第40話 ラドフォール騎士団28:神の加護をもたらす者
ジプシーの一団の挨拶が終わると早速、芸が披露された。
王家第二子であるジェラル王子は、次代の王都騎士団総長となる。
王家や貴族に芸を披露するジプシーだけあって、各国の事情に明るかった。
饗宴の主役が将来の王都騎士団総長であるから武術に関連した芸が披露された。
大人一人の身体が納まる程の大きさの木製の円盤に目元に仮面を付けた幼子が円盤に備え付けられているベルトで四肢を固定された。
8フィート程離れた場所に短剣を手にした者が構えを見せる。
準備ができると幼子が固定されている円盤が勢いよく回された。
ブゥゥン!
四肢を固定された幼子は円盤に合わせてグルグルと回る。
シュッ!!
シュッ!!
カッカッ!
8フィート程離れた場所から短剣が円盤に向けて放たれた。
短剣は幼子の両脇の下あたりの円盤に刺さる。
「おおぅ・・・・」
饗宴の間に感嘆の声が上がった。
頭に羽根飾りを付けた少女が短剣を手にする者に近づくと黒い布で目隠しをする。
円盤の幼子は回転したままの状態だ。
目隠しをされた短剣の放ち手は、頭に羽根飾りを付けた少女に手を引かれ、円盤の正面に立った。
先程と同じ様に円盤から8フィート程離れている。
円盤が更に勢いよく回転されると短剣が放たれた。
シュシュ!!
シュシュ!!
先程より2口多い4口の短剣が放たれる。
カッカカッ!!
カッカカッ!!
短剣は円盤に固定雨されている幼子の両足の間に1口、腰の左右に1口づつ、後の1口は頭上に見事に刺さった。
「おおおおぉぉぉぉ」
饗宴の間は大きな歓声に包まれる。
円盤の回転が止められ、四肢をとめた革のベルトが外されると幼子は短剣を放った者に手を引かれ、ルドルフ王と王妃、ジェラル王子の御前にかしづいた。
ルドルフ王から褒美の言葉が発せられる。
王から直々にジプシーの芸人へ褒美の言葉を賜ることは大変に栄誉なことであった。
「我がシュタイン王国へよう参られた。
楽しませてもらったぞ。短剣のさばきはまるで騎士の様であった。
受け手は王子と変わらぬ年頃と見受けるが、
声一つ上げずに大したものだと感心したぞ。そなたらの名を聞こう」
ザワッザワッ・・・・
饗宴の間にどよめきが湧いた。
王家や貴族に招かれるジプシーが王から直々に言葉を賜ることはあっても言葉を発することが許されることはない。まして、「名」を聞かれることなど考えられないことであったからだ。
「・・・・」
かしづくジプシーの芸人は己の耳を疑った。確かに「名を聞こう」と聞えた。しかし、王族や貴族の御前で名を聞かれることなど思いもよらなかったのだ。
短剣を放つ役の芸人はしばらく無言でかしづいたままの姿勢を保つことにした。
ルドルフ王は再び「名を」訊ねる。
「・・・・どうした?聞えなかったのか?
そなたらの名を聞きたいと申しておる」
ザワッザワッ・・・・
観衆のざわめきが更に大きくなった。
「静まれっ!」
シーーン
ルドルフ王の声が饗宴の間に響き渡った。
饗宴の間は一瞬にして静寂に包まれる。
「さぁ、これでそなたらの声も我の元へ届くというもの。
そなたらの名を申してみよ」
ルドルフ王の発した一言で静寂に包まれた饗宴の間で王座前にかしづく短剣を放った芸人は未だかつて味わった事がないほどの身体の強張りを感じていた。
ドクッドクッドクッ・・・・
心臓の音がこめかみに達する程の大きさで響いている。
早く王への返答をしなければならないと頭ではわかっているものの身体が強張り、喉の奥がはり付いた様で声が出せない。
ブルブルブル・・・・
身体が震え出し、汗が顎からポタポタと滴り落ちる。
呼吸を整えようと大きく息を吸った。
「バルドにございます」
名を問われ答えられずにいた短剣を放った芸人の隣でかしづいていた円盤に身体を固定されていた幼子が静かに名を口にした。
短剣を放った芸人はバルドの後に続き慌てて王に返答をする。
「はっ!失礼を致しました。ロッティにございます」
玉座の御前では聞かれたこと以上の言葉を発することは禁忌のため、名のみを答えた。
玉座の後ろで跪き、控えるダグマルがルドルフ王へ耳打ちをした。
「バルドの名は『王に神の加護をもたらす者』の意にございます。
控えの間にお導きのほどを」
「わかった」
ルドルフ王はダグマルへそっと返答すると正面へ向き直る。
「ロッティ、バルド、大儀であった。
饗宴が終わり次第、そなたらに褒美をつかわす。
控えの間にて待て。近衛に案内させよう」
「はっ!」
ロッティは震える声で呼応した。
バルドは顔を上げることなく動じる素振りもない。
ルドルフ王が静寂している饗宴の間に再び声を上げた。
「皆の者、今宵は大いに楽しむがよい。
芸の披露を続けよ。饗宴の間を皆の歓声で埋め尽くすほどに楽しむがよい」
「わあぁぁぁぁ」
饗宴の間に再び歓声が上がった。
ジプシーの一団が次の芸の準備に入る。
弓と矢じり布が巻かれた矢、輪を手にした芸人が饗宴の間の中央へ姿を現した。
饗宴の間は宴の空気で包まれている。
王座の御前に控えていたロッティとバルドは近衛兵に連れられ饗宴の間からそっと退いた。
ウルリヒはポルデュラとダグマルの様子を饗宴の間の端で見守っていた。
カーーーーン!
カーーーーン!
カチャリッ・・・・
「バルド・・・・
そなたの役目はこれからぞ・・・・堪えてくれよ・・・・」
短剣を鍛造しながら20数年前を思い返していたウルリヒは短剣をじっと見つめるとポツリと呟いた。
陽が沈み辺りはすっかり暗くなっている。
ウルリヒは鍛造した短剣6口を横一列に並べると両手をかざした。
ウゥゥゥン・・・・
ウゥゥゥン・・・・
何とも言えない音を発し短剣にウルリヒの魔力が込められる。
「剣を手にし者、剣に慈愛を願う者、
その者の根源の泉を呼び起こし、力を発する助けとならん。
相互の願いに共鳴し、別つことなく寄り添い進む。
王に神の加護をもたらす者の願い叶える助けとなれ」
ウゥゥゥン・・・・
ウゥゥゥン・・・・
呪文と共に魔力を込める。短剣は青白い光に包まれた。
ウルリヒは6口の短剣を鞘に収めると革製のナイフポケットへ丁寧に入れる。
ダグマルの初めての星読みの言の葉が頭に浮かんだ。
『王国に禍の兆し現れし時、
王に神の加護をもたらす者、天使の河に流れくる。
天使の河より救いあげ、蒼き印の元にて育むべし。
紫と六芒星に守護され、
時来れば王国の禍を払い去る。
蒼玉に愛され、月の雫を愛しむ慈愛の心が芽生えし時、
深い紫の光を宿し、先の世の救いとならん』
6口の魔力を込めた短剣が収まるナイフポケットを握りしめる。
「バルドへ事の始まりを話さねばなるまいな」
後ろで一つに結んだ銀色の長い髪を解くとウルリヒは工房を後にした。
【春華のひとり言】
いつもお読み頂きありがとうございます。
3回に渡りお届しました「バルドの真の役割」の回でした。
バルドは私の推しキャラです。
バルドがセルジオと出会うまでをすこ~しづつしたためています。
バルドファンの方がいらっしゃいましたらお楽しみにしていて下さいませ。
次回もよろしくお願いいたします。




