第33話 ラドフォール騎士団21:火焔の城塞城門
バルドとオスカーはそれぞれセルジオとエリオスを乗せ、早がけでラドフォール騎士団第二の城塞、火焔の城塞へ馬を走らせていた。
パカラッパカラッパカラッ・・・・
パカラッパカラッパカラッ・・・・
整えられた林道を北へ向かう。行く手が明るく感じられると先頭を走るバルドは徐々に速度を落とした。
パカラッパカラッパカッ・・・・
パカッパカッパカッ・・・・
パカッパカッパカッ・・・・
カッカッカッ・・・・
速度を落とし暫く進むと馬の歩みを止める。
「どう、どう・・・・」
ブルルルッ・・・・
カッカッカッ・・・・
大きく開けた林道の先に堅牢な城壁が見えた。
「オスカー殿、火焔の城塞城壁が見えてきました。
火焔の城塞城門はつり橋です。
橋を下してもらわねば城塞内には入れません。
城門前までこのまま進みましょう」
ラドフォール公爵家、ラドフォール騎士団第二の城塞、火焔の城塞はリビアン山脈の一つアウィン山の中腹に位置していた。
ラドフォール騎士団団長アロイスの妹カルラは火焔の城塞から麓の街までを治めている。火焔の城塞を含む所領はエステール伯爵家所領のおよそ半分の面積を有していた。
火焔の城塞の街をぐるりと囲む城壁はアウィン山とシュピリトゥス森を隔てる崖に沿って築かれている。
城壁内へは南の城門の橋を下してもらわなければ足を踏み入れることはできない造りになっていた。
ラドフォール公爵家所領に広がるシュピリトゥス森のほぼ中央に位置する火焔の城塞は光と闇の妖精の影響を最も受けやすい。
妖魔の妖、闇の影響を防ぐためにシュピリトゥス森と隔てた崖からアウィン山へ向けて街が築かれていた。
カコッカコッカコッ・・・・
カコッカコッカコッ・・・・
バルドとオスカーは並行して城門へ向けて進んだ。城門が目の前に現れる。少し先の崖から風が音を立てて登ってくる。
ゾクリッ!
セルジオとエリオスは同時に身体を震わせた。
「セルジオ様、お寒いですか?」
バルドがセルジオの身体の震えに気付き、声を掛ける。
「いや・・・・寒くない・・・・
寒くないが、身体が震えた。ゾクリとした・・・・」
セルジオは堅牢な城門に目をとめ、ありのままをバルドに伝える。
バルドはセルジオの頭をそっとなでると優しい声音で呼応した。
「左様ですか。ゾクリとしましたか。
セルジオ様、身体は正直なのです。
心が感じずとも身体は反応します」
「この様な絶壁の前に佇み、
崖より湧き上がる風を受けていれば我らとて身体が震えます。
これは自然に対する畏怖です」
「我らの力では人の力ではどうにもできないこと、
どうにもならない自然の力に我らは畏怖を感じるのです。
精霊に対するものと似ていますね。
畏れ敬うことです。
セルジオ様も畏怖を感じてみえるのですよ」
セルジオはくるりと首を後ろへ回し、バルドの顔を見る。
「そうなのか?
私も畏怖を感じたのか!
感じることができたのだな!
バルド、そのこと教えてくれ感謝もうす」
生まれて初めて浴びせられた悪意ある言葉と自身の行動とは関係なく、抱かれる嫌悪の感情をヨシュカを通してセルジオは知った。
自分自身では感じることのできない感情がこんなにも容易く人の言動に影響を及ぼすのだと初めて知ったのだ。
セルジオはバルドから『畏怖を感じた』と言ってもらえたことが嬉しく感じた。
どのような感情であれ、感じることができたことが嬉しかったのだ。
セルジオは自身が感じたままをバルドに伝える。
「バルド、畏怖を感じることができて嬉しい。
先程、ヨシュカは私を嫌いだと言った。
嫌いであるから声も聞きたくない、
顔も見たくないと言った」
「心の震えは良いことでも
悪いことでも起こるのだと知ったのだ・・・・
私はヨシュカに何かしたのだろうかと思い返してみたが・・・・
わからないのだ・・・・」
「ヨシュカのことがわからないのは
私の心が震えないからとしか思えずにいた・・・・
だから畏怖が感じられて嬉しいのだ」
セルジオはバルドへニコリと微笑みを向けた。
「セルジオ様、
心の震えも震えの感じ方も人それぞれなのです。
皆が同じではありません。
一つ一つを受け止める事も大切な見聞です。
されど、受け流すことが必要な時もあります。
今は一つ一つ、存分に受け止められませ」
バルドはセルジオの頭を優しくなでた。
ガコンッッ!!!
ギィギィィィィ・・・・
ズゥゥン!!
城壁門の橋が大きな音を立てて下りた。
ゴゴゴゴゴ・・・・
火焔の城塞城門が開くと3頭の馬に跨る銀糸で縁取られた深い紫色のラドフォール騎士団のマントを纏った重装備の騎士が姿を現した。
バルドとオスカーは早がけのためセルジオとエリオスの身体と繋いでいた革のベルトを外すと馬からヒラリと下りた。
セルジオとエリオスを馬から下すとセルジオを先頭に橋のたもとでかしづいた。
パカッパカッパカッ・・・・
パカッパカッパカッ・・・・
3頭の馬に跨るラドフォール騎士団の騎士が橋を渡り、セルジオらへ近づく。
カッカッカッ・・・・
トサッ!
ガチャ!
1人が馬から下り、セルジオへ歩みを進める。
ガバッ!!
フワリッ!
かしづくセルジオを抱き上げると嬉しそうに大きな声を上げた。
「セルジオ殿っ!!
元気そうではないか!よく参られたっ!
いや、待ちわびたぞっ!
ようこそ、我が火焔の城塞へお出で下されたっ!
歓迎いたすぞっ!」
ラドフォール騎士団団長アロイスの妹、カルラだった。
自らセルジオを出迎えにきていた。
セルジオは突然、抱き上げられ驚きを隠せなかった。
「!!!カルラ様!!
お久しゅうございます!あのっ・・・・」
抱きかかえられたまま挨拶を続けていいものか言葉を詰まらせる。
「ははははっ!なんだ?セルジオ殿。
私に抱えられるのは不服か?
ならば・・・・
このようにしてやるっ!!
ははははっ!!」
カルラはセルジオの頬へ自身の頬を合わせて羽交い絞めにすり寄せた。
「ははははっ!どうだ?
セルジオ殿っ!これでも不服か?」
カルラの言動にセルジオはされるがままに困惑した顔をバルドへ向ける。
バルドは優しい微笑みを向けていた。
『よかった。
嫌悪も憎悪も知らねばならないが、
今はまだ、今はまだ、今少しの時だけ、
この様にセルジオ様に好意を寄せて下さる方々の
お傍に寄せて頂きたいものだ』
バルドはカルラとセルジオの戯れる姿を微笑ましく思うのだった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
ラドフォール騎士団第二の城塞、火焔の城塞城門に到着致しました。
やっとたどり着いた感じがしています。
置かれた立場と状況で考え方も受け止め方も変わるのが人間だなと感じています。
セルジオがこれから体験していくであろう正論だけでは通らない『感情』という代物にどうか翻弄されません様に・・・・
次回もよろしくお願い致します。




