51話 世界統一武術大会 準々決勝 対グリエ②
(よし、一回死ぬか)
グリエと戦い始めて数十分が経つ。
メルクは死ぬのを覚悟してグリエに突っ込もうと考えた。
最悪アリアが生き返らせてくれるだろうと考えるが、アリアの蘇生魔法は一度も使った事が無いため、本当に蘇生できるかはわからない。
仮に大ダメージを喰らってもメルダから貰った指輪の効果によって一撃で死ぬことはないため、最後の攻撃を仕掛けようと思っている。
煽るグリエに対してメルクは冷静になりスキルを発動させる。
「マジカルリリース」
全魔力である810を剣に流し込み、グリエに向かって接近する。
(うぉぉぉぉ!)
メルクは剣を突き刺す構えで接近する姿を見てグリエもスキルを発動させた。
「ファイナルストライク」
両手のバトルアックスが陽炎のように揺らぎはじめる。
メルクの接近に目掛けて両手を振り上げ狙いを定める。
メルクはグリエがスキルを発動させたことにも構わず、グリエの胴体目掛けて飛び込んだ。
それと同時にグリエの両手が振り下ろされる。
(貫け!)
グリエが振り下ろしたバトルアックスより先に、メルクの剣先がグリエの胴体に届く。
突き刺した剣先は鎧を貫通させ、グリエの胸に突き刺さる。
「うがっ!」
メルクは必死な形相で全体重を剣に乗せて、より深く剣を差し込む。
とうとう刃の根元まで刺さったが、グリエの振り下ろしたバトルアックスの勢いは止まらず、メルクの背中にグリエのスキル攻撃がぶち当たる。
(うっ…)
一瞬メルクの目の前が真っ白になったが、直ぐに意識を取り戻して必死で突き刺さった剣を握った。
(ぐへっ。間違いなく体力1だな。背骨が折れて内臓も逝ったか)
メルクは吐血しながら状況を一瞬で判断する。
グリエの顔を見ると必死な形相で持ちこたえているようだ。
突き刺した剣先は心臓付近を貫いている。
メルクは気合で剣を力強く握りしめた刹那、メルクに力が漲ってきた。
メルクの全身が白く輝き、何かが発動した。
(あれ、力が湧いてきたぞ。これはなんだ…。もしかしてパッシブの『起死回生』か?)
メルクはステータスを確認したいがそんな余裕はない。
ステータスが上昇した感じがし、今まで発動したことがないパッシブ『起死回生』が発動したと予測する。
メルクは最後の力を振り絞り、突き刺さったままの剣を地に向かって振り下ろした。
「がぁぁぁっ!」
グリエの胸に突き刺さった剣がグリエの腰付近まで移動した。
グリエの胴体からおびただしい量の血が噴き出る。
(もう動けんぞ…)
メルクは剣から手が離れ、台座に膝と手を付いた。
顔さえも上げる事が出来ない状態で、グリエの状況も確認することができない。
数秒後、グリエが体が崩れ、ドスンと言う小さな音を立てて地に伏せたようだ。
グリエ付近の台座は真っ赤に染まり、誰が見ても危険な状況だとわかるレベルだ。
審判が両者に近づいて状態を確認し、両手を振り試合を終了させる。
『なんと勝者はメルク選手!』
アナウンスが響き渡ったと同時にメルクも力尽きうつ伏せで台座に伏せ落ちた。
救護班が両者に向かって走り出すと同時に、観客席の南と東から誰かが台座に降りてきた。
「グリエ!なっ、死んでるの!?『リバイバル!』」
東の観客席から降りてきたのは同パーティーのセラリスだった。
グリエは呼吸と心臓が止まっているのを確認し、すぐに蘇生魔法を放った。
グリエの全身が強く輝き出した。
数秒遅れてきたのはアリアだった。
直ぐに回復魔法をメルク目掛けて放つ。
「アルティメットヒール」
メルクの全身が輝き、メルクは目を覚ました。
隣ではセラリスが焦っているようだ。
「だめっ!生き返らない!」
グリエに向かって放った蘇生魔法だが、グリエは生き返らないようだった。
アリアがグリエの前に立ち、蘇生魔法を放つ。
「リバイバル」
同じようにグリエの全身が強く輝きだした。
「…お。俺は死んだのか」
グリエが目を覚まし状況を言葉にした。
一度蘇生魔法で生き返ったことがあったのか、直ぐに状況を理解したようだ。
「アリアさんありがとうございます!」
セラリスがアリアにお礼をしている。
(うん?どういう状況だ?)
目を覚ましたばかりのメルクはどういう状況かアリアに確認する。
ステータス画面を確認し、アリアが回復魔法を掛けてもらったことは理解した。
(ほぉほぉ、そういうことか。セラリスの蘇生魔法は効果なく、アリアの蘇生魔法で生き返ったのか)
とりあえず蘇生魔法の検証は後にして、先に立ち上がったメルクはグリエに手を差し伸べ、グリエを立ち上がらせる。
「やられてしまったな!がはは!」
アリアの蘇生魔法によりグリエの傷は塞がったようだ。
グリエは負けたことに不満はないようだ。
「メルクさんもアリアさんも凄いですね。戦いも回復もお手上げですね」
セラリスが大笑いしているグリエにパンチし、メルクとアリアを褒め称えた。
「いえいえ、今度お食事しながら情報交換をお願いいたします」
メルクはアリアが蘇生したお礼に情報を寄越せと言う。
セラリスはニッコリと笑ってグリエを引っ張り観客席へ戻って行った。
「Sランクに勝っちまったな。死にかけたけど」
「手はあれしかなかったしね」
アリアは大体メルクのしそうなことはわかっていた。
(検証することが増えてしまったな)
蘇生魔法、パッシブの『起死回生』はこれから検証しなければとメルクは思う。
場内から大きな拍手が二人に贈られる中、メルクとアリアは観客席に向かうのであった。