第34話 ラドフォール騎士団22:火焔の城塞城門2
ひとしきりセルジオと戯れたカルラは、エリオスへもセルジオと同様の挨拶をする。
エリオスはカルラの行動にセルジオ以上に困惑をしていた。
「エリオス殿!
少し背が伸びたのではありませんか?どれっ!」
エリオスを抱えて羽交い絞めにすると頬と頬を合わせる。
「おっ!頬にも厚みが出てまいりましたね!
来年の今頃にはセルジオ騎士団へ入団の年となりましょう?
その頃には抱えられませんねっ!今の内に存分に抱えておきましょう」
カルラはエリオスを高々と抱え上げるとその場でクルクルと回転をしてみせた。
「・・・・」
エリオスは挨拶もままならずどうしたものかと無言でカルラにされるがまま応じていた。
ラドフォール騎士団はその約8割が魔導士で編成されていた。
戦闘での後方支援や医術や回復術、薬草の知識に長けた者など人の身体に直接作用させる術式が多い。
その為、貴族騎士団の中でも人の身体に触れる事に躊躇がないのだ。
シュタイン王国の貴族騎士団に属する騎士は、バルドやオスカーの様に訓練施設同行従士として師の役割を担う者や守護の騎士以外は他者の身体に直接触れる事はほとんどといっていい程ない。
他者の身体に触れる事はお互いに『死』を意味することになるからだ。
慣れないカルラの出迎えの挨拶が終わるとセルジオ、エリオス、バルド、オスカーは改めて火焔の城塞への滞在許可と水の城塞でセルジオの青き血の目覚めに協力したカルラへ礼を述べた。
カルラは火の精霊サラマンダーに従ったまでのことで、危うい所をバルドに助けられたと嬉しそうにバルドとオスカーへ微笑みを向けていた。
カルラにつき随ってきた騎士の一人が横からそっと声をかける。
「カルラ様、
お話が尽きないかとは思いますが、
陽が暮れる前に今宵の宿泊先である修道院まで
到着せねばなりません。そろそろ・・・・」
カルラは不服そうな顔を話しを遮った騎士へ向ける。
「なんだっ!アンカ!
その様なこと言われずとも分っておるわっ!
客人に失礼であろう!
青き血が流れるコマンドールとその守護の騎士が
わざわざ我が火焔の城塞へ出向いて下さったのだぞっ!
挨拶にしばしの時を要してなにが悪いのだっ!」
カルラは騎士に小言を言われ憤慨した様子で腕を組むとふんっとそっぽを向いた。
が、セルジオたちが傍にいることを思い出したかのようにハッとするとバツが悪そうに姿勢を正す。
「ふんっ!
アンカの申すことも一理あるな。
セルジオ殿もエリオス殿も旅慣れてはおられぬから
疲れが出る頃合いだろう。
そなたの申す通り、そろそろ修道院へまいるとするか」
カルラはセルジオとエリオスへふふふっと悪戯っぽい微笑みを向けた。
「その前に、この者たちを紹介しておこう。
この私を主と認めておらぬ横柄な輩が
我が火焔の城塞第一隊長のアンカ。兄上と同じ水の魔導士だ」
「この者は第二隊長ヤン。
ポルディラ叔母上と同じ風の魔導士だ。
水の城塞へは炎の魔導士のみが出向いておるから
この者達は初の顔合わせとなる。
火焔の城塞に滞在中はこの者達を存分に使ってくれればよい。
アンカ、ヤン、皆様へ挨拶をいたせ」
カルラの言葉にアンカとヤンはセルジオらの前にかしづいた。
「青き血が流れるコマンドールと守護の騎士にご挨拶致します。
ラドフォール騎士団火焔の城塞第一隊長アンカ・ド・コランダムにございます。
この度のご滞在、お待ち申し上げておりました。
ご滞在中のこと、何なりとお申し付け下さい」
「青き血が流れるコマンドールと守護の騎士にご挨拶申し上げます。
ラドフォール騎士団火焔の城塞第二隊長ヤン・ド・ルベウスにございます。
以後、お見知りおき下さい」
2人は物腰柔らかく挨拶をする。
バルドとオスカーよりも年長に見えた。
セルジオはかしづく2人へ呼応する。
「アンカ殿、ヤン殿。
エステール伯爵家第二子セルジオです。
私の守護の騎士エリオス、並びに我が師バルド、エリオスの師オスカーです。
火焔の城塞での滞在のこと、よろしく頼みます」
セルジオは水の城塞を立つときにアロイスから指導を受けた挨拶を省略することを実践した。
挨拶を終えると一行はカルラを先頭に火焔の城塞城門つり橋を渡り、堅牢な城門を通り抜けた。
ガコンッ!!
ギィギギイィィィ・・・・
ガコッ!
セルジオらが通り抜けるとつり橋が上げらる音が後ろから響いてくる。
セルジオはその音に通り抜けた城門へチラリと目を向けた。
ゴゴゴゴゴーーーー
つり橋が上がり、城門が大きな丸太が括られた柵が下された。
ガコッ!
ギイィギィィイーーーー
バタンッ!
柵が下された更に内側に大きな門が閉ざされる。
火焔の城塞城門はつり橋、柵、門の三段階の頑丈な造りになっていた。
『同じラドフォール騎士団の城塞でも
アロイス様の水の城塞城門とは異なるのだな・・・・』
セルジオはセルジオ騎士団城塞、西の屋敷と造りがほぼ同じ、ラドフォール騎士団水の城塞城門と火焔の城塞城門の違いに城塞の置かれた場所で民の守り方を変える事を知った。
カコッカコッカコッ・・・・
カコッカコッカコッ・・・・
セルジオの後ろを眺める姿にバルドが微笑みを向け声を掛ける。
「セルジオ様、
何をお考えですか?
城門の違いは守り方の違いにお気づきになりましたか?」
セルジオはバルドの顔をチラリと見る。
「・・・・バルドは私の考えていることが分るのだな。
叔父上様が申されていた。
騎士団があるのは国を守り、民の暮らしを守るためだと。
その守り方を見聞せよと申された」
「民を守るのは騎士団だけではないであろう?
城塞も城門も民の暮らしを守るのに必要であろう?
この様に厳重な城門で城門の前は崖になっているというのに・・・・
それだけ侵入される危険があると言う事だろうか?と考えていたのだ」
セルジオは身体を前に戻すとカルラの背中をじっと見つめた。
「バルド、
カルラ様は女子であることを微塵も感じさせない。
力強く、それでいて優しく、頼もしいと思う。
私もカルラ様の様になりたいと思う。強くなりたいと思う」
バルドはセルジオの小さな右肩にそっと手を置く。
「セルジオ様、
少しづつでよいのです。誰かの様にでなくともよいのです。
セルジオ様はセルジオ様のままでよいのです。
強さを求めれば闇が身を寄せます。
弱さを認めれば人が集まります。
あるがままに謙虚でいることが肝要です」
「そうであった。
己の弱さを認め謙虚でいることが
皆の力を合わせられる強き騎士団団長の心得だった。
バルドの言の葉の意味が今やっとつながった」
セルジオは首を後ろへ回すと嬉しそうにバルドに微笑みを向けた。
バルドはセルジオを抱き寄せる。
「左様ですか。繋がりましたか。ようございました」
カコッカコッカコッ・・・・
カコッカコッカコッ・・・・
城壁を西に向けて進むと北へのびる道が見えてきた。
カコッカコッ・・・・
カッカッ・・・・・
「どう、どう・・・・」
先頭で手綱を握るカルラが馬の歩みを止めて後ろを振り返る。
「バルド殿、オスカー殿、
これより修道院まで早がけ致します。
セルジオ殿とエリオス殿の固定をして下さい」
どうやら一刻も早く修道院へ到着したい様だ。
「はっ!」
バルドとオスカーはセルジオとエリオスを革のベル度で固定する。
「カルラ様、準備整いましてございます」
バルドが後ろを向き、準備を待つカルラへ返答をする。
「承知したっ!では、いくぞっ!
付いてまいれっ!!ハァッ!!」
カッカカッ!!
パカラッパカラッパカッ・・・・
パカラッパカラッパカッ・・・・
「ハアッ!!」
パカラッパカラッパカッ・・・・
パカラッパカラッパカッ・・・・
一行はカルラに続き順々に早がけで修道院へ向かうのだった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
騎士団を構成する人員と役割の違いで人への接し方が異なる回でした。
今の世でも育つ環境や状況で人間関係のあり方も異なりますよね。
今も昔も変わらないものは変わらないなと感じた次第です。
次回は火焔の城塞の内部へ入ります。
アロイスとカルラ兄妹の違いが更に色濃く見えてきます。
次回もよろしくお願い致します。




