第6話
女を閉じ込めていた部屋から轟音が鳴り響き、この屋敷の執事であるモッソは慌てた。
魔力を使うために必要となる媒体は全て取り払ったはずだ。
媒体に反応する魔道具で調べたのだから、間違いはない。
爆薬でも隠し持っていたか?と考えながら、走って部屋へと向かう。
もし隠していたとしても、所詮魔力の使えない魔道士。
どうにでもなるだろう。
主人は傷つけるなと言ったが、こうなっては仕方がない。
モッソは剣を抜き、スピードを上げた。
フィルニアは部屋を出たところで、ただ突っ立っていた。
よくよく考えれば、この屋敷のどこにジルがいるのか、全くもってわからないのだ。
「ええと……意外と頭にきていたのかな」
元はドアだった残骸へと視線を向けてから、苦笑する。
普段であれば、まず部屋を出てからどこへ向かうか決めていただろう。
いや、向かう場所は決まっている。
「ジルの、所へ……」
ただ、どこが向かうべき場所なのかがわからないだけで。
「しょうがない、しらみつぶしに探しますか。何時間かかるやら……」
そのうちジルも自力で出てくるかもしれない、と希望的観測を思い浮かべ、ようやく足を動かす。
「お待ちください」
「……ただの執事かと思ったのですが。困りましたね」
ようやく動き出したかと思えば、先ほどの執事が抜き身の剣を持ち、フィルニアの三歩先に立ちはだかった。
「大人しく部屋にお戻り下されば……いえ、別の部屋を用意致します。そちらに移っていただければ、危害は加えません」
媒体はお預かりさせて頂きました。ご存じでしょう。
牽制も兼ねて、モッソは付け足した。
「ええ、そうですね。困ったことになりました。殺してしまうのは後味が悪いんですが。まぁ、しょうがないですよね」
困ったように美しく微笑むフィルニアに、モッソは困惑する。
彼女がはったりをかましている様子はなさそうだ。
だとすると、魔道以外に何か武器があるのかもしれない。
武器となるものは取り去ってあるはず。
となると、暗殺者が得意とする、巧妙に隠された武器か。
もしくは体術か。
どちらにしろ、彼女に後れをとらなければ良い話だ。
腕に覚えのあるモッソは、構わず彼女との距離を詰めた。
彼は、その後何があったのか、正確にはわかっていない。
一瞬のうちに、ものすごい衝撃が襲いかかり、意識が途絶えた。
彼の意識が戻った時、彼はようやく何かの力で壁に叩きつけられたのだと理解した。
「……だから……だって、言って……」
「かまわ……君……」
「……いい加減……でしょう!」
「いや……めない……は……もの……」
ドアから小さく洩れる声に、何の当てもなく屋敷を探索していたフィルニアは反応した。
これは、ジルの声ではないだろうか。
気配を消してドアに近寄り、そっと押す。
予想外にドアに鍵はかかっておらず、薄く隙間ができる。
ジルが人質に取られても困るので、様子を見ようと隙間を覗く。
ジルの姿は陰になってみえないが、彼女が言い争っている相手は、金髪の男だ。
こうして見た感じでは、あの男がジルを押さえつけられるほど強くはなさそうだ。
フィルニアは思い切ってドアを押し開けた。
「だから、私は男だって言ってんでしょうが!!!いい加減にしろ!!あんたも見たでしょ!!!!」
フィルニアは、頭が真っ白になった。