第9話
ジルはベッドの中で何度目かの寝返りを打った。
(はぁ……。指輪をプレゼントして、それが自分の瞳の色とか……これって……)
チラリと隣のベッドを盗み見ると、フィルニアが静かに眠りに落ちている。
(いやいやいや、媒体よ、媒体。何の意味もないのよ。……それにしても、ちょっと警戒心無さすぎじゃないかしら。私が男だって分かってるのに、同じ部屋ですやすや寝てるし)
ジルは小さくため息をついた。
(はぁ……信用されてるって事よね。その信用が嬉しくもあり……)
寂しくもあり、と考えたところで、頭を振る。
(ちょっと、私何考えてるのよ。せっかくフィルニアが私に女同士の態度を取ってくれてるのに。これじゃまるで……)
その先に考えが行こうとするのを、必至に誤魔化す。
(ダメ。これ以上考えちゃダメだわ。女同士だから一緒に旅できるけど……)
ふぅ、ともう一度溜息をついて、ジルは瞳を閉じた。
眠りに落ちていく中で、フィルニアの微笑みが瞼の裏に浮かんでは消えた。
フィルニアはベッドから降り、毎朝の日課としている瞑想を行うため、床に座る。
そっと淡く輝く媒体を撫でる。
今は閉じられていて、見ることのできない瞳と同じ色の石。
誰かから物を貰って、素直に喜べたのは初めてかもしれない。
巻き添えにした罪悪感から、純粋な好意ではないのは分かっているが、嬉しかった。
思わず笑みが浮かぶが、ゆっくりと心を平な状態へと落ち着かせていく。
それにしても、ジルが魔道や魔力について詳しくないおかげで、余計な詮索をされずに済んだ。
本来魔道士は媒体が無ければ、自らの持つ魔力を外に放出することはできない。
もしかしたら知っているかもしれない。
知らないふりをしてくれているのであれば、フィルニアにとっては有難いことこの上なかった。
もう一度媒体にそっと触れ、瞳を閉じた。