第1話
「助かったわ。ありがとう」
その女は美しく微笑んだ。栗色の髪が日光にあたり輝く。
蒼い瞳はまるで空を映しこんだようだ。
「いいえ。私がいなくても大丈夫だったようですし」
もう一人の女は、銀髪が風になびいた。
碧の瞳は春の訪れと同じ色だ。
そこに画家がいたならば、間違いなくこの場面を絵に残しただろう。
そこに詩人がいたならば、間違いなく2人の詩を紡いだだろう。
フィルニアは半ば呆然としながら、向かいの美女を眺めていた。
物凄い美貌の人が、物凄い量のパスタを胃の中に納めている。
すでに3皿のパスタが消え、4皿目に取り掛かり、ついでに5皿目も注文していたりする。
「あら、あなたそれだけでいいの?足りないんじゃない?もっと食べないと、力付かないわよ。魔道士だって体力は必要でしょ?」
「私はこれで満足ですよ。ジルさん、すごいですね」
「やぁね、さん付なんてしなくていいのよ。
私の実家では普通だったんだけど。田舎だからかしらね?」
ジル、と名乗った美女は、微笑みながら小首をかしげた。
フィルニアはどういう田舎なのか、少し気になった。
数刻前、フィルニアはモンスターに囲まれている美女の助太刀に入った。
ジルの剣さばきを見る限り、助太刀は必要なかったようなのだが、彼女は義理堅くお礼に食事を御馳走すると言い張り、今に至る。
「ねぇねぇ。あなたの髪、すっごく綺麗ね。どうやってお手入れしてるの?」
「手入れは別にしていないです。ジルの髪の方が綺麗ですよ」
「やだぁ。嬉しいじゃない。」
ジルはフィルニアの銀髪をひと束手に取る。
少し引かれて、フィルニアはジルの方へ顔を寄せる。
「ごめんなさい。合図したら、一緒に走ってくれる?」
ジルは殆ど口を動かさずに、囁いた。
フィルニアは目線だけで頷き、体勢を元に戻す。
ジルはパスタの最後の一口を胃に納め、御馳走様でした。と目を閉じ、感謝の祈りをささげた。
ジルのまぶたが上がり、2人の視線が合った瞬間、2人は入口に向かって駆け出した。
「う、うわぁ!」
どうやら待ち伏せしていたらしい男3人が、2人の勢いに押されて倒れた。
初投稿となります。更新は遅めになるかと。お目汚し失礼いたしました。