第8話
フィルニアは小さな石が付いた指輪を手に取る。
「綺麗ねぇ。あ、でもフィルニアには赤より青の方が似合いそう」
魔道具を専門に扱う店の一角で、ジルはうっとりと媒体を眺めた。
「どうでしょう。今まで色では決めてませんでしたが。とりあえず媒体となってくれれば問題ないですし」
指輪を元の位置に戻し、ジルの方へ顔を向ける。
埃っぽく、古びた商品棚が並ぶ店内においても、ジルの美貌は損なわれないのだな、などと脳裏に浮かぶ。
例え男でも美人だな、とも。
「ダメ、ダメよ。女の子なんだから!よし、私が選んであげるわ。……あ、でも私詳しいことよくわかんないのよね。魔道が使えないし」
胸を張ってからすぐに肩を落としたジルに、フィルニアは少し考えてから答える。
「大丈夫です。選んでもらっても良いですか」
「本当?任せて!」
ジルはうきうきと物色し始めて、ふと手を止める。
「そういえば、フィルニアって媒体必要なの?普通に使ってた気がするのだけど」
ソーラス邸での爆発を思い返す。
あの時フィルニアは魔道媒体を全て引っぺがされた状態だったはずだ。
「ああ……私、少し特殊なタイプなんです。無くても使えますが、威力が抑えられません。媒体があってコントロールが効くんです」
「ふぅん。詳しいことはよく解らないけど、とにかく媒体があれば良いのよね……あ、これなんてステキ」
ジルが透き通った蒼い石が付いた指輪をフィルニアの指にはめる。
「どう?すっごく似合うと思うんだけど」
「はい。波動も合いますし、良いと思います。これ、ジルの瞳の色と同じ色ですね」
ふわりと微笑んだフィルニアに、ジルは頬に熱が集まるのを感じた。
「あ、えっと。全然気付かなかったけど、イヤよね!?違うのに……」
「ジル、これにします」
「え、あ、うん。じゃあ、ちょっと待って」
きっぱりと言ったフィルニアにほっとしつつ、財布を取り出す。
「ジル」
「これはプレゼントさせてちょうだい。私のとばっちりのクソ男のせいで媒体が無くなった訳だし」
「でも……」
躊躇うフィルニアに、ジルはいいのいいの、と言いながら代金を払った。
「ありがとうございます」
嬉しそうに微笑みを浮かべたフィルニアに、ジルはもう一度頬を温めた。