祝福の鐘
久しぶりの短編です。よろしくお願いします。
「今日は結婚式よね······」
私はカレンダーを見ながらそう呟いた。
本来ならば今日は私の結婚式の筈だった。
が、1年前に全てが崩れ去った。
私ミレーヌ・ランビアは1年前までは公爵令嬢でこの国の王太子の婚約者だった。
厳しい王妃教育もこなし学院でも生徒会に入り充実した学院生活を送っていた。
しかし、私の妹であるレイシア・ランビアが入学してからおかしくなっていた。
王太子様はレイシアと一緒にいる時間が長くなり生徒会の活動をサボるようになった。
私が苦言を言っても聞く耳は持ってくれなかった。
レイシアに注意しても言う事は聞かず逆に『御姉様に苛められた』と言われ私が怒られる始末。
しかもある事無い事言いふられて私の評判はガタ落ち。
それでも卒業するまでの我慢だと思い耐えて迎えた卒業記念パーティーにて私を待っていたのはまさかの婚約破棄。
まさか妹の戯れ言を王太子様が鵜呑みにするとは思っていなかった。
更にレイシアが新たに婚約者になる、とも言われた。
いや、レイシアは王妃教育受けてませんけど?
そんなまともな意見があの場では何故か通らなかった。
私は一方的に断罪され会場から追い出された。
両親からは怒られ私は領地内にある石の塔に幽閉される事になった。
でも、ただ幽閉される訳ではなく私には『ある仕事』が言い渡された。
それは塔の最上階にある『祝福の鐘』の管理。
この鐘はお祝い事があった時に鳴らされる特別な鐘で我が公爵家が代々守り継いでいた物。
でも、それもかなり昔の話で現在は時を知らせる鐘として使っている。
この塔にやって来て私の生活は一変した。
夜明け前に起きて太陽が昇るのを確認して鐘を鳴らし、一番高く昇ったら鐘を鳴らし沈んだら鐘を鳴らす。
貴族の、しかも公爵令嬢のやる仕事ではないけど絶縁されてないだけでマシだ。
そんな生活をこの1年間ずっとしてきた。
そして本来だったら私の結婚式が行われる今日。
どうやら予定通りに結婚式は行われるようだ。
本家の様子を望遠鏡で覗いてみると両親やレイシアは笑いながら準備をしている。
······何かムカつく。
人の幸せを奪っておいて何でそんな笑顔なんだ、私は1日もあの屈辱を忘れた事は無いぞ。
嫌がらせの1つや2つしても許される筈だ。
「そういえば本来は祝福する為に鐘を鳴らすのよね、だったら鐘を鳴らすべきよね」
私は部屋にある一冊の本を手にとった。
これは鐘の鳴らし方が書いてある本でいろんな鐘の鳴らし方が掲載している。
「あった、これが祝福する時の鳴らし方ね」
私は本に書いてあった内容を記憶して時間が来るのを待った。
両親や妹は出かけて数時間後、城から花火が上がった。
「よしっ、今だ!」
私はおもいっきり鐘を鳴らした。
ゴーン、ゴーン、ゴーンと鐘が鳴り響く。
何か何時もの透き通った音色と違い濁った感じの音色だった。
私の怒りの感情がきっと鐘に伝わったんだろう。
「あぁ~、スッキリしたぁ」
全力でやったので私の中ではスッキリした。
その日の夜はグッスリと眠れた。
明けて翌日、何時もの様に夜明け前に起きて太陽が昇ったのを確認して鐘を鳴らした。
そして、本家の様子を覗いてみたら何か慌ただしい。
メイドや使用人達がバタバタと走り回っていた。
「え、何かあったのかしら?」
まさか結婚式でハプニングがあったのだろうか。
と、扉が叩く音がした。
開けてみたら血相を変えたメイドがいた。
「お嬢様! 大変です! すぐに本家にお戻りください!!」
「えっ、私は此処に幽閉されてるんだけど」
「大丈夫です! いいから早く来てください」
そう言われて私は仕方なく本家にやって来た。
「おぉっ! ミレーヌ様だっ!」
「よかった、ご無事だったんですね!」
「えっと、ごめんなさい。状況がわからないんだけど何があったの?」
メイドや使用人達は私の姿を見て泣いていた。
「じ、実は······、昨日、旦那様や奥様、レイシア様がお亡くなりになられたのです」
「へっ!? 亡くなったぁっ!?」
すっとんきょうな声を出して驚いてしまった。
「はい······、その死に方がその·······、衝撃的らしくて今、騎士団が調査をしているそうなんです」
「え、衝撃的て·······?」
「その······、頭が爆発してしまったんです」
え、爆発······?
最初に苦しみ出したのはレイシアだった。
これから誓いのキスをしようとしたその時に急に頭を抱えて苦しみだしそのままボンッ!となってしまった。
それがきっかけとなり結婚式に参加していた面々は次々と頭が爆発していった。
その中には当然王太子様も含む王族もいたし貴族の方々もいたと言う。
教会は一瞬にして惨劇の場になってしまったのだ。
そう言う訳で私が急遽戻る事になった、と言う事だ。
メイドや使用人達からは謝罪をされて私は当主代理をやる事になった。
そして数日後、私はお城に呼ばれた。
「ミレーヌ嬢、遅くなりましたが愚兄が申し訳ありませんでしたっ!」
着くなり早々謝ってきたのは王太子様の弟であるリューク様だ。
「いえあの頭を上げてください、済んでしまった事ですので。それよりもリューク様はご無事だったんですね」
「私は隣国へ留学していたので、急遽呼び戻されたんです。多分私が国王を継ぐ事になります」
「そうですか······」
「それで、あの日の事なんですが調査の結果がわかりました。まずレイシア嬢ですが結論から言えば彼女は魔族でした」
「は? 魔族!?」
「上手く人間に化けていたんでしょうね、そしてランビア夫人も魔族でした」
「お、お母様も······」
「当然ですがミレーヌ嬢とは血縁関係はありません。おそらく本物の夫人を殺して成り代わっていたと思います」
「何故、そんな事を·······」
「目的はランビア家を潰し我が国を乗っとる事だったと思います。本当に危ない所でした······」
そう言って溜め息をつくリューク様。
「どうして我が家が狙われたのでしょうか?」
「それは多分『鐘』が原因だと思います」
鐘?
「古文書によるとこの国の地下にかつて勇者に倒された魔王が封印されているそうなんですが時が経つと封印が薄れてしまい魔王を復活させてしまう。そこで勇者パーティーの1人である聖女が特殊な力を鐘に与え鳴らす事で魔王の封印を強める事にしたのです。その聖女の末裔が代々鐘を守り鳴らして来たそうなんです」
え? それじゃあ私がその聖女の血を継いでいる、と言う事?
「それで聞きたいんですが昨日の結婚式の時に鐘を鳴らしましたか?」
「えぇ、結婚式でしたから祝福を込めて特殊な鳴らし方をしました······」
まさか、それが原因であの惨劇が起こったの?
「でも、鐘の威力は魔族にしか効かないんですよね? じゃあお父様や王太子様も同じ様な死に方をするのは······」
「どうも、鐘の効果は魔に魅いられし者や邪な者にも効くようです」
そうなのか······。
結果的に私が鐘を鳴らした事で国は救われたのだ。
その後、私の名誉は回復して正式に公爵家を継ぐ事になった。
でも、相変わらず私は鐘を鳴らしている。
この国の平和に祈りを込めて······。