第28話 インシデント25:心強い結束
セルジオを抱きかかえたバルド、エリオスの手を引き歩くオスカーは、ポルデュラの後に続き借り受けたセルジオ騎士団第一隊長ジグランの居室一室へ入った。
「バルト様!!オスカー様!!」
ベアトレスが抱きつかんばかりに駆け寄る。
「ようご無事で!!ようご無事でお戻りになれ・・・・」
心配で仕方がなかったのであろう。言葉にならずに両掌で顔を覆う。
オスカーが応える。
「ベアトレス殿、ご心配をお掛け致しました。
セルジオ様とエリオス様のお働きにて我ら命拾いを致しました」
ベアトレスは感極まった自身を戒めるとバルドらに詫びた。
「・・・・失礼を致しました。
私は・・・・また、この様に取り乱し・・・・申し訳ございません」
一言、詫びルトベアトレスは小刻みに震えているエリオスへ手を差し伸べた。
「エリオス様、さっ、こちらへ。
ポルデュラ様に治療をして頂きましょう」
エリオスは両手足の震えから全身へとの震えの範囲が広がっていた。
「ベアトレス、エリオス様をこれへ!」
ポルデュラがエリオスをベットに寝かせる様促す。
「はい、承知しました。エリオス様、上着と靴を脱げますか?」
「・・・・あい・・・すみませぬ・・・・
もどしそうにて・・・・うっ・・・・ゴボッ!」
ホッとしたのかエリオスは再び嘔吐した。オスカーが桶を手にエリオスの傍らにつく。
「エリオス様、身体の力を抜けますか?」
「・・・・オスカー・・・・止まらぬ・・・・ゴッゴボッゴボッ・・・・」
エリオスは苦しそうに何度も嘔吐を繰り返す。
バルドが麻袋から砂糖水が入った水筒を取り出し、オスカーへ渡した。
「オスカー殿、こちらをお使い下さい」
その様子を見ていたポルデュラがベアトレスへ尋ねた。
「ベアトレス、湯浴みの用意はできているか?」
「はい、隣室に用意できております。
ポルデュラ様からお預かりしました乾燥のカモミールの花も入れてあります」
「そうか。オスカー、エリオス様にそのまま隣室で湯に浸かって頂け。
それと、これにバルドの砂糖水を加えて飲ませてやれ」
ポルデュラは乾燥カモミールを煎じたお茶をカップに注ぎ、バルドから手渡された砂糖水を加える様にオスカーに言う。
「ベアトレス、バルドとオスカーにもお茶の用意を」
「はい、用意できております」
ベアトレスは同じ様に乾燥したカモミールを煎じたお茶をカップへ注ぐ。
オスカーは果実の様な甘い香りに胸が軽くなるのを感じた。エリオスに少しづつお茶を含ませる。
「・・・・オスカー、大丈夫だ!この香りで楽になった」
エリオスの嘔吐は止まった。
オスカーはホッとした表情を見せる。
「ようございました!ポルデュラ様、ベアトレス殿、バルド殿、感謝申します!」
ポルデュラは小さな小瓶を取り出し、布に含ませながら言う。
「バルド、セルジオ様はこちらの長椅子に寝かせてくれぬか。
エリオス様が湯浴みされている間に傷の手当てをしよう」
バルドはポルデュラの申しつけ通りにセルジオを長椅子に寝かさる。
「はい、承知しました。ポルデュラ様、後をお願いできますでしょうか?」
バルドはポルデュラへセルジオを託した。
「わかっておる。案ずるな!
後は私とベアトレスがそなた戻るまで介抱しておるから安心いたせ。
セルジオ様は大丈夫だ!『初代の封印』がとかれる事を案じているのであろう?
それはないっ!安心いたせっ!」
ポルデュラはいつになく力強く、まるでバルドを励ます様に言った。
「ポルデュラ様・・・・感謝申します。よろしくお願い致します」
バルドは一言ポルデュラに告げるときっと顔を上げた。
「これより、一旦、団長とジグラン様にご挨拶しましてから
エステール伯爵家へ行ってまいります」
ポルデュラはバルドの覚悟を感じていた。その覚悟の後押しをするためお茶を薦める。
「バルド!このお茶を飲んでから行けっ!
そなたの心に私がつき随おうぞっ!そなたは独りではないぞ。
独りでセルジオ様をお守りしようなどと思わぬ事だ。
我ら皆で、ここにいる我ら皆でセルジオ様をお守りすればよいのだぞ。
案ずるな!『日々の行いで心の土壌は肥沃』となっておるわ。
セルジオ様もそなたもな」
ポルデュラは全て見ていると言わんばかりにバルドへ微笑みを向けた。
バルドは騎士団とは違う暖かな絆を感じる。
「はい!ポルデュラ様、感謝申します。お茶を頂いてからまいります。
左様ですね!ここにいらっしゃる皆様と一緒にお守りすればよろしいですね!
感謝申します」
バルドはその場に居合わせた皆に向かい頭を下げた。
エリオスが隣室で湯浴みを始めたのを見届けるとバルドはオスカーを傍らに呼んだ。
「オスカー殿、これより団長とジグラン様にご挨拶した後、
エステール伯爵家へ赴きます。
ハインリヒ様へ事の次第をお話ししてまいります」
オスカーはバルドが何を伝えたいのかを察していた
「はい、その旨承知しております。私への気遣いは無用に存じます」
「・・・・オスカー殿。お気持ち感謝申します。されど・・・・
これは、この事はセルジオ様にお仕えしました時よりの私の役目にて、
ご承知置き頂きたく・・・・」
「・・・・死ぬおつもりですか?」
バルドはオスカーの言葉にハッとする。
「もし、死を覚悟しておいでなのでしたら死んではなりません!
セルジオ様の御為にこの後も生涯お仕えせねばなりません!
今はその時ではないと心得て頂きたいっ!!」
珍しくオスカーの語気が強まる。
「『命を弄そんではならない』と何度もセルジオ様へ
お伝えされていたではありませんか!己の命も同じ事!
宿命ならば死は自ずと訪れます」
「今、この時ならばハインリヒ様の刃にかかればよろしい!
そうでなければセルジオ様の元にお戻り下さいっ!
バルド殿!私に約定を交わしてしていただきたいっっ!!
そうでなければこの場でそなたを切るっっ!!」
オスカーが腰の短剣を抜き、構えを見せた。
その眼は真剣そのものであるが、優しさと愁いを帯びた光を放っていた。
「・・・・オスカー殿・・・・短剣で・・・・私は切れますまい・・・・」
バルドの眼に涙が浮かぶ。
「・・・・承知しました。ふぅ・・・・
私はセルジオ様に顔向けできませんね!生き急ぎました。
オスカー殿、感謝申します!大事ございません。オスカー殿に誓いを立てます!!」
そう言うとバルドは腰の短剣を抜き、オスカーの前に跪いた。
「我、この先起こるいかなる事にも己に刃を向けるに非ず。
もって必ず主の元に立ち戻る事、汝オスカーに誓うものなり」
誓いの言葉と共に短剣を胸の前で立てる。
オスカーが呼応する。
「汝バルドの誓いの義、我オスカーが享受した。
誓いの破られし時、汝主の命をもって償うものとする」
オスカーはバルドが約束を違えられぬ様、セルジオの命を代償とした。
「・・・・オスカー殿・・・・そなた・・・・セルジオ様を代償とされては・・・・」
「そうでもしなければバルド殿は戻ってはこれますまい!
必ず、お戻りくださいっ!お待ち致しております!
我らが主の叙任の時までお仕えするのですから戻らぬ訳にはいきますまいっ!」
オスカーはバルドへ再び力強く念を押した。
「承知しました!必ず戻ってまいります!!」
バルドは胸の前で左手を結ぶと力強く深い紫色の瞳でオスカーを見る。
目を閉じ頭を軽く下げるとバルドはジグランの居室を後にした。




