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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第1章:前世の記憶の入口~西の砦の攻防とサファイアの剣の継承~
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第8話:再会の約束

金色に輝く光の(たま)が山小屋に広がる。炎からセルジオを包み込み守っていた。


オーロラが発した金色の光の珠の中でセルジオは地鳴りを感じた。ふっと笑う。


『全て、思惑通りだ!先鋒隊はせん滅するっ!』


ガチャッ!ドサッ!


セルジオは膝をつくと左手に握るサファイヤの剣を床に突き立てる。


「ふぅ・・・・はっ、はぁ、はぁ・・・・」


身体が重く、立つこともままならない。


「・・・・毒か・・・・

矢に毒を仕込んでいたか・・・・ふぅ・・・・」


一つ深い吐息をもらすと傍近くにいるであろうオーロラへ語りかける。


「オーロラ、すまぬ・・・・

いや、感謝申すぞ。どうやら私はここまでのようだ・・・・」


セルジオは顔を少し上げると宙に微笑みを向けた。くすりっと笑う。


「はははは・・・・オーロラ、

炎と毒矢だ・・・・またしても最後は炎と毒矢であった。

初代様と同じだな・・・・」


毒が回り、オーロラの炎で止血をしたとはいえ、切り落とされた右腕からは相当量の出血があったはずだ。

朦朧とする意識の中でセルジオは目を閉じ、何かを思い返している様だった。


『セルジオ・・・・』


ピクリッ!


オーロラが名を呼ぶ声に反応する。


「・・・・オーロラ、初代様の時代と同じ最後となった・・・・

されど、そなたもエリオスも無事だ!よかった・・・・」


傍らにオーロラを感じながら激しくなる炎の中でサファイヤの剣を(さや)へ納めた。セルジオが手にしている剣はエステール伯爵家の騎士が継承するものだった。


エステール伯爵家裏の紋章ユリの花を模した柱頭(ちゅうとう)部分にサファイヤが埋め込まれている両刃(りょうば)の剣だ。


ガチャッ!


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」


鞘におさめたサファイヤの剣をやっとのことで腰ベルトごと外す。


じっと愛おしそうにサファイヤの剣を見つめた。

紋章部分にそっと口づけをする。剣を見つめ話しかける。


「はぁ、はぁ、よ・・・くぞ、今まで・・・・

ふぅ・・・・私と・・・・共に

戦ってく・・れた・・・・礼を・・申すぞ・・・・」


セルジオは左腕でサファイヤの剣を抱えると今一度、ユリの花の紋章部分に口づけをする。


『ここで、この剣を失ってはならぬっ!』


サファイヤの剣に別れを告げると革のベルトごと吹き飛んだ窓からクルミの樹へ向けて投げた。


ブンッブンッブンッ!


ザッザッ!


サファイヤの剣は勢いよく回転しながら炎を切り裂く様に窓からクルミの樹へ向け空を舞った。

セルジオは胸に左手を置き祈った。


『かかってくれ!クルミの幹へかかってくれ!』


ファサッ!


音がした様に感じたが炎の勢いが強く見えない。

傍にいるであろうオーロラに息も絶え絶えに問いかける。


「オー・・・・ロ・・・・ラ・・・・

オーロラ・・・・つ・・・・剣・・・・は・・・・」


オーロラはセルジオの言葉を(つな)いだ。


『セルジオ、大丈夫よ。

サファイヤの剣はクルミの幹が受け取ったわ。安心して、大丈夫よ』


セルジオはふぅと一つ吐息を落とすと優しく微笑み(うなず)いた。

セルジオは心の中でエリオスへ言葉を発する。


『エリオス!エリオスっ!万が一になった。

すまぬっ!私は戻れぬっ!後は・・・・

後を頼むぞ。王国をセルジオ騎士団を頼むっ!』


左手を胸にあてる。幼い頃、守護の首飾りだと月の(しずく)を授けられてから身に付いている仕草だった。セルジオははっとする。


アンに守りとなるからと月の(しずく)の首飾りを託したことを思い出した。


『アンに月の(しずく)を託してよかった。失わずに済む。

我らの我ら4人の守護の首飾りだからなっ・・・・よかった』


セルジオは身体を支えていることがやっとの状態だった。最後の力を振り絞ると金色の光の珠の中で青白い炎がセルジオの身体から湧きたった。大きく息を吸うとオーロラへ語りかけた。


「オーロラ・・・・

そなたは無事か?北戦域で無事なのか?」


『私は無事よ。安心して』


オーロラが耳元で囁くその声に業火の中で安らぎを感じた。


『優しい騎士様ね』


オーロラと初めて会った時の言葉が胸の奥で響く。


「オーロラ、私はそなたに会えて変わった。

心を持たない青き血が流れるコマンドールが心を持つ事ができた。

礼を申す。そして・・・・」


セルジオは胸からこみ上げるものに言葉をつまらせた。一呼吸置く。


「・・・ずっと・・・・

100有余年前から・・・・ずっと・・・・愛している」


伝えられずにいた言葉を放った。

そっとオーロラの声が耳に届く。


『ずっと、ずっと、

セルジオの想いは伝わっていたわ。ありがとう』


セルジオは大きく息を吐いた。幸せそうな微笑みを宙へ向ける。


「ありがとう・・・・か・・・・

オーロラっ!ここまでだっ、来世で会おうぞ!」


姿なく傍にいるオーロラに愛おし気な眼差しを向け、力強く言う。


腰につけている蒼玉(そうぎょく)の短剣に左手を伸ばす。


『私はオーロラの笑顔が愛おしかった。

時が許すならずっと見ていたかった。

ただ、それだけでいい。

多くの者を手にかけた私が願うただ一つのことだった』


セルジオの頬を涙が伝う。


蒼玉(そうぎょく)の短剣を手に取るとじっと見つめた。蒼玉(そうぎょく)短剣はセルジオが生まれ落ちた時からの師の忘れ形見(がたみ)だった。


『バルド・・・・わが師よ。

最後を共に・・・・感謝申しますっ!』


蒼玉(そうぎょく)の短剣を逆手に持つ。


グッッ!ズハッ!


左喉へ突き刺すとそのまま後ろへ喉を切り裂いた。


ブシュッッッ!


金色の光の珠の中にセルジオの喉から吹き出す血液が綺麗な放射線を描き広がった。

オーロラはセルジオの最後を看取るとぽつりと呟いた。


『セルジオ、独りではないわ。

旅立つまで、天に召される時は独りではないわ。

エリオスと私とで見送るわ。安心して・・・・

そして。来世も必ず会えるわ。

会えばひと目であなただとわかるわ。

あなたも私だとわかるわ。

だから、ほんの少しの時を離れるだけ・・・・』


ボワッ!


オーロラは金色の光の(たま)の中を真紅の炎で満たし、セルジオの身体を焼き尽くした。


山小屋の外ではヤギンス率いるスキャラル国先鋒隊が留まっていた。


「ヤギンス様っ!もう無理でございます。

早くっ!ここから離れて下さいっ!」


騎士に両脇から抱えられたヤギンスは燃えさかる山小屋を呆然(ぼうぜん)と眺めていた。


『好機が訪れたっ!

セルジオを盾に戦わずして王都まで行けるやもしれぬ!』


ヤギンスの思惑は見事に崩れ去った。突如、強い風が山から流れてくるのを感じ、目を向ける。


『何だ?あれは?水龍(すいりゅう)?』


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


思った瞬間、最後尾の槍隊が濁流(だくりゅう)に飲まれるのが見えた。


「水だ!水が山より襲ってきますっっっ!」


強い風と轟音(ごうおん)と共に辺りの樹木を巻き込みながら大量の水が流れ落ちてきた。


「わぁぁぁぁぁぁ!!!」


みるみる槍隊が崖めがけて一気に流されていく。


「ヤギンス様っ!お逃げ下さいっ!」


剣隊がヤギンスを逃がそうとするが時すでに遅かった。


ガバァァァァ!ザアァァァァ!


水龍(すいりゅう)の口が大きく開くと炎に包まれた山小屋を飲みこんだ。

そのまま一旦大きく上昇すると再び大きな口を開けヤギンスの頭上に迫る。


『・・・・』


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


グシャァァァァ!


ザバァァァァァ!


ヤギンスらスキャラル国、ジークフリード先鋒隊は山より出でた水と共に滝となり、シュタイン王国とスキャラル国の境にある崖の底へ消えていった。



三つの堤を切り眼下の西の砦と西の森を見ていたエリオスは再び号令をかける。


「第一、第二、第三の堤の門を降ろせっ!」


「キューキューキュー」


号令と共に鹿の声の合図が飛んだ。水かさが引き始める。

エリオスが再び隊へ号令をかける。


「これより我が隊は、西の砦へ向かう!

敵方(てきがた)残党(ざんとう)あらば全て始末しまつせよっ!

弓隊より先鋒!剣隊!槍隊に順次続けっ!」


エリオスは号令をかけ終ると傍らのシュバイルとサントへ声を落としそっと指示を出す。


「シュバイル、サント、そなたらは西の森の山小屋へ向かえ。

山小屋は流れたが、セルジオ様が近くにおいでやもしれぬ。

隊の皆には気取(けど)られぬ様に行けっ!」


セルジオの安否を2人に託した。


「はっ!承知致しました。

西の森入口付近まで確認してまいります」


シュバイルがサントと共に西の森に向けて駆け下りていった。



エステール伯爵家領南門より行軍したミハエルは西の砦までの中頃で爆発音と共に西の森から煙が上がるのを見た。


『山小屋が燃えたか?』


そう思った時、淡い灰色の美しい馬が走ってくるのが目に入った。


『あれはセルジオ様のアリオンか?』


ミハエルは胸騒ぎを覚える。


「行軍!止まれっ!暫時(ざんじ)道傍で待機っ!!」


ミハエルは隊列を一旦止めると自身の馬から降りた。アリオンはミハエルを見つけると左道傍で歩みをとめた。ミハエルがアリオンに近づき声をかける。


「アリオン、そなたの主はいかがしたか?」


アリオンはミハエルの瞳をじっと見つめていた。


「炎が出たらエステールの城へ戻れと言われたか?

では、我らが通り過ぎたら城へ戻るがよい。今しばらく待て」


アリオンはミハエルの瞳を見つめ耳をそばだてていた。

ミハエルは再び自身の馬に(またが)ると号令をかける。


「行軍っ!!進めっ!!」


ミハエルは西の砦へ行軍を進めた。暫くすると地響きを感じる。隊が騒めく。


『堤を切ったかっ!』


ミハエルは隊の動揺を鎮める為、アドルフへ伝令を申しつけた。


「アドルフ、後方隊へこのまま進軍する旨を伝えよ。

今の地響きは策だ。エリオス様が堤を切ったのだ。

西の森入口にて我が隊は待機する」


ミハエルはセルジオの愛馬が戻ってきた事を良い知らせではないと直感していた。アドルフは馬上で手綱を引きながら呼応する。


「はっ!承知致しました。その旨伝令致します」


「頼むぞ。そなたが戻り次第、私は先に西の森へ向かう。

アドルフは隊を引き連れてくれ」


ミハエルはセルジオの安否を隊全体に気取られぬ様、西の森へ急ぐのだった。


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