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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第7話 セルジオの微笑み

バルドは干し肉をはさんだライ麦パンを少しづつ口へ運ぶセルジオを見ながら背中に突き刺さる視線を北の森入口付近から感じていた。


「・・・・オスカー殿・・・子供でございますね・・・」


バルドは森の中から感じる強い視線の正体を五感で探る。


「左様にございますね・・・・

まるで(けもの)の様な気でございますねっ!」


オスカーもバルドと同じ様に気を張り巡らせていた。


干し肉を挟んだパンをやっと食べ終わったセルジオが2人の話に耳を傾ける。


「森の中に子供がいるのか?

あの行く手にある森の中には何があるのだ?」


2人に問いかける。

バルドは森の中から襲撃(しゅうげき)される恐れがない事を感じ取るとセルジオの問いに答えた。


「あの森は北の森と申しまして、セルジオ騎士団西の(とりで)

南に位置します西の森と同様にエステール伯爵家が

直轄管理(ちょっかつかんり)しております」


「北の森はエステール伯爵家領の城壁と隔てられておりますが、

これから向かいますラドフォール公爵家領の

シュピリトゥスの森と地続きとなる森です」


「木を伐採(ぱっさい)木材(もくざい)(まき)

切り出す木こりと薪を焼き木炭(もくたん)にする

炭焼きの2家族が北の森の奥深くに居住しております」


「しかし、なぜ子供が北の森の入口まで来ているのでしょう?

我らを出迎えにきているとも思えませんが・・・・」


バルドは北の森入口に目をやり、怪訝(けげん)そうな表情を見せる。

オスカーがバルドへ呼応した。


「バルド殿、仰る様に出迎えかもしれませんぞ。

木の実が落ちる季節でもありますから冬ごもり前の熊と

出会わぬ様に木こりのヴァルディが子らを

道案内に差し向けてくれたのやもしれません」


オスカーも北の森入口へ目を向ける。

バルドはオスカーの話しから北の森入口付近から感じる視線の相手に察しがいいったようだ。


「・・・・オットー殿!オットー殿でございますね!

我らが今日、北の森を通ることをヴァルディに伝えてくれたのですねっ!」


セルジオ騎士団城塞西の屋敷に住まう総勢の胃袋を支える料理長のオットーは自ら食材の調達をすることが多かった。


エステール伯爵家直轄管理地である北の森での食材の調達は道案内役が必要とされていた。その為、料理長のオットーは北の森を管理する木こりのヴァルディとも親しい間柄(あいだがら)だった。


スチャッ!

ガチャカチャ!

ブルルルルゥゥ・・・・


バルドは立ち上がると馬に独り(またが)った。


「オスカー殿、北の森の入口まで行ってまいります。

しばし、このままセルジオ様とエリオス様をお願い致します。

ハァッ!」


ヒヒィィィン!

パカラッ!パカラッ!パカラッ!


バルドは勢いよく北の森入口へ向け馬を走らせていった。

セルジオはバルドの後ろ姿に呟く。


「私も連れていけばよいのに・・・・」


残念そうな顔をエリオスとオスカーへ向ける。

オスカーはセルジオの表情がフリードリヒと会って以来、日を追うごとに豊かになっていると感じていた。


「さっ、セルジオ様、エリオス様、

バルド殿がお戻りなるまでに出立(しゅったつ)の準備を致しましょう。

食べ残しなどはござませんか?」


エリオスはバルドが()けだすと早々に休憩の為に敷いていた敷物(しきもの)の布を畳み出立の準備をはじめた。


「エリオス、私も手伝う」


セルジオが手を出そうとするとエリオスはニコリと微笑みを向けた。


「セルジオ様、もう終わります。

セルジオ様はローブとマントを身に着けて下さいませ」


「そうか・・・・感謝申す」


セルジオはエリオスの言葉と微笑みに胸に苦しさを感じ手当を受けたばかりの(こぶし)を握りうつむいた。


『私は・・・・皆の足手まといになっているのではないか・・・・

何をするにも皆より遅い・・・・知らぬことばかりだ・・・・』


足元に目線を落とし、自問自答する。


そんなセルジオの姿が気になり、エリオスはオスカーへ顔を向けた。


オスカーは微笑みエリオスの耳元へそっと言葉を贈った。


「エリオス様、

布の(はし)をセルジオ様にお持ちいただいてはいかがですか?

お2人で畳まれた方が仕上りが美しくなります。

さすれば麻袋へも収めやすいというもの」


ハッ!


エリオスはオスカーへ驚きの顔を向ける。


エリオスはセルジオの手を(わずら)わせないために独りで布を畳んでいた。しかし、セルジオからすれば同じ立場での旅路であるはずなのに役割を持たないことで取り残された思いを抱いたことになる。


「なにごともご一緒にいたせばよろしいのです。

そのための旅路にございます。

エリオス様のお優しさは私が一番に分かっております」


「旅路では己が全てを抱えるのではなく、

旅路を同じくする者と全てを分けることが一番の優しさとなります。

さっ、エリオス様。セルジオ様へお声をお掛け下さい」


オスカーはエリオスの頬と自身の頬を合わせる。

オスカーの頬は暖かく感じた。


「セルジオ様っ!」


エリオスはうつむくセルジオに勢いよく声を掛ける。

セルジオはその声に少し驚き、エリオスへ顔を向けた。


「なんだ?」


「セルジオ様、

こちらの布の端を両手でお持ちいただけませんか?

そして、引っ張って欲しいのです」


エリオスは地面に布を置き、セルジオが持つ個所を手で指し示す。


「・・・・よいのか?・・・・私も手を出してよいのか?」


セルジオは振り向くと布へ近づいた。


「はい!

一緒に畳みますと仕上がりが美しく、

麻袋に収まりやすいとオスカーに教えられました。

ご一緒していただけますか?」


エリオスは指し示した布をセルジオへ持たせる。


「承知した!

エリオスと共に布を畳んでみたかったのだ!感謝申す。エリオス」


セルジオは手渡された布を両手でしっかりと握った。


「こうか?この様にでよいか?」


「はい、そのまま強く握っていて下さい。

少し、引っ張ります。その場で動かずに強く握っていて下さい」


「よしっ!うーーーん!」


エリオスはセルジオが握る布の反対側を持ちあげると少し後ろへさがり、布を上下に揺らした。


「この様にしますと布のシワがのびます。

そうしてっ!セルジオ様!そのまま布を頭の上まで上げて下さい!」


セルジオは言われるままに両手で握る布を頭上へ上げる。


パサッ!

トンッ!


エリオスの両手がセルジオの両手を包みこんだ。

エリオスは布を挟みセルジオの前に立っている。


「セルジオ様、今度は両手を離して下さい。

そして、布の下が輪になっております。

左右を握りましたら後ろへさがって下さい」


言われた通りに輪になった布の左右を持ち後ろへさがるとエリオスとの間隔が半分になっていた。


「そうか!

この様に畳めば大きな布も早く、美しく畳めるのだな!

エリオス!感謝申すぞ。また一つ学べた!」


セルジオの声は弾んでいた。

エリオスはオスカーへ視線を向ける。

オスカーは頷き優しい微笑みを2人へ向けた。


「では、お2人で布を丸めて下さい。

私が麻袋を開きますので、丸めた布を入れて下さいますか?」


セルジオとエリオスは顔を見合わせると布を一旦地面に置いた。

隣に並び折り畳んだ布の両端に両手を置く。


「セルジオ様、せいのっ!で丸めましょう」


「承知した!せいのぉっ!」


掛け声を掛けると息を合わせて布を丸める。そのままオスカーが開く麻袋へ布を収めた。


「セルジオ様、エリオス様、美しく収まりました。感謝申します」


オスカーが嬉しそうに2人へ礼を言う。

セルジオとエリオスはお互いの顔を見ると微笑み合った。


ドキッ!


『セルジオ様が!セルジオ様がっ!

微笑まれた!初めて目にした!なんと!なんと!』


エリオスは初めて目にしたセルジオの微笑みに一瞬時が止まったように感じていた。


「うん?エリオス、いかがしたか?」


セルジオは首をかしげる。


「・・・・いえ・・・・セルジオ様が私に・・・・その・・・・」


ドキンッドキンッドキンッ・・・・


エリオスは胸の鼓動が速さを増すのを感じる。


「・・・・どうしたのだ?エリオス!具合が悪いのか!」


セルジオはエリオスへ駆け寄る。


「!!!いえ!具合は悪くはございません!大事ございません!」


セルジオはエリオスに駆け寄り顔を覗く。エリオスはセルジオの顔がまともに見られず目をつぶり、両手を握りしめた。


「大事ないのか?どこぞ、痛むのではないのか?

我慢(がまん)はするなとバルドが申していたぞ!」


セルジオは心配そうにエリオスの顔を覗く。


「・・・・」


エリオスはこの場をどうしてよいのか困り果てた。

それでもエリオスの顔を覗きこむセルジオの小さな肩にオスカーはそっと触れる。

セルジオはオスカーを見上げた。


「セルジオ様、

エリオス様はセルジオ様が微笑まれたことを喜んでみえるのです。

セルジオ様はお気づきではございませんが、

ただ今、初めてエリオス様と微笑み合いました。

そこのことを喜んでみえるのです。

ただ、セルジオ様が微笑まれたことを

お伝えしてよいのか判らず困っておいでなのです」


オスカーはいつになく優しい眼差しをセルジオに向ける。セルジオはオスカーの言葉に目を見開いた。


「私は!微笑んだのか?二度目だ!

兄上が西の屋敷にいらした折りに初めてバルドと微笑み合ったのだ!」


自身の両頬に手をおく。


「エリオス!どうであった?私の微笑みはどうであった?」


セルジオはエリオスへ詰め寄った。


「・・・・あのっ・・・・」


エリオスは頬を赤く染め、セルジオの瞳をじっとみつめ動けずにいる。


オスカーが助け舟を出した。


「セルジオ様、お優しい微笑みにございました。

バルド殿とベアトレス殿がセルジオ様へ向けられる微笑み、

エリオス様と私の微笑み、どなたの微笑みよりお優しい微笑みにございます。

エリオス様はいかがお感じになりましたか?

セルジオ様に想いのままをお伝えされてはいかがですか?」


オスカーは優しい眼差しをエリオスへ向ける。

オスカーは前世から変わる事なくセルジオを愛しみ続けているエリオスを愛おしくて感じていた。


「・・・・セルジオ様の微笑みは・・・・そのっ・・・・」


エリオスは首まで赤く染まっていた。


「!!!エリオスっ!大事ないかっっ!!熱があるのか?顔も首も赤い!!」


コツンッ!


セルジオはバルドが自身にするようにエリオスの額に自身の額を合せた。


「へっ!!・・・・セルジオ様!」


エリオスはその場から身動き一つできなくなっていた。


「!!!エリオス!

熱いぞ!オスカー!エリオスは熱があるぞ!額が!額が熱いぞ!」


セルジオはオスカーへ困惑した表情を向ける。

オスカーはどれと言うとエリオスの額に自身の額を合わせた。熱の状態を確認する。


「・・・・セルジオ様、

大事ございません。セルジオ様の額が冷たいのですね。

寒くはございませんか?」


オスカーはセルジオの両頬を両掌で包む。セルジオの頬はリビアン山から吹き降りる冷たい風で氷の様に冷え切っていた。


「セルジオ様、

氷の様に頬が冷たくなっておいでです。

お早くローブとマントをお着け下さい。このままでは熱がでます」


「そうか。わかった。

バルドが戻る前に支度(したく)をしておかねばな」


バサバサッ・・・・


セルジオはローブを手に取ると頭からかぶった。


「エリオスが熱を出したのかと心配したぞ。

私の額が冷たく、エリオスの額が熱く感じたのだな。

騒ぎ立てすまぬ。バルドに言われているのだ。

一方向からだけで物事を視てはならんとな。

だが、なかなかに難しい・・・・」


セルジオは自分自身に言い聞かせる様にバルドの教えが身に付いていない自身の状態をエリオスとオスカーへ伝える。


「セルジオ様、

一つ一つにございます。物事それぞれの方向がございます。

一度に全てをお解りにならずともよいのです」


「・・・・わかった。オスカー、感謝申す」


頬が氷の様に冷たくなっているセルジオを案じ、オスカーはセルジオの耳の下を触り、膨らみがないかを確認する。首元まで冷たく身体が冷え切っていた。


『これでは、セルジオ様の方が熱を出される』


エリオスを見るとセルジオの微笑みの感想から話の矛先(ほこさき)がズレたことで動きが止まっていた。

オスカーはエリオスの時を動かす。


「エリオス様、

ローブとマントをお着け下さい。着けられましたらこちらへ」


オスカーはセルジオにマントを早々に(まと)わせると草の上へあぐらをかいて座った。


ストンッ!

ファサッ!


自身のマントを広げ、セルジオをマントにくるみ右の膝の上で抱きかかえる。


「オスカー・・・・バルドに叱られる・・・・」


マントの中からオスカーを見上げ、申し訳なさそうな顔をする。


「大事ございません。

バルド殿が戻られるまで、しばしこのままにて。

さっ、エリオス様もこちらへいらしてください」


エリオスへ向け左手でマントを広げると左膝の上に迎え入れた。

オスカーはマントの中で2人を抱きかかえる。


「苦しくはございませんか?」


優しく尋ねる。

セルジオとエリオスは顔を見合わせると声を揃えてオスカーへ答えた。


「苦しくなどない。とても暖かいぞ!オスカー、感謝申す」


「ふふふ・・・」


セルジオとエリオスは手を取り合い笑い合った。


「セルジオ様、

オスカーの(ふところ)はこの様に暖かいのです。

このまま眠ってしまいそうです」


「そうだな。バルドの懐も暖かいのだぞ。

次はバルドの懐で抱えてもらおう。暖かい」


「・・・・セルジオ様、

セルジオ様の微笑みに私は胸がドキッとしました。

とてもお優しく感じたのです。直ぐにお伝えできずに申し訳ございません」


エリオスはセルジオの微笑みの感想を自分の状態と共に正直にありのまま伝えた。


「そうか。エリオス、感謝申す。

顔が動くことに()れていないのだ。

まだ、己ではわからないのだ。色々と教えてくれ。頼む」


セルジオはエリオスの手を強く握った。


「承知致しました。

セルジオ様のお顔が動きましたら真っ先にお伝え致します」


「ふふふ・・・」


2人はまた笑い合った。


オスカーはそんな2人が愛おしくマントの上から優しく抱き寄せると2人の頭にそっと口づけをした。



この時がセルジオとエリオスにとって穏やかでいられた唯一の時代だった。

怒り、憎しみ、苦しみを味わう前の喜びだけがそこにある。

ささやかな幸せを感じていられたかけがえのない一時だった。


いつもお読み下さりありがとうございます。


フリードリヒに会って以来、セルジオの表情変化が現れてきました。


バルドとベアトレスが赤子の頃から見せてきた感情を表情と言葉で表現すること。


そこにフリードリヒの天真爛漫てんしんらんまんさがきっかけとなりセルジオの表情で表現することを得た。と言う事ですね。


セルジオに沢山、微笑む機会が訪れますように。


次回もよろしくお願い致します。


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