みそうなほど真っ白なスーツを。
「はぁ〜。これがスーツかぁ」
病院の患者着とスリッパくらいしか馴染みがない私のテンションがちょっぴり上昇した。
腕をぐるんと回してみたり、首と腰をひねって後ろ側を見ようとしたりしていると、真正面に誰かが立っていた。
一目見て、天使だ、と思った。
頭の上に天使の輪こそ無いものの、綺麗な金髪、作り物のように整った容貌、背から生えている純白の羽。
そんな彼女にぽけーっと見惚れていると――。
「お疲れ様でした。貴方様は、天寿を全うされました」
と、丁寧に腰を折りながら告げられた。
「あ、ご丁寧にどうも……」
「早速ではありますが、これから貴方様の転生について、いくつか質問していきます。よろしいですか?」
「あっ、はい!」
転生!
入院中、アニメに小説、漫画などで異世界転生物を楽しんでいたけれど、まさか自分が異世界転生することになるとは!
天使は、どこからか薄い石板のようなものを取り出し、タブレット端末のように操作しながら問いかけてきた。
「どのような存在に転生したいか、ご希望はございますか?」
「どのような……存在?」
質問の意味が飲み込めず、質問をオウム返ししてしまった。
「はい。『次も人間がいい』とか、『エルフやドワーフなどの異種族になってみたい』などの希望でございます」
「あぁ……なるほど」
「それと、能力や才能、性質などからでも転生先を探せます。『剣の才能が欲しい』、『魔法を使えるようにしてほしい』などですね」
天使の言葉に、頭をフル回転させて答えを出す。
「それなら……病気や毒に強くて、常に健康体! みたいな種族に転生したいなぁ」
「なるほど」
私の答えを受けて端末を操作する天使。
せっかく異世界に生まれ変わるんだから、病弱では楽しめないし、毒に強ければサバイバルな状況に放り込まれても異世界の食材に果敢に挑戦できるだろう。
「他には何かありませんか?」
「え!? 条件って一つだけではないのですか!?」
「複数の条件で転生先を検索可能です。見つからなかった場合、条件を緩めていただくこともありますが、転生の候補先は膨大ですから、思いつく限りの希望をおっしゃってください」
おぉ、なんともありがたい。
「では、『記憶を引き継いで転生』、『剣や魔法で傷つきにくい強靭な肉体』、『転生先の住人に好意的に迎えられる特性』が欲しいです」
ぱっと思いつくのはこのくらいか。
「なるほどなるほど……。『記憶を引き継いで転生』に関しては、元々その予定でしたので削除いたしまして……。すべての条件に合致する世界が複数ございました」
「おぉ! 本当ですか!」
病気に強くても怪我や事件、事故で大ケガを負えば生きるのが難しくなるし、転生先で快く受け入れてもらえなければ、生活することもままならないだろう。
「はい。つきましては、転生先の世界についても希望の条件などはございますか?」
「えぇーっと。『魔法が存在する世界』、『食文化が発展している』、『異種族がたくさんいる』でお願いします」
やっぱり異世界転生するなら魔法の存在は欠かせないし、病院食ばっかりだったから今まで食べられなかった『健康に良くない』食事も食べてみたいし、異種族がいっぱいいれば異世界に来た実感もわくだろう。
「……はい。条件に合致する世界がありました」
「やった!」
「では、早速ですが転生していただきます」
瞬間、ふわりと浮かび上がる自分の体。
私を見上げる天使が口を開く。
「第二の生がより良いものになることを、お祈り申し上げます」
「あ、ありがとうございましたー!」
病院の先生方に直接、告げることができなかった感謝の言葉を慌てて伝えたところで、私の意識は暗転した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
目を開けると、さっきとは打って変わって真っ暗闇の空間だった。
しかも、体を縮こまらせて居る上に、非常に狭い空間だ。
「――――。――――!」
駄目だ。声が全然出ていない。
転生した瞬間から生命の危機を感じて焦った私は、がむしゃらに暴れた。
壁に拳、肘、脚が当たる。その衝撃で私が入れられている入れ物が転がる。
すると、私を閉じ込めていた壁から一筋の光が差し込んだ! 罅が入ったのだ!
罅めがけて重点的に攻撃していると、罅がどんどん広がっていく。
……しかし、手の感覚が人間とは大分違うな。一体、何の種族に私は転生したんだ?
罅がいよいよ穴と呼べる大きさになり、転生して初めての光に目が眩む。
体全体で穴を押し広げるように体当たりをしたことで、私は外の世界に転がり出た。
外に出た私が目にしたのは、鱗と、牙と、目だった。
「あらあらまぁまぁ。生まれましたねぇ」
「久方ぶりだな。……何百年ぶりだ?」
「一番若い者でも千歳は超えておるのだ。少なく見積もっても千年ぶりであろう」
私を取り囲み、未知のはずなのに何故か理解できる言語で会話しているモノ。
縦に裂けたような虹彩の瞳。爬虫類然とした鱗。会話の度に見える鋭い牙。頭部に燦然と輝く角。
ファンタジーではお馴染みの生物。ドラゴンである。
まさか、という気持ちで自分が出てきた入れ物を見る。
金属のような光沢があり、私と同じくらいの大きさだが、形状はまさしく卵。
その卵の光沢は鏡のようで、私の姿を映し出していた。
縦に裂けた金色の瞳。爬虫類のような紺色の鱗。体つきは前世での西洋龍そのもの。ぽかんと開けた口からのぞく牙。頭部に生える木のように枝分かれした角。
「えぇ―――――――!!!!!」
私の第二の人生は、ドラゴンとしてスタートすることになった。
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