第4話
足早に駆けて来る美女に、フィルニアは軽く手を挙げ、自分の居場所を示す。
「良かった、合流できて。もう、いい加減にしてほしいわ。早くこの街を出た方が良さそうね」
ジルは長い髪をかきあげて、息ひとつ乱さず、しかし溜息を洩らす。
「そうですね。ジルはどこか目的地はあるんですか」
「特にないわ。町から町へ、時々仕事しながらぶらぶらしているだけよ。フィルニアは?」
「私は……一応、探しているものはありますが、似たようなものです」
「ふぅん。じゃあ適当に情報集めながら行きましょうか。確か、ボーレルの街が西にあるわね。そっちでいい?
もういい加減、あいつらから逃げるのも疲れちゃった」
「人が多い街に紛れた方が良さそうですね。そうしましょう」
頷くフィルニアに、ジルは眉を下げて微笑み返す。
「ごめんなさいね、巻き込んじゃって。ハッキリ言ったつもりなんだけど」
「いえ。元々この辺りに長居するつもりはありませんでしたから。さ、行きましょう」
(意外に足速いのよねぇ)
歩きだしたフィルニアに、ジルは慌てて着いていく。
ふと、気配を感じて意識が覚醒する。
獣の気配ではない。
隣では、ジルも目覚めている気配がする。
フィルニアはゆっくりと意識を魔道が使用できる状態まで持っていく。
大体の魔道士は魔道を使う際に、呪文や印を必要とする。
しかしフィルニアは気配を辿り、意識のみで影を使役した。
「……っ」
闇の中から息をのむ声にならない声が聞こえた。
素早く身を起こし、周囲の状況を確認する。
ジルはすでに、影を捉えられ身動きの取れない男に剣を突き付けていた。
「誰に雇われたの?まぁ、大体予想は付いてるけど、一応ねぇ」
「っく……」
「言わないつもりですか。喋らせるために喉は自由にしてありますが、締め付けることも可能ですよ」
「ひっ」
男が顔を引きつらせる。
しかしフィルニアが一歩前進した瞬間、その男の表情は勝利を確信するものへと変じた。
「!!」
フィルニアがしまったと思った瞬間には、手遅れだった。
男の指輪が一人でに割れ、中から粉が舞い散る。
二人の意識は、闇へと落ちて行った。