1話 廃人パーティー「めるふぃす」
いつもの様に、オンラインゲームの定期メンテナンス中に、溜まったペットボトルをトイレに流しに行く。
それと同時に自宅の一階に置いてある食料を漁り、自分の部屋に持ち込んでいくのである。
その男の名は、田仲剛30歳だ。
2年前に開始されたMMORPG「ワールド オブ ナイト」にのめり込む上位ランカーになる。
同時接続人数600万人を越える超ビッグタイトルだ。
ゲーム内のパーティー数は10万パーティーを超えるのである。
剛はゲームが開始されて以来、メンテナンス以外の寝食は座椅子の上である。
もちろんトイレには行かず、ペットボトルに用をたすのである。
ゲーマーからは彼のことを「ボトラー」と言われているである。
この称号は真の廃人ゲーマーのみが与えられる、ゲーマーにとっては誉められる称号になる。
『新しいイベントが始まったよー』
パーティーメンバーのアリアがいつものようにゲーム内チャットでパーティーメンバーに呼び掛ける。
剛がリーダーを努めるパーティ「めるふぃす」は4人だけの少数精鋭パーティーになる。
1パーティ最大50人となるが、戦闘での経験値が分配されるのを嫌って、少数パーティーを選択したのである。
剛のパーティーメンバーは皆尋常ではない廃人ゲーマーであるが、『ボトラー』は剛だけだ。
剛はアリアのチャットを確認し、新イベント特設ページから詳細と商品を確認する。
(えーと、今回の商品は…)
定期的にイベントが始まるが、それにはイベント達成賞品があり、限定の装備品やアイテム、賞金がもらえるのである。
パーティー「めるふぃす」は、様々なイベントで上位に入賞し賞金を稼いでるが、皆使い道なんてないのだ。
今回のイベントでは下記の通り掲載してある。
『本日から3日間限定で試練の塔イベントが開催されます。中央大陸のエスラシア帝国内に試練の塔が生成されます。上位パーティーには今まで以上の特別賞品がございますため、奮ってご参加ください』
試練の塔 到達階数 上位パーティー賞品一覧
上位 100パーティ 試練の腕輪A級、S級パーティーの称号、賞金10万
上位10パーティー 試練の武器S級、S+級パーティーの称号、賞金100万
上位3パーティー 試練の防具S級、S++級パーティーの称号、賞金1000万
上位1パーティ 異世界転生の権利(入賞者のみ個別に詳細をご連絡します)
(異世界転生の権利ってなんだ?どこにも詳細が書かれていないが?)
今までにない賞品に疑問符が上がる。
すでにゲーム内での全体チャットにてあれこれと推測が飛び回っている。パーティー内からもチャットがくる。
『今回は1位目指すぞー』
『早速いきましょう』
剛もみんなのチャットを確認してから最後にチャット打つ。
『3日間席から外すなよ』
4人が塔の前に集まり、装備・アイテムを整え準備をする。
『いっくよー』とチャットするアリアはレベル78の賢者。
『いつでもいいぞ』とチャットするレイラスはレベル79のバーサーカー。
『おう』とチャットするシグマはレベル79の魔道帝。
『アイテム・MPは最小限に』と最後にチャットするメルクこと剛はレベル82の魔剣帝。
それぞれ準備が出来たことを確認しつつ、4人一緒に塔に入る。
————2日後の朝、パーティー「めるふぃす」は298階まで到達していた。
2日目の朝に3時間だけ仮眠し、後はぶっ通しで駆け上がった。
イベントの情報は定期的に更新され、残り時間5時間で現在上位の3パーティに入っているようだが、正確な順位はわからない。
299階のボスは特級魔人1体にブラックドラゴン3体の討伐になる。
戦闘開始から既に1時間経過している。先にブラックドラゴンを3体倒し特級魔人相手に苦戦を強いられている。
『あと少しだ』
バーサーカーのレイラスがチャットする。
(時間がないからSPスキル使うか)
「SP使うぞ」
メルクがチャットする。SPスキルは1日3回しか使えない特別スキルになる。
イベント終了まで残り4時間半となるところで特級魔人を討伐する。
『ようやく倒したな』とレイラスはチャットする。
『ふひー』と同時にアリアがチャットした。
パーティーメンバー50人でのレイド戦も可能だが、ドラゴンのような大きなサイズの敵だと有効だが、特級魔人みたいな動きが速く標的が小さいと、仲間が邪魔になるケースがある。
この塔が何階まであるのかわからないが、とうとう300階にたどり着いた。
300階のボスは魔王を倒すみたいだ。
『魔王が出てきたってことはここが最後かなー?』とアリアがチャットする。
『アリア 補助魔法に シグマ 耐性確認』メルクが秒速でチャットする。
『おう』といつもどおり端的にチャットするシグマ。
強いボスになると味方に補助魔法で耐性アップを図り、シグマの各魔法でどの属性に効果あるのかをまず確認をする。
前衛2人が突っ込み、賢者のアリアが常に回復を掛け続け、シグマの魔法での遠距離攻撃。
前々作のネットゲームから一緒にプレイしているため、連携は手慣れたもので、多くのチャットをせずとも攻撃が噛み合っていく。
4人のレベルに関しても、ゲーム内では上位10人に4人とも入るのである。
『時間がないからSP使い果たすぞ』メルクが秒でチャットにて指示する。
戦闘から4時間とちょっとが過ぎ、残り時間が15分程度。最後の猛攻だ。
メルク最後のSPスキルを使い、魔王に攻撃を与える。
『よっしゃああああああああああ』とレイラスがチャットで雄叫びをあげる。
『つかれたーーーーーーーーーー』とアリアも同時にチャットが上がる。
『MPちょうど底ついた…』とシグマがチャットした。
『転移魔方陣が出たから戻るぞ』(ギリギリ終えたな)
メルクがいつも通り冷静に秒でチャットする。
塔の外へ出てきてちょうどイベントが終了したみたいだ。
それと同時にゲーム内にアナウンスが流れる。
『イベントが終了しました。結果は掲示板をご覧ください』
(久しぶりに骨のある魔王だったな…4時間超えのボスはいつぶりだろ…)
『結果見にいくぞおおおお』レイラスがチャットする。
疲れに浸っていた剛も体を起こし特設ページを開く。
(どれどれ…)
上位100~11パーティ
…… 265階
…… 265階
…… 266階
(ふむふむ…)
上位10~4パーティ
…… 290階
…… 292階
(…お?)
3位 天空の花 298階
2位 ドラゴンブレイズ 299階
1位 めるふぃす 300階
(きたあああ!)
チャットよりも口が先に動くメルクだが、レイラスは口よりも先に手が動く。
『1位だあああああああ』
『やったああああ』
『よし』
アリアと控えめなシグマもチャットする。
『異世界転生って新しいダンジョンとかにいけるとかかな』
メルクはチャットでは歓喜せず、賞品について考察する。
『これから実装される新しいワールドとか』
シグマもチャットで応対し、チャットが流れていく。
1位の賞品『異世界転生の権利』がなんなのかわからずのままイベントが終わるのであった。