第2話
「……何故追われているのか、聞いても良いですか?」
「あはは、大丈夫。犯罪者じゃないから。この間の雇い主が、妾になれってうるさいだけよ」
そうため息をしながらこぼす彼女に、なるほどと納得する。
走り出す直前に、きっちり代金をテーブルの上に置いているジルを見た。
罪を犯して追われている訳ではなさそうだ。
「そろそろ宿を取ろうかしら。ね、せっかくだからしばらく一緒に行かない?」
にっこりと美しい笑みを作ったジルに、フィルニアは瞳を眩しそうに細め、頷いた。
ああ、そうか。母に似ているんだ。
夕食を食べながら、フィルニアは妙に納得した。
「どうしたの?人の顔見詰めちゃって。何かついてる?」
ジルが微笑んで訪ねてくる。
ウットリするほど美しい表情だが、残念ながらフィルニアには効果がない。
彼女の周りには生まれた時から美形が多かった。
見慣れてしまっている。
が、それにしてもジルは群を抜いて美しいな、と改めて思う。
母も美しかったが、ここまでではないだろう。
ジルがその気になれば、国一つぐらい傾けられそうだ。
「ジルは、美しいですね」
ゴトッ
「……?どうしました?」
皿を落としたジルに、フィルニアは首をかしげる。
なるほど優秀な剣士らしく、皿の中身をこぼしていない。
「あ、いや、えっと。な、なんでもないわ」
「顔が赤い。具合でも悪いんじゃ」
「ぜ、ぜんぜん!そ、それより、やっぱりフィルニアはそれだけでいいの?」
「……至って普通の量を食べているつもりなんですけどね」
「申し訳ない。手違いで、部屋がダブルブッキングしてしまいまったんです。宿代はいいですから、ひと部屋で二人泊ってもらえないですか?」
宿に戻ってみると、宿の主人が困りきってそう言った。
「得しましたね」
「……って、フィルニア、何床で寝ようとしてるのよ!?」
「何って、ベッドは一つしかないですし」
赤の他人と一緒のベッドを使う気もない。
じゃあ、おやすみなさい。と、文句ありげなジルとの会話を無理やり打ち切り、毛布に潜り込む。
床だろうが何だろうが、野宿よりはずっとマシだ。
フィルニアの意識はすぅっと闇へと落ちて行った。