第24話 ラドフォール騎士団12:制御の兆し
ラドフォール騎士団、水の城塞に滞在し、2週間が経った。
シュタイン王国の北西から北方、北東に位置するラドフォール公爵領はリビアン山を含むリビアン山脈の中腹に3つの騎士団城塞を配置している。
ラドフォール騎士団、第三の城塞、水の城塞は真冬になると辺り一面雪に覆われる。そのため雪深くなる前に各貴族騎士団巡回の最初の巡回先としたのだった。
10月24日にエステール伯爵家セルジオ騎士団城塞、西の屋敷を出立した。11月に入り、時折雪が舞い降りてくる。
バルドとオスカーは水の城塞の滞在期間を当初2週間とアロイスへ願い出ていた。
しかし、セルジオの『青き血』が真に目覚めたことで、アロイスへ相談し当初の予定を1週間延ばすことに決めていた。
2週間の間、アロイスから依頼された剣術と弓術の訓練が夜明けと共に毎日行われた。
夜が明けると訓練場に木の剣が交じり合う音と矢を射的へあてる音が響く。
総勢150名いるラドフォール騎士団水の城塞の
騎士と従士が一斉に剣術と弓術の訓練を受けるのだから訓練場は熱気に包まれていた。
セルジオは戦闘態勢に入ると己の意志とは関係なく身体から湧き立つ『青白い炎』の制御の方法をバルドとアロイスから学んでいた。
カンッカンッ!!!
カッカッカカンッ!!
ザザッ・・・・
ガツンッ!!
ブワッ!!!
ドスッドスッドスッ!!!
カッカッカッ!!!
スバッ!
ラドフォール騎士団団長アロイスとセルジオの剣術の手合わせが訓練場の端で容赦なく行われている。
アロイスは魔術と剣術の合わせ技でセルジオを翻弄する。
木の剣を交え剣術から入る。態勢が不利だと見ると後ろへ下がり、氷の塊を矢の様に浴びせる。
セルジオは氷の塊をよけるだけで精一杯だった。
「はっ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
ブワッ!!!
ドスッドスッドスッ!!!
カッカッカッ!!!
スバッ!
「くっ!!!」
ブワッ!
何度となく浴びせられる氷の塊に無意識に『青白い炎』が勢いよく湧き立った。
「そこまでっ!」
バルドの号令でアロイスとセルジオの手合わせは終わる。
セルジオが無意識に『青白い炎』を湧き立たせた瞬間に手合わせを終える合図としていた。
「ふぅ・・・・」
アロイスが額の汗を手の甲で拭い、セルジオに近づく。
「セルジオ殿、
青白い炎が湧き立つ瞬間にお身体はどのような反応をしますか?
青白き炎が湧き立つ感覚はお身体で感じることができますか?」
セルジオは大きく両肩を上下させ、呼吸を整える。
「はっ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・
ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・・」
アロイスの問いに左斜め上を見て身体が感じたことを思い返す。
この2週間、一向に制御ができる兆しが現れないが、どのように青白い炎が発動するのかを掴みかけていた。
「・・・・最初は額が熱く感じます。
戦闘が続くとです。額が熱くなり・・・・
その熱さが・・・・耳から後ろに広がっていくのです。
後は・・・・背中から、両腕の後ろの背中から何かが吹き出す感じがします」
ブワッ!!
アロイスの問いに答えているとセルジオの身体から青白い炎が勢いよく湧き立った。
「ふぅぅぅぅふっ!」
ブワッ!
シュン・・・・
アロイスが左手2本指を唇にあて、大きく左へ払うと青白い炎は消えた。
「セルジオ殿、
戦闘態勢でなくとも青白い炎を湧き立たせることができましたね。
今、ご自身の意志で湧き立たせたのです。
今の様に身体がどのような反応をしているかを
感じることができて初めて制御を学ぶことができます。
ここからですね」
アロイスはニコリとセルジオに微笑みを向けた。
「後は、セルジオ殿が赤子の頃よりバルド殿から学ばれている
呼吸を力の開閉と切替に活かせばよろしいかと。
私のこれと同じです」
アロイスは左手2本指を唇にあて、ふっと息を吹きかけると左へ払って見せた。
「そうですね・・・・
私の場合は戦闘では魔術が基本となりますから
指で開閉と切替を致しますが・・・・」
「セルジオ殿は・・・・
青き血が流れるコマンドールは双剣術・・・・
剣を開閉と切替に使われてはいかがでしょう・・・・」
アロイスはセルジオの腰に装着されている短剣を鞘から抜いた。セルジオに短剣の柄を握らせる。
「セルジオ殿、
|短剣の剣先を空へ向け、柄を両手で握って下さい」
アロイスは木製の剣をセルジオと同じ様に剣先を空へ向け両手で柄を握った。
「額が最初に熱くなるのですね。
短剣の刃の中心を額の位置で留めてみて下さい」
セルジオはアロイスに言われた通り、両手で短剣の柄を握ると刃の中心が額に位置する所で静止した。自身の顔が刃に映りこんでいる。
「そこで、先程の様に想像してみて下さい。
青白き炎が湧き立つ最初は額が熱くなる。
その熱を帯びた額を短剣の刃に映してみてください」
セルジオは自身の顔を映る短剣の刃に額に熱を集中させ映す。
ボッ・・・・
額にうっすら青白い炎が宿ると短剣の刃に感じたままの姿が映し出された。
「・・・・セルジオ様・・・・額に青白い炎が・・・・」
セルジオの正面に立つアロイスから斜め右横にいたバルドがセルジオの様子を口にする。
アロイスはよしっと言った表情で続きを示した。
「セルジオ殿、刃に映っていますね。
今、青白い炎が開かれました。次は切替をします。
短剣の刃を半回転させて下さい」
カチャリッ!
セルジオは両手で握る短剣の柄を右手を浮かし、左手で半回転させる。
ブワッッ!!!
セルジオの背中から勢いよく、大きく青白い炎が湧き立った。今までになく大きく湧き立つ青白い炎にセルジオは背中が異様に熱く感じる。
余りにも勢いよく湧き立った青白き炎に訓練場にいた騎士と従士の動きがピタリッと止まった。
アロイスは辺りの様子もセルジオの湧き立つ青白い炎の大きさも意に介さず、続ける。
「できましたね!セルジオ殿!これが切替です。
やはり、剣を使って正解でしたね。力を開き、切替をしました。
次は力を閉じます。短剣の剣先を地面に向けて下さい」
カチャリッ!
セルジオは左手を開くと右手で短剣の柄を左側へ回す。左手で柄を握り右手が上にくる状態で短剣の剣先を地面に向けた。
シュンッ!
セルジオの背中から勢いよく湧き立っていた青白い炎はセルジオの背中に吸い込まれる様に一瞬の内に消えた。
アロイスは嬉しそうな微笑みをセルジオへ向ける。
「セルジオ殿、できましたね。力の開閉と切替ができました。
青白き炎の制御の出発点に立ちました。
おめでとうございます。よろしゅうございました」
「2週間で力の開閉と切替ができるとは
我ら魔導士でもそうはまいりません。
バルド殿が赤子の頃より教えてみえる呼吸があればこそです。
ようございました」
アロイスは右横にいるバルドへ優しい目を向ける。
バルドは握った拳をふるふると震わせセルジオを見ていた。
すぐにでもセルジオを抱き寄せ、喜びを分かち合いたい思いをぐっと堪える。
バルドの姿にアロイスはそっとバルドの背中を押した。
「バルド殿、よろしいのですよ。
その様に感情を喜びの感情を抑えずともよろしいのです。
セルジオ殿へ祝福を・・・・」
アロイスはニコリとバルドへ微笑みを向ける。バルドはアロイスの深い緑色の瞳をチラリと見るとセルジオへ両手を広げて駆け寄った。
短剣を鞘へ収めているセルジオを抱き上げる。
「セルジオ様!!
ようございました!制御の!!
お力の制御の兆しが見えてまいりましたっ!
おめでとうございます!セルジオ様っ!」
バルドが珍しく人前でぎゅっと抱きしめる姿にセルジオは困惑する。
「バっ、バっ、バルドっ!
いかがしたのだっ!皆が、皆が見ているではないかっ!離せっ!」
セルジオはジタバタとバルドの腕の中でもがく。
バルドはそれでもセルジオをぎゅっと抱きしめた。
バルドの身体がふるふると震えているのが解る。
「・・・・バルド・・・・泣いているのか?・・・・」
セルジオはバルドの耳元でそっと尋ねる。
「・・・・はい、泣いております。
嬉しく泣いております・・・・
セルジオ様がお力を制御できれば・・・・少しでも・・・・」
バルドは途中で言葉を止めた。
セルジオはその言葉の先を問うのをやめておこうと思った。
なぜ、そう思ったのかはわからない。ただ、バルドが嬉しいと言った青白き炎の制御を本当は嬉しいと思っていない様に感じたからだった。
この時、セルジオは初代セルジオの言葉通りにしようと決めていた。
己の周りにいる者、己を守護する者、己が大切に想う者達を守りたければ青白き炎と青き血の制御を学び、その持てる力を磨くことが何より大切だと。
わあぁぁぁぁぁぁ!!!
うおぉぉぉぉぉぉ!!!
静まり返っていた訓練場に雄たけびが響く。
セルジオが青白き炎の制御の出発点に立ったことを一緒に喜ぶラドフォール騎士団水の城塞の騎士と従士の声だった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
アロイスとバルドの協力体制の元、セルジオが己の力を制御するスタート地点に立てました。
また、4歳少し手前のセルジオに容赦のないアロイスとバルドですが、愛があるゆえの厳しさだと感じています。
見聞の旅は始まったばかり。
次回は水の城塞を後に次なる貴族騎士団巡回の地へ向かいます。
次回もよろしくお願いいたします。




