第3話
ゆっくりとまぶたを持ち上げる。
久しぶりに、夢に母が出てきたような気がする。
目の前の美女が身じろきした。
ああ、夢は彼女が母に似ているせいかな。
そこでやっと、なぜ美女が目の前にいるのかという疑問が湧く。
「……っ」
思わず声を上げそうになって、慌てて口を閉じる。
いつの間にか、ベッドで美女と一緒に寝ている。
もしかして、寝ぼけてベッドに入ってしまったのだろうか。
だとしたら、彼女が起きたら謝っておこう。
心の中で納得して、フィルニアはジルを起こさないように静かに起き上がる。
(それにしても)
彼女の美貌は瞳を閉じていても、完成されたものなんだな、と妙に感動する。
もう少し眺めていたいような気がしたが、彼女の傍を離れ、手早く着替えて顔を洗う。
床に座り、瞳を閉じて瞑想を始める。
魔道士であるフィルニアにとっては、大事な訓練だ。
ゆっくりと意識が精神世界へと下ってゆく。
「ん……」
ジルは起き上がり、大きくのびをする。
その仕草からはどことなく色気が漂うが、その色気に惹きつけられる者はここにいはいなかった。
「フィ……おっと」
座っているフィルニアを見て思わず声を掛けそうになるが、瞑想していると気付き、口を噤む。
後ろでひとくくりにしてある銀髪に朝日が反射して、キラキラと水面の様に光っている。
透き通るような肌は、このまま光に溶けて行ってしまいそうだ。
「なんか、神聖」
ポツリとそう呟いてみるが、もちろん返事は無い。
もしフィルニアが聞いたら、困惑しそうだと思い、おかしくなる。
昨日、フィルニアがジルを美しいと言った時。
ジルはなんだかものすごく照れてしまった。
しかし、生まれてこの方言われた中で、一番嬉しい「美しい」だった。
フィルニアは何も含みを持たせず、ただただ「美しい」という讃辞を口にした。
まだ短い時間しか一緒にいないが、彼女の紡ぎだす言葉は、どうも心にすんなり入ってくる。
丁寧ながらも率直な物言いと態度故かもしれない。
もしくは、真っ直ぐにジルを見る瞳か。
そんなことをぼんやりと考えていると、フィルニアがゆっくりとジルの方を向いた。
どうやら瞑想は終了したようだ。
「おはようございます、ジル」
ふわりと向けられた微笑みに、ジルは鼓動が速くなるのを感じた。