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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第17話 ラドフォール騎士団5:水の城塞

ザアァァァァァ・・・・

ザアァァァァァ・・・・


アロイスが上空へ両手を(かか)げると水龍(どらごん)が大きな口を開け、アロイスとセルジオら4人目掛けて降りてくる。


アロイスは両手を広げ水のドラゴンの開かれた口へ身を捧げる姿勢を取った。

バルドがアロイスへ飛びかかる。


「アロイス様!!」


ザッ!


バルドはアロイスを正面から抱きかかえる。

オスカーはセルジオとエリオスを背後から両腕で引き寄せ抱え込んだ。


ザアァァァァ・・・・

ザアァァァァ・・・・


水龍(ドラゴン)はそのまま5人を飲みこむと再び上空へ舞い上がる。


コポッコポッコポッ・・・・


5人は水龍(ドラゴン)の口の中で丸い水の泡の様な球体の中にいた。


オスカーに抱えられたセルジオは足元を見る。

透き通る水の泡が徐々に石の道から離れ、上へ上へと進んでいる。


先程までかしづいていた石の道を見ると初代セルジオの姿があった。

初代は水の泡の中にいる5人を見上げ、何とも言えない(さび)しそうな微笑みを贈っていた。


セルジオの隣でオスカーに抱えられているエリオスが右手でセルジオの左手を握る。


セルジオはゆっくりとエリオスの横顔を見た。

涙を目一杯に浮かべ今にもこぼれ落ちそうに初代セルジオを見下(みおろ)していた。

エリオスは突然大きな声を上げる。


「初・・・・セルジオ様!!!セルジオさまぁぁぁぁ!!!」


エリオスの声に初代セルジオは腰に(たずさ)えているサファイヤの剣を(さや)から抜いた。


サファイヤが埋め込まれているエステール伯爵家裏の紋章ユリの花を(かたど)った(つば)を胸にあて、両手で柄を握ると剣身を顔の前で垂直にする。


その姿勢のまま上空へ徐々に高さを増し、離れていくエリオスへ向け初代セルジオは叫び声を上げた。


「エリオスっ!!エリオスっ!!

そなたに礼も言えず、最後も看取れず、()びもできずに離れた!!

ここでの忠告を聴きいれていればそなたを死なせることはなかったと

ずっと、ずっと後悔(こうかい)をしていた!!」


「そなたに!伝えたかった!

エリオスが変わらず我を愛しんでくれたこと礼を申す!!

そなたが傍に!我の傍にいてくれた故、我は生き延びることができた!

サファイヤの剣も失わずにすんだ!礼を申す!

最後を共に!共に最後を迎えられずにすまぬ!!!」


「エリオス!!そなたと共に騎士として死にたかった。

役目を!そなたと共に役目を果たしたかった!

我の身勝手ですまぬ!!!エリオスっ!!!」


初代が強く握りしめるサファイヤの剣が揺れているのが見て取れる。


初代セルジオの頬を涙が伝っている。セルジオは初代セルジオと隣で自身の左手を握るエリオスを交互に見ていた。

エリオスが握る左手に力が入る。


ポタリッ・・・・


エリオスの涙が握られたセルジオの左手の指に落ちた。エリオスの涙は温かく感じた。

エリオスは大きく息を吸うと再び初代へ向けて大声で叫んだ。


「セルジオ様!!!

私は!エリオスは何も後悔(こうかい)はございません!!!

何があろうともセルジオ様がどのようなお姿になろうとも

エリオスは再びセルジオ様にお仕え致します!!」


未来永劫(みらいえいごう)

エリオスの魂はセルジオ様のお傍におります!!!

ご案じなさいますな!!!

セルジオ様はお(ひと)りではございません!

エリオスがずっとお傍におります故、ご案じなさいますな!!!」


エリオスの言葉に初代セルジオは嬉しそうに微笑んだ。


サァァァァァァ・・・・


初代セルジオの姿がサラサラと砂の様に光り輝きながら崩れていく。


サアァァァァァ・・・・


優しく風が吹き、初代セルジオの崩れゆく姿を光と共に上空へ散らした。


ドキリッ!


セルジオは胸に暖かい何かが流れ込み、鼓動が一つ強く打つのを感じた。


『初代様が私の中で喜んでみえるのか?』


セルジオはそっと自身の胸元を見る。


ポワァ・・・・


青白い光が胸の中に入り込んでいくように見えた。

隣にいるエリオスもセルジオの胸元を視ていた。


青白い光が胸の中に入り終わるとセルジオとエリオスは顔を合わせる。

セルジオは身体を起こし、エリオスの頬を伝う涙を右手でそっと拭った。


「・・・・エリオス、感謝申す。

初代様は一つ悔恨(かいこん)を拭われたと思う。

胸が・・その・・暖かく感じた・・・」


エリオスの涙を拭った右手を胸にあて、月の(しずく)の首飾りを衣服の上から握った。

セルジオはエリオスの瞳をじっと見つめる。


「初代様はエリオスが生涯変わらず愛しんでくれたことを

気付かなかったと後悔されていた。

何よりもその後悔が大きかったのだと思う」


「ずっと傍にエリオスがいることが当たり前過ぎたとも申されていた。

失って、離れて初めてエリオスがどれほど大切だったかを

知ったと申されていた」


「私に何度も念をおされたのだ。

片時もエリオスと離れてはならぬと。

エリオスを遠ざけてはならぬと。

エリオス、これよりも頼む。私の傍にいて欲しい」


セルジオはエリオスが握る左手の上に右手をのせると両手でエリオスの右手を包んだ。


ホロリッ・・・・


エリオスの頬を涙が伝う。エリオスは自身の左手をセルジオが包む右手に合わせると胸元に引き寄せた。


「・・・・は・・・い・・・・はっ!

私はこれよりもセルジオ様にお仕え致します!」


両肩が震えている。

2人の肩を抱えていたオスカーも涙を流し、震えていた。


バルドはアロイスとその光景を微笑みながら見つめていた。アロイスが水の泡に向かい(つぶや)く。


「ようございました。

ウンディーネ様の計らいは初代セルジオ様のお心を

(しず)めるためのものであったのですね。

私の心も晴れました。感謝申します」


ザアァァァァァ・・・・


アロイスの呟ぶやきにウンディーネが答える。


『そなたの目覚めに初代セルジオの悔恨(かいこん)が必要だったのだ。

これは私からの礼じゃ。水の城塞までそなたらを運ぶ。

日も暮れようほどにな』


ザアァァァァァ・・・・


水の泡は大きく方向を変えると水の城塞南門の前で静かに石の道へ下りた。


ザアッ!


水の泡は足元から姿を消す。

水龍(ドラゴン)は水の泡と共に姿を消していた。


アロイスが西にあるサフェス湖の方へ身体を向け、左手人差し指と中指の2指を唇にあてる。呪文の様に水の精霊ウンディーネに感謝の言葉を贈った。


「我が記憶と共に水の精霊ウンディーネ様に仕えし役目を

(さず)けたもうこと感謝致します。

これより先はいついかなる時もわが身は水の精霊ウンディーネ様と共に」


アロイスは水の精霊ウンディーネへの感謝の意が終わると4人に向き直る。


「お待たせを致しました。

我が水の城塞に到着致しました。

これより皆様の歓迎の(うたげ)をご用意しています。

準備までの間、部屋にてゆるりとおくつろぎ下さい」


アロイスはニコリと微笑むと水の城塞南門の重厚な扉の前に立った。


左手2指を唇にあてる。勢いよく左手2指を左へはらう。


サッ!


「開門!!!」


ガコッ!

ギィギィギィィィィィ・・・・


アロイスの言葉に南門は両側へ重たそうな音を立てて開いた。

南門の傍には門番もおらず人の姿がない。

セルジオはアロイスへ(たず)ねる。


「アロイス様、

門番もおらずに門が開くのですか?これもアロイス様の魔術ですか?」


アロイスはセルジオの左手をそっと取ると門の中へ招き入れた。


「セルジオ殿、

これは私の魔術ではありませんが、門に魔術を(ほどこ)してあります。

門が認めた者の言葉でのみ門の開閉が可能となる魔術です。

その為の儀式が先程のこれです」


アロイスは唇に左手2指をあてがい左へはらう仕草(しぐさ)をした。


「そうなのですか!

では、私では門の開閉はできないのですね!

エステールの北門を通った時と同じです。

北門の鍵を預かる者のみ開閉できると北門の門番が申していました」


セルジオはアロイスに手を引かれながら南門から水の城塞の中へ入る。エリオス、バルト、オスカーも後からつき随った。


「セルジオ殿、

これよりはセルジオ殿もエリオス殿もバルド殿、オスカー殿の言葉でも

門の開閉が可能となるように致します。

水の城塞にご滞在される折りには不自由のないように致しますので、

ご安心ください」


アロイスはニコリと微笑んだ。

セルジオは驚いた顔を後ろからつき随うバルドへ向ける。


「バルド!

我らも魔術が使えるようになるぞ!

門の開閉の言葉を訓練せねばならぬな!楽しみだ!」


セルジオは新しく体験できることに貪欲(どんよく)だった。アロイスはセルジオのその姿が微笑(ほほえ)ましく感じていた。


「セルジオ殿は素直でいらっしゃる。

改めてこれより我がラドフォール騎士団とのこと頼みます。

魔術の訓練は私が致しましょう」


「代わりにお願いがあるのですが、

セルジオ殿とエリオス殿に我が騎士団の騎士と従士へ

剣術の稽古(けいこ)をつけて頂きたいのです」


「エステールの団長、いえ、セルジオ騎士団の団長が申されていました。

セルジオ殿とエリオス殿の連携(れんけい)幼子(おさなご)とは思えぬと。

手合わせで危うく一本取られる所であったと。

あのセルジオ騎士団団長がそこまで仰る腕前を

我が騎士団でもぜひ披露(ひろう)して頂きたいのです。

お願いできますか?」


アロイスは立ち止まり、左腕を胸の前に置くと軽く頭を下げた。

セルジオはバルドの顔を見る。バルドは静かに(うなず)いた。セルジオはアロイスへ返答をする。


「アロイス様、どうぞお顏をお上げください。

我らの剣術はまだまだ未熟です。

されど我らにできることは、

させて頂ける事は全てお申し出に従う様にと

セルジオ騎士団団長より言われています。

剣術も弓術もお相手させて頂きます」


セルジオの言葉にエリオス、バルド、オスカーは揃ってかしづいた。

アロイスは微笑む。


「それは嬉しい!

では、明後日の早朝訓練よりお手合わせをお願いします。

これは、皆が喜びます!」


アロイスは嬉しそうに城塞奥へと歩き出した。


水の城塞は南門をくぐると左手に(うまや )が見えた。セルジオ騎士団城塞、西の屋敷と同じ様に門を含めた8か所が貯蔵庫(ちょぞうご)見張台(みはりだい)を兼ねた塔がそびえ立つ。


守護(しゅご)創造(そうぞう)のベツヘルムの星、八芒星(はちぼうせい)の8つの角を模していた。


(うまや)を過ぎると左手に図書館棟があり、右手に従士の居住棟が並ぶ。そのまま奥へ進むと中央に訓練場が広がった。セルジオは目を見張り、立ち止まった。


「これは・・・・ほとんど・・・・」


アロイスがセルジオの言葉を継ぐ。


「左様にございます。

ほほ、エステールの城塞、セルジオ騎士団城塞、西の屋敷と造りは同じです。

これも初代セルジオ様とエリオス様がお考えになったこと」


「ラドフォールとエステールの騎士と従士は瞬時に

一体となれる様、計らわれています。この奥も同じです。

違うと言えば湯殿(ゆどの)ですね」


「我がラドフォールはリビアン山の中腹にあります。

温泉が引かれた湯殿(ゆどの)は建設当時に

ローマから専門の職人を雇い入れ、造られたと聞いています」


(ふもと)でご覧になられたバラの噴水も

ローマの職人の手によるもの。湯殿(ゆどの)は後ほど、

堪能(たんのう)して頂きましょう。

まずはお部屋へご案内します。

セルジオ殿とエリオス殿が西の屋敷で使われていた

ジグラン殿のお部屋と同じ位置にあります部屋をご用意致しました」


アロイスは微笑みを向ける。

セルジオはバルドの傍へ駆け寄り、右手を掴んだ。


「バルド!

驚いた!西の屋敷と同じ造りだ!驚いた!

食堂棟からオットーが出てくるのではないか?」


今にも走り出しそうな勢いのセルジオをバルドは静かに(さと)した。


「セルジオ様、

アロイス様のご案内が途中でございますよ。

いかがなさいましたか?その様にはしゃがれてはなりません。

ここは西の屋敷ではございません!

いついかなる時も周囲に気を配られませ!

どこから弓矢が飛んでくるやもしれませんぞ!」


バルドは訓練場奥の柱影から発せられる気配を感じていた。

セルジオはハッとし、掴んだバルドの手を離した。


「すまぬ、バルド。少し調子にのったようだ・・・・」


しょんぼりと下を向く。

バルドは膝を折り、セルジオの両肩に手を置くと(たしな)めた。


「セルジオ様、

先程からご様子が変わられました。

初代様がお出ましになられたことと関係があるのだと思います。

よいのです。我らだけであればそのままのセルジオ様でよいのです」


「されど、時と場合をお考え下さい。

今は、アロイス様のご案内の最中です。

そして、ここはラドフォール騎士団第三の城塞、水の城塞です。

セルジオ様はセルジオ騎士団団長の名代(みょうだい)としてこちらへ入られました。

その事をお忘れになられてはなりません。よろしいですね!」


バルドはセルジオを抱き寄せると耳元で(ささや)いた。


『訓練場奥の柱影から弱い血香(けっか)を感じます。

先程の剣術と弓術の手合わせのこともございます。

試しが入るやもしれません。お気を付け下さい』


ピクリッ!


バルドの言葉にセルジオは身体に力を入れた。

バルドはセルジオのその様子に少しきつく抱き寄せる。


『大事ございません!弱い血香(けっか)でございます。

セルジオ様、青白い炎を湧きたたせてはなりません。

制御(せいぎょ)を学ぶのです。

よいですか?ゆっくりと深く息をお吐き下さい。

細く長く口からです。ゆっくりと息をお吐き下さい』


バルドはセルジオの背中に手を置くとセルジオに呼吸を合わせる様に自身の胸を合わせた。

セルジオはバルドに叱られたと思い、落ち込んだ自身を恥じる。


『ふぅぅぅぅぅ・・・・こうでよいか?バルド』


『はい、よろしゅうございます。では、アロイス様に従って下さい』


バルドはセルジオを離すとオスカーへチラリと目をやる。


オスカーは心得たと言わんばかりにマントの下の蒼玉(そうぎょく)の短剣に手をかけたのだった。


いつもお読み頂きありがとうございます。


ラドフォール騎士団第三の城塞、水の城塞に到着致しました。


初代セルジオの悔恨かいこんの原因が一つわかり、お互いに残した想いを伝えあうことで昇華されていきました。


エリオスのセルジオを想う気持ちに涙が溢れて・・・・伝え合うって大切ですね。


次回もよろしくおねがいたします。


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