第43話 インシデント40:騎士団団長の策略
バルドは円卓を囲む面々の顔を見渡すと話しはじめた。それはポルデュラからの教えとこれまでセルジオが生まれてから共に過ごした4年の時の話だった。
「セルジオ様はお生まれになりましてから程なく、
初代セルジオ様の無念の感情と共に『心』を封じました。
それ故、『心の理屈』はお解りになりますが、
『人の感情』をご自身で感じることができません」
「そこで我ら2人、ベアトレス殿と私が
ポルデュラ様より担いました役目がございました。
それは、セルジオ様の『心の土壌』を育むことにございます」
「日々の行いの中でできうる限りセルジオ様に触れ、
抱き上げ、微笑み、瞳と瞳で語ることをベアトレス殿が担いました。
他の者の痛み、身体で感じる痛みと恐怖、人は何に恐れ、
恐れることで現れる心と身体の動きを言葉でお伝えすることを私が担いました」
「今もこうして先程の試験で受けた矢傷を負っておいでですが、
身体の痛みとしては認識されておいでです。
されど、痛みに対する恐れはございません。
それ故、ご自身のお身体の限界がお解りにならないのです」
「加減ができぬことで大きな傷を負い、時にはお命の危険が伴います。
マデュラの刺客との戦闘の折も両肩がはずれておりました。
お小さな身体に多くの傷を負い、それでも戦いを止められません。
それは恐怖を抱かぬからにございます。
一人の騎士としては申し分はございません。
が、騎士団団長となれば『人が感情』で動くことを
解っておらねば人を束ねることはできません」
バルドは一呼吸置いた。深い紫色の瞳でセルジオを見る。セルジオは真っ直ぐにバルドを見つめ聞いていた。
「人は己を守るため時に嘘偽りを申します。
されどセルジオ様は人が嘘偽りを申すことなど思いもよらぬことなのです。
人は感情があり、我ら騎士や従士は戦場において、
人を殺めることにおいて、感情を抱かない訓練を受けているだけなのだと」
「そのことをより多くの人、物、事柄にご自身で触れることが
セルジオ様の『心の土壌』を育むために必要なことであると
ポルデュラ様から言の葉を頂いておりました」
バルドはここで団長へ向き直る。
「3つ目の最善の策でございます。
来年のエリオス様騎士団ご入団までの一年間、
セルジオ様、エリオス様、オスカー殿と私の4名で
シュタイン王国国内を巡る見聞の旅をすることにございます」
「そして、訓練施設での恐怖を克服する訓練、
5歳を迎えました後に行われる石塔の訓練が終わりました後、
セルジオ様がご入団されるまでの2年間はセルジオ様と私の2人で
国外へ見聞の旅へ出向きたいと考えております」
「訓練施設の中、騎士団の中だけでは知れぬことが
国内外を巡ることで体験ができます。
そして、人が、民が何を思い、どんなものを食し、
どんなことに幸せを感じ過ごしているのかを知ることが国を守り、
民を守る役目を担う騎士団の有り様を学ぶ術と考えております」
ガタッ!!
カツッカツッカツッ!!
スッ!
バルドは椅子から立ち上がり団長の傍まで歩み寄るとかしづいた。
「セルジオ騎士団団長へお願いにございます。
我ら4名のシュタイン王国国内見聞と石塔訓練後の
セルジオ様と私の2名での国外見聞をお許し頂きたく切にお願い申し上げます」
ガタッ!!
カツッカツッカツッ!!
スッ!
バルドの行動にオスカーも同道する。
「セルジオ騎士団団長、私からもお願い申し上げます。
我が主、エリオス様はセルジオ様をお支えする事を
心より望んでおいでです。その為には今まで以上に時を同じくし、
起こる事柄を同じく感じることが必要と存じます。
なにとぞお許しを頂きたく言上いたします」
セルジオとエリオスは師の姿に顔を見合わせると同道し騎士団団長のひざ元にかしづいた。
「団長殿、4人にここまでされては許さぬ訳にはまいらんな。
どうだ?バルドの策に乗ってやってはくれぬか?」
ポルデュラが助け舟を出す。
団長はジグランと顔を見合わせニヤリと笑った。
「バルド、わかった。そなたの『最善の策』よくわかった。
が・・・・しかしだな・・・・」
団長は少し悪戯っぽい表情をポルデュラへ向ける。
「なんだ!団長殿・・・・その顔はバルドの策に反対なのか?
そうではなかろう?なんぞ、別の策があるのだな」
ポルデュラもニヤリと笑う。
「敵わぬな。ポルデュラ様には・・・・
まぁ、そなたら座れ。
バルド、そなたの策に少し策略を足してもらいたいが、どうだ?」
「はっ!」
バルドは即答した。
4人が円卓の元いた椅子に座ると団長はジグランへ目配せをする。
ジグランは頷き書棚から地図を持ちだすと円卓へ広げた。広げられた地図を前に団長が話しを進める。
「バルド、よいか?そなたの策に私の策略を足す。
これはこれからのシュタイン王国全騎士団の有り様に関わる事だ」
「王都騎士団総長ジェラル様への話は通してある。
王国全騎士団へ伝える前に我がセルジオ騎士団で試しをする。
試しをした後、王都騎士団総長から王国全騎士団へ布令を出す。
手筈はこんな所だ。後はジグラン、頼む。
私の策略の全容を話してやってくれ」
団長はここからの話しを第一隊長ジグランへゆだねた。
「はっ!承知いたしました」
ガタッ!
サッ!
第一隊長ジグランは椅子から立ち上がると鞘に収めたままの短剣を手に取った。
カツンッ!
北が団長の正面にくるように円卓上に広げられた地図を指す。
「まずは我がシュタイン王国国内から。
我らがおります西の屋敷はこちらになります。
エステール伯爵家所領の西の端に位置し、
隣国スキャラル国との国境線を守る西の砦、
西の森、サフェス湖から西南へ流れるフェイユ河沿いを
我ら騎士団が守りを固める所となります」
地図上の北西を指す。
「そして、王都はこちらです。
セルジオ様、エリオス様がおいでの訓練施設は王都を囲む城壁となります。
王都を中心に周りを18貴族の所領がお守りしております」
短剣で地図をぐるりと指し示す。
「次に他国との関わりにございます。
我がシュタイン王国は5つの周辺国に囲まれております。
国境線は西の砦以外はどこも脆弱ですが、
我が王国の南に位置するエフェラル帝国、サント国とは
良好な国交関係が100有余年続いております」
「東に位置しますシェバラル国は国交はございますが、
友好とは言い難い上にシェバラル国は、
国内での小競り合いが未だ収まらないと聞き及んでおります」
「北に位置しますランツ国は我が王国との国境線にある鉱山の所有権を巡り、
時折意義を申している状況です」
ジグランは短剣を右掌へ当てパチンと音を立てた。一同はその音に気を引き締める。
ゴツンッ!!
剣先を地図の北西端へ力強く指し示す。
「そして!我が王国の北西から西に位置しますスキャラル国。
周辺諸国の中で一番の危険因子となります。
実り豊かな我が王国の領地を虎視眈々と狙っております」
「そして、スキャラル国は神聖ローマ帝国の承認国家ではないため
独立国家として認められておりません。
その為、十字軍の要請に応じた
遠征もございませんので、我が王国の騎士団が遠征に赴く時を計り
攻め入る可能性が高こうございます」
ジグランは一同を見渡すと再び話し出した。
「そこで、我がセルジオ騎士団団長が兼ねてより
お考えになっておりました策にございます。
目的は我が王国の全ての民が安んじ、心豊かに暮らせることを第一と致します」
「その為に我ら18貴族の騎士団に課せられる使命は
他国からの侵略を防ぐこと、
他国との商い、流通を滞ることなく守ること、
そして、戦わずして勝つことにございます」
「使命を果たすに必要なことは、18貴族騎士団の結束にございます。
残念なことに18貴族に設置されております騎士団は現在、
貴族ごとに策を講じ、役目を担っております。
100有余年前のような王都騎士団総長を筆頭に全騎士団が
一堂に会し同じ戦場へ赴くこともございません」
「遠征に赴く際も王都騎士団総長より指名を受けた
騎士団のみが参戦しております。
一つの国家として団結した戦闘は今のままでは不可能です」
「そこで、18貴族の騎士団を次に担う団長と騎馬の隊長が
7歳で入団を迎えるまでに2年をかけて各騎士団を巡ることが策となります。
目的はあくまでもお互いを知ることです。
他家騎士団と友好を計り、己の騎士団との違いを知り相互に協力体制を築く。
そしてお互いの力量を認め合い、高めていくことを表向きの目的とします」
ジグランは団長の顔をチラリと見る。団長が頷くとジグランは話しを続けた。
「我がセルジオ騎士団にはもう一つ、裏の目的がございます。
18貴族の騎士団が持つ戦力を調べることです」
「王都騎士団総長へは各騎士団より騎士、従士の数、年齢、力量と
武具の種類と数、金銀と食糧の蓄え、馬の飼育状況など
遠征を考えた装備品の届出が義務付けられております」
「しかし、近年、領地の大よその収穫量と流通量、騎士団所有の金銀、食糧、
そして、武具の調達に関する数がいささか合わないと
考えられる騎士団が明らかになりました」
「ただ単に数の違いであればよいのですが、
故意に違えている場合は
王国の規律に沿った処罰が必要です。
不穏な動きは小さな内に抑えておかねばなりません。
そこで、表向きの目的を前面に出し、探りを入れることが
我がセルジオ騎士団へ課せられたもう一つの使命となります」
一通りの説明が終わるとジグランは団長へ頭を下げた。団長はバルドへ顔を向ける。
「バルド、よいか?
これがそなたの『最善の策』に含めてもらいたい私の策略だ。
王国内の見聞も各騎士団城塞を起点とすれば動きやすかろう?
訓練も欠かさずでき、それぞれの騎士団で
手合わせを願えば力量も分かるというもの」
「どうだ?これなれば兄上ハインリヒ様への申し出も私ができるしな。
王都騎士団総長からの命であると申せば兄上も断ることはできまい」
「そして2年後の国外の見聞も同じことだ。
他国の戦力を調べるための王都騎士団総長からの命とすればよかろう?
そなたが騎士団で担ってきたことをそのままセルジオ殿と共に行えばよい。
どうだ?含んでくれるか?」
団長はバルト、セルジオ、エリオス、オスカーの顔を見渡し微笑む。
バルドは椅子から立ち上がり一歩退くとその場でかしづいた。
「はっ!セルジオ騎士団団長!感謝申します。
調べの議、確かに承知致しました。
我が主の名の元に全うする所存にございます」
バルドに倣い、セルジオ、エリオス、オスカーもかしづく。
パンッ!
ポルデュラが手を叩いた。
「よし!これで手打ちじゃな。
では、イルザ。新しいバラの花の茶をいれてくれるか?
団長殿とジグラン殿の熱気に押されていささか喉が渇いた」
ポルデュラは袖からバラの花の茶が入った小袋を出すとイルザに渡した。
「承知致しました。焼き菓子もご用意できております」
イルザは皿に並べられた焼き菓子を円卓へ置く。
「おっ!これは私の好物だ。ポルデュラ様の焼き菓子だな?」
団長が嬉しそうに焼き菓子を手に取った。
「そなたらも食せ。ポルデュラ様の焼き菓子は腹の底から力が湧いてくるぞ」
団長の言葉に4人は椅子に腰かける。
「それにしても団長殿。恐れ入ったわ。
まさか王都騎士団総長を巻き込むとはな。
流石に5伯爵家筆頭第1位エステール伯爵家のセルジオ騎士団団長殿だな」
ポルデュラは焼き菓子を口に運び団長へ微笑みを向けていた。
「いやなに・・・・・
伝説の騎士が再来する前に民が苦しみ王国が滅んでは元も子もあるまい。
民があってこその王国、王国あってこその騎士団だからな・・・・」
団長は少し哀し気な眼をしていた。セルジオはその眼が何を意味しているのかをバルドへ問いたいと思いながら美味しそうに焼き菓子を食す団長を見つめるのだった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
バルドの最善の策に騎士団団長の力を借りようと考えていたポルデュラでしたが、
団長は更に大きな策略を考えていました。
何はともあれ、セルジオ達4人は見聞の旅へ出る事が許されましたぁ~。
よかった、よかった・・・・と思いたいです。
次回は第2章最終話となります。
次回もよろしくお願い致します。




