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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第28話 ラドフォール騎士団16:影の部隊

ピチュピッピピッ・・・・

ピチュピッピピッ・・・・


ピイィィィィ・・・・


バサッバサッバサッ!!!


『う・・・ん?・・・・カイの羽音(はおと)か?』


ゴソッ・・・・


鳥が勢いよく飛び立つ羽音(はおと)にそっと目を開けると真っ白な衣が目の前にあった。


ゴソッ


セルジオは右手で真っ白な衣を触る。暖かい。

バルドの(ふところ)だ。


「セルジオ様、お目覚めになりましたか?」


頭の上からの声に首を上へ向けるとバルドが優しい眼を向け、背中をトンットンットンッと3つ叩いた。


「・・・・バルド・・・・ここは・・・・」


一瞬、己がどこにいるのか分からずぼんやりとバルドの顔を眺める。

バルドはふっと愛おし気に微笑むとセルジオの後頭部をそっとなで答えた。


「ラドフォール騎士団、水の城塞(ふもと)の修道院にございます。

昨日、水の城塞地下階段を下り、夕刻の礼拝前に到着しました」


「セルジオ様は夕刻の礼拝が終わりました途端に

倒れる様に眠ってしまわれて・・・・驚きました。

アロイス様が診て下さり、眠られているだけだと

仰るのでそのままベッドでお休み頂きました」


「昨日は焼き菓子を一欠片(かけら)召し上がっただけですから

お腹が空いたのではありませんか?」


シュタイン王国は一日二食が一般的で朝食は摂らない。昼食を多めに摂り、夕食は軽食程度だった。


セルジオは荷造りに時間を取られ、用意された昼食を摂れずにいた。エステール伯爵家セルジオ騎士団城塞、西の屋敷を出る時に料理長のオットーから渡されて堅焼きの焼き菓子を一つ口にしただけだったのだ。


バルドはセルジオの後頭部をなでる手を止めずに問いかけた。

セルジオはしばらく記憶を辿る仕草(しぐさ)をする。


「・・・・!!!」


カバッ!!!


何かを思い出したのかセルジオは飛び起きた。


「アっ、アロイス様は!アロイス様は水の城塞にお戻りになったのか?」


アロイスの先導で水の城塞地下階段を2時間程下り、夕刻の礼拝に共に参列していたことを思い出したのだ。

バルドはゆっくりと身体を起こすとベットの上に両手を付いて座っているセルジオの髪を整えながら答える。


「セルジオ様、ご案じなさいますな。

アロイス様も昨夜はこちらの修道院で過ごされました。

夕刻の礼拝の後、修道院の者と隣の孤児院の子らと

共に夕食を摂られて、隣の部屋で休んでみえます」


「エリオス様とオスカーもアロイス様と同席し、

向かえの部屋を使っています。

そろそろ、朝の訓練の時間になりますから

支度(したく)の最中かと。

セルジオ様はいかがいたしますか?

今朝の訓練はお休みにしますか?」


バルドが珍しく訓練をするかしないかの確認をセルジオにする。

戦闘は日々の訓練の成果が一番に表れる。訓練を(おこた)る者から死んでいくと人一倍セルジオに厳しく訓練を怠ることのないよう指導するバルドの言葉とは思えずセルジオは首をかしげる。


「・・・・バルド、どうしたのだ?

訓練を休むなどと・・・・具合が悪いのか?」


セルジオはバルドが体調を崩しているのではないかと心配になった。


ゴソッゴソッ・・・・

ピタッ


セルジオはバルドに近づき、バルドの胸に左耳をあてる。


トクンットクンットクンッ・・・・

すぅぅぅふぅぅぅ

すぅぅぅふぅぅぅ

すぅぅぅふぅぅぅ


胸の音も呼吸も赤子の頃から聴いている規則正しい()が聞こえる。

バルドは自身の胸に左耳をピタリッとあてたセルジオをそっと抱きしめる。


「セルジオ様、私は大事ございません。

今日はラドフォール騎士団第二の城塞、

火焔(かえん)の城塞へ向けて出立します」


「昨夜も何も召し上がらずにお休みなりましたし、

朝の訓練をこのまましますとセルジオ様のお身体がもちません。

今、無理をされると後々の貴族騎士団巡回に支障をきたすかと思われます」


バルドはセルジオの小さな身体をぎゅっと抱き寄せる。


「セルジオ様、王国内とはいえ、初めての旅が長旅です。

遠征(えんせい)に向かうのと同様に長旅で無理は禁物なのです。

充分に体力、知力を温存することが戦闘の一番の備えとなります」


「各貴族騎士団城塞に滞在の折は他家の騎士団へ

セルジオ様とエリオス様のお姿を魅せるために

訓練を(おこた)ることはなりません。

しかし、騎士団城塞でない場所での滞在の場合は、

訓練を休んでもよいと考えています」


「エリオス様とオスカー殿にもその様に伝えてあります。

まして、昨夜の様に倒れる様に眠ってしまわれることなど

今までありませんでした。よほど、気をはっていらしたのでしょう」


「身体は正直なのです。

普段、眠りが浅いセルジオ様が昨夜から今朝まで

一度も眼を覚まさずに眠ってみえました。

眠る事は何よりの薬となります。

セルジオ様のお身体の加減に気付かず申し訳ありません。

セルジオ様に無理をさせました」


バルドは更に強くセルジオを抱きしめる。

セルジオはバルドの真っ白の衣を握り、申し訳なさそうに答えた。


「バルド、感謝申す。

私が皆と同じ様にできないからであろう?バルドを困らせた。

私はできないことばかり、知らないことばかりだ」


「バルドの申すままにする。

初代様にも言われているのだ。

バルドの申すことをよくよく聞き、

バルドの申す通りに行ってみよと言われているのだ。

バルドの申す通りにする。

だから私のために困らないでくれ。頼む。バルド!」


セルジオはバルドの胸に顔をうずめる。

バルドはセルジオ騎士団城塞、西の屋敷を出発してからの3週間でセルジオが大きく成長していると感じていた。


特に他者と自身を比較すること、他者の言葉から己の行動を探ること、周りの動きに協調すること、この3つは訓練施設や西の屋敷で過ごしていた時には見られなかったことだった。


「セルジオ様、私は何も困ってはおりませんよ。

セルジオ様は赤子の頃より何事にも真剣に取り組まれてみえます。

お身体の加減も今はまだお解りにはなりますまい」


「私がセルジオ様のお加減をよくよく視なくてはならないのです。

これはバルドの役目にございます。

セルジオ様に心身共にご成長頂くことをお助けすることが

守護の騎士の役目でもあるのです。

困ってなどおりません。ご案じなさいますな」


バルドはセルジオを抱きしめ大切なものを包み込む様な声音(こわね)で答えた。

セルジオはぎゅっとバルドの懐の衣を握り、胸に顔をうずめ礼を言う。


「バルド、感謝申す。これよりも頼む・・・・」


コンッコンッコンッ


扉を叩く音が聞こえた。


「セルジオ様、エリオス様かと思います。

セルジオ様が突然に眠られて、心配をされていました。

涙を目に一杯に浮かべて、ご病気ではないかと

様子を診て下さったアロイス様に詰め寄ってみえましたので・・・・」


バルドはセルジオを抱き上げると扉へ向かう。


コンッコンッコンッ!!


先程よりも強めに扉を叩いている。


「はい、ただ今、お開けします」


バルドが扉へ向かい呼応すると扉が開くのが待ちきれないと言った様子の声が聞えた。


「バルド殿!

おはようございます。

エリオスです!エリオスです!セルジオ様は・・・・」


ガチャリッ


エリオスがセルジオの名を呼んだところでバルドは扉を開けた。


開いた扉からバルドに抱えられたセルジオを目にするとエリオスは顔をほころばせる。


「セルジオ様!!

おはようございます!よかった!

お目覚めになられたのですね!あぁ、よかった!」


バルドに抱えられているセルジオに飛びかからんばかりに大声をあげた。

後ろにつき随っていたオスカーがエリオスを(たしな)める。


「エリオス様、

まだ、皆様はお休みの時間帯です。

もう少し、お声を小さく・・・・」


エリオスはしまったと言った仕草(しぐさ)で口を(おお)う。


バルドとオスカーはエリオスのその仕草がたまらなく愛おしく感じた。

セルジオの事が心配でたまらず恐らくぐっすり眠れなかったのであろう。目が赤く珍しく眠そうな顔をしている。


バルドは抱えていたセルジオをエリオスの前に下した。


ストンッ


セルジオはエリオスをじっと見つめるとふふふっと微笑みかける。


「エリオス、心配をかけた。もう、大事ない。

安心してくれ。今朝は訓練を休むことにする。

訓練は休むが朝の礼拝には出る。修道院だからな。

修道院の決まりに従う。エリオスもそうしないか?」


エリオスは訓練支度を整えていたが、セルジオの申出にオスカーの顔を見る。

オスカーは優しく微笑むと(うなず)いた。

エリオスは訓練を休むオスカーの許可が出たと受け取るとまたも顔をほころばせる。


「セルジオ様、

ご一緒させて頂きます!今朝の訓練は私も休みます」


バルドがオスカーに提案する。


「オスカー殿、

我ら身支度を整えましたらアロイス様へ今後のことを

ご相談しにまいりませんか?昨夜、お話しました通り・・・・

あっ、まだ、皆様、お休みの時間帯ですね。

こちらで話していては皆様のご迷惑なります。

ひとまず、部屋へお入りください」


バルドは扉口で立ち話をしていたことに気付き、エリオスとオスカーを部屋へ招き入れた。


「はい、そうさせて頂きます」


オスカーはエリオスの背中にそっと触れると部屋へ入る様に(うなが)す。


パタンッ


バルドは扉を閉めると壁際にある文机(ふづくえ)の椅子をベッドの前に置いた。オスカーへ腰かける様、すすめる。


「エリオス様は我らとベッドへ腰を下して下さい。

椅子が一脚しかございませんから不便をお掛けします」


バルドはセルジオとエリオスをベッドの(へり)に腰かけさせると自身はオスカーの前に座った。


「身支度もせぬままに失礼をお詫びします」


バルドは(かぶ)りの真っ白な寝間着のまま話しをすることを詫びる。

普段は、寝間着を身に付けることはまずない。軽装備の(よろい)を脱ぐだけで衣服のまま横になる。騎士や従士の中ではいついかなる事態になろうと素早く戦闘態勢につくことはしごく当たり前のことだ。


修道院は非戦闘区画とされていた。アロイスから非戦闘区画では寝間着を着て休む様にと散々に言われ、バルドはしぶしぶ寝間着に着替えて横になったのだった。


セルジオはバルドがオスカーに寝間着でいることを詫びて初めてバルドの着衣に気付く。バルドは常時、真っ白なシャツを着ていた為、上半身が変わらず寝間着であることに気付かなかったのだ。


バルドの寝間着姿をバルドの隣で座り、まじまじと()る。


「・・・・バルドは・・・・

何を着ても美しく着るのだな・・・・」


セルジオはポツリと呟いた。


バルドはえっと少し驚いた表情をセルジオへ向ける。


「美しいですか?セルジオ様、寝間着でございますよ・・・・」


セルジオは無意識の内に出た言葉にあっとバツが悪そうな顔をバルドへ向けた。


「いや・・・・すまぬ・・・・

それでも、マントを纏う姿も、湯に浸かる衣服も、

寝間着も美しいと思うのだ・・・・」


「私も美しいと思います!」


エリオスが呼応した。


「バルド殿もオスカーも何を着ても美しいと思います。

セルジオ様っ!沢山に肉を食べましょうね!

背丈が高くなればバルド殿やオスカーの様に

美しく衣服が着れると思うのです」


オスカーがふふふっと笑う。


「そうですか。私もその様に仰って頂けるのですね。

バルド殿、日々の訓練のお話しがされたかったのではありませんか?

昨夜、バルド殿からお話しを受けまして考えていました」


「騎士団城塞以外での滞在の折は、

姿勢と柔軟の訓練としてはいかがでしょう?

セルジオ様もエリオス様も衣服を

美しく着こなしたいと仰っています」


「背丈の高さもありますが、それ以上に姿勢の正しさと

自在に身体を動かすことができうる柔軟性が必要です。

姿勢と柔軟であれば滞在している部屋でもできます。

いかがですか?」


セルジオとエリオスは美しく衣服を着こなせると聞き、眼を輝かせる。


「そうなのか!

肉を食さなくとも・・・・いや、そうではない。

姿勢を正しくし柔軟があれば美しく纏えるのだな!」


セルジオは肉を食さなくてもよい方法があるのだと嬉しそうに言った。


「セルジオ様、

背丈は肉を食さねばなりませんよ。

訓練の行い方をオスカーは申しているのです」


エリオスがセルジオを(たし)める。


「そっ・・・・そうか。

わかった。肉は、別なのだな。わかった・・・・」


セルジオは残念そうに口を閉じた。


バルドがオスカーの訓練方法の提案に賛同する。


「オスカー殿の仰る通りですね。

野営(やえい)をすることはないかと思いますので、

騎士団城塞以外で滞在の折は、姿勢と柔軟の訓練と致しましょう。

特に俊敏(しゅんびん)に動くには

柔軟性はなくてはなりませんから。その様に致しましょう」


「後はアロイス様と今後の合流のお話しですね。

アロイス様がお一人、臣下の方を我らに同行させると

仰っていましたから、同行して下さる方との合流地点と

アロイス様との合流時期と場所を伺わねばなりませんね」


オスカーが少し思案気な表情を浮かべ、左手を(あご)に添え床を見つめた。オスカーが考えを巡らす仕草だ。


バルドはオスカーの様子に自身の考えを伝える。


「オスカー殿、

アロイス様が同行をと仰って下さる臣下の方をお考えですか?

騎士や従士ではなく、なせ臣下(・・)と仰るのかと・・・・」


オスカーはバルドの言葉に顔を上げる。


「はい、左様です。

水の城塞の騎士か従士であればその様に仰るはずかと・・・・

あえて臣下(・・)と仰るからには別動隊を

ラドフォール騎士団はお持ちなのかと思いまして・・・・」


バルドはオスカーの問いに(うなづ)く。


「オスカー殿のお考え通りです。

別動隊と申しますか、かつて個別で他国の情勢などを探る役目を

担っておりました私の様にラドフォール騎士団にも

諜報(ちょうほう)を専門としている部隊がございます」


「私は個での活動をしておりましたが、

ラドフォール騎士団は部隊で活動しています。

『ラドフォールの影』と呼ばれる部隊で

その全体像と内情はラドフォール騎士団団長のみが知る秘密裏の部隊です。

シュタイン王国の東に起こった歪みを正すと言う事は

『ラドフォールの影』を動かされるかと思います」


バルドは少し険しい表情で各貴族騎士団の騎士と従士以外の部隊の話をした。


「そうでしたか。

噂には聞いていましたが、

その様に大掛かりな部隊が存在するとは・・・・

それほどに・・・・秘密裏の部隊が動かねばならぬ程に・・・・

シュタイン王国国内であるのに、まるで他国との戦う準備のようですね」


「はい、それほどに事は重大で、

しかも細心の注意が必要なのでしょう。

我らも慎重に動かねばなりません」


バルドは隣に座り黙って話しを聴いているセルジオとエリオスを見ると2人の頭をなでた。


「セルジオ様、エリオス様、

これよりの旅が安全と言えますのは

ラドフォール公爵領までになりそうです。

じっくりと体力と知力を温存しておかねばなりません」


「無理は禁物です。

少しでもお加減が悪くなるようであれば即お知らせ下さい。

よいですね!」


バルドはセルジオとエリオスに念を押した。

セルジオとエリオスは素直に呼応する。


「承知した。何事もバルドとオスカーに直ぐに伝えるようにする」


「承知しました。私も我慢は致さぬようにします」


話しの区切りがつくとバルドは立ち上がり身支度を整える様、セルジオへ言う。


「セルジオ様、身支度を整えましたら水屋で顔を流しましょう」


オスカーも立ち上がり、エリオスに手を差し出す。


「エリオス様、我らは先に礼拝堂へまいりましょう。

バルド殿、礼拝堂でお待ちしております。

アロイス様へのお話は礼拝が終わりましてからに」


「はい、オスカー殿、承知しました。では、後ほど」


パタンッ


エリオスとオスカーは部屋を出ていった。


セルジオは身支度を整え始める。


ガサッガサッ

パサッ


寝間着から衣服へ着替えるバルドの背中へ目を向ける。

心なしかバルドの背中が殺気だっている様に見えた。


『これよりの旅でバルドをエリオスやオスカーを困らせないようにしたい』


セルジオは己の為に周りが危険にさらされることがあってはならないと強く思うのだった。


いつもお読み頂きありがとうございます。


ラドフォール騎士団が抱える諜報活動専門部隊の存在が明らかとなりました。


セルジオとエリオスは訓練施設や騎士団城塞がいかに安全な場所であったかを思い知らされる事になります。


次回もよろしくお願い致します。


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