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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第1章:前世の記憶の入口~西の砦の攻防とサファイアの剣の継承~
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第3話:無謀な救出

「メアリ見て!こんなに!こんなに沢山のクルミが落ちているわ!」



嬉しそうにアンが言う。


「よろしゅうございましたね、アン様。

さぁ、沢山拾って、お日様が真上にくるまでにお屋敷へ戻りましょう」


メアリが優しく(さと)した。


「姉さま、今日は森がとても静かだわ・・」


キャロルが森の声に耳を傾ける。シュタイン王国直属の魔導士で光と炎の使い手であるオーロラは引き取った2人の女児に魔術教育を受けさせていた。『森の声を聴く』事は自然の息吹を感じ取る魔術の基本とされていた。


「そうかしら?・・・・

そう言えば少し冷たい声がする・・・かしら?」


アンも森の声に耳を傾ける。


「・・・・・おかしいわっ!!」


アンが拾ったクルミを手からこぼし勢いよく立ち上がった。


「こんなにクルミが落ちているのにリスがいない!」


森の動物達は冬ごもりの真っ最中のはずだ。それなのにリスが一匹もいない。メアリの胸に冷たい何かが広がったと同時に馬のいななきが耳をついた。メアリは辺りを見回す。山小屋までの道に誰もいないことを見て取ると2人に叫んだ。


「アン様!キャロル様!山小屋へ急ぎお入り下さい!」


ビクリッ!


2人の女児はメアリの声に驚く。

メアリは2人の背中を押し山小屋へ急いだ。


『馬が近くまできている!それも大勢!』


西の屋敷へ戻る余裕はなかった。


パタンッ!


メアリはアンとキャロルを伴い、山小屋へ入ると静かに分厚い木の扉を閉めた。


山小屋の中はひんやりとしていた。2ヶ月前に建ちあがったばかりの山小屋内は真新しい木の香りが充満していた。

部屋の中を見回し、変わりがないことを確かめる。メアリは2人に状況を説明すると身を隠す場所を示した。


「アン様、キャロル様、お声を立ててはいけません。

大勢の馬が近くまで来ています。

馬が通り過ぎるまでこちらで隠れていましょう」


メアリは2人を裏口の隠し扉のある部屋の物陰に(いざな)った。隠し扉の向こうには屋敷へ通じる隠し道がある。セルジオは万が一に備えて山小屋の裏口から屋敷へ通じる隠し道を作っていた。


『このまま素通りしてくれればよいのだけれど・・・・』


ドキンッ!ドキンッ!ドキンッ!


メアリは鼓動が速さを増すのを感じていた。

それでも2人に鼓動の高鳴りを気取(けど)られない様、深く静かに息を吐く。


「ヤギンス様、このような所に小屋があります」


ビクリッ!


くぐもって聞えた声に身体が硬くなるのをメアリは感じた。


『あぁ!神様!このまま見つかりません様に!』


メアリは2人の女児の肩をそっと寄せながら息を飲む。外は数人の人と馬の気配がしていた。


「姉さま!恐い!」


キャロルが涙を浮かべながらアンに身体を寄せる。


「お静かに!声を立ててはなりません」


メアリはどうか外に声が聞こえていませんようにと願いながら2人の肩を抱きよせた。


バンッ!!


山小屋の扉が勢いよく開く音がした。


ビクリッ!


3人の騎士が山小屋の中へ入り様子を伺う。


『あぁ!神様!』


メアリは2人を更に引き寄せきつく抱きしめ目を閉じた。



ドサツッ!


何かが倒れる大きな音に山小屋の中へ入った3人の騎士が扉の外へ目を向けた。


ザワッザワッ!


突然、外が騒がしくなった。


「ここで何をしている!」


聞覚えのある声がメアリの耳に入る。


『セルジオ様?』


3人の他に山小屋の様子を伺いに同行したのは5人。その内の1人を後ろ手に捕え、セルジオは言った。他の7人が剣に手をかける。


1人を後ろ手に捕えたセルジオは侵入してきた騎士の姿を確認する。


「その紋章はスキャラル国の者だな!我が地にて何をしている!」


再びセルジオの声がメアリの耳に入る。


「何をしているもなにも、解りませぬか?

御国シュタイン王国へ攻め入る途中の休息場所を探していたのですわ」


先鋒隊(せんぽうたい)の隊長と思しき人物が答える。


「ほう、ここをセルジオ・ド・エステールが守る(とりで)と知ってのことか?」


シュタイン王国西の砦。エステール伯爵家の所領の一つであり、セルジオ騎士団が守護する西の森の北端に位置する砦だ。西の砦は隣国スキャラル国との国境が浅い最も危険な場所であった。


「セルジオ・ド・エステールだと?・・・・

青き血が流れるコマンドールかっ!」


金色に輝く髪、深く青い瞳、紋章にサファイヤをあしらったエステール伯爵家に代々伝わる剣を見やりながらヤギンスは続ける。


「我が名はヤギンス・バロッグ。

スキャラル国ジークフリード隊の先鋒をつとめる者。

セルジオ殿とは知らずに失礼をした。その者を放しては下さらぬか?」


ヤギンスを囲む6人はセルジオの名を聞き後づさる。

セルジオは後ろ手を捕えながら山小屋の中へ目をやった。物陰からこっそりこちらの様子を伺うメアリと目が合った。


『無事か!間に合いよかった!』


セルジオはメアリに目配せをした。


『逃げよ!2人を連れて裏口から屋敷へ向け走れ!』


メアリは(うなず)き、裏口から出る機会をうかがう。

セルジオは小屋の中にいる3人の騎士を外へ出す様(うなが)した。


「ヤギンス殿、まずはそなたらが小屋から出ることが先であろう」


セルジオから目を離さずヤギンスは小屋の中にいる騎士へ号令する。


「出よ!」


ヤギンスの言葉に小屋の中の3人は屋外へ出た。


ヤギンスの後ろに6人の騎士が斜線(しゃっせん)を組み立ち並ぶ。1人はセルジオに捕えられているとはいえ、セルジオ1人に対して8人。ヤギンスは強気な声音(こわね)をあらわに再び捕えた騎士を離すよう言う。


「さぁ、セルジオ殿、出ましたぞ。その者をお離し頂けぬか?」


セルジオは山小屋の中へ合図を送る。メアリは飛び出す機会を伺いながら2人の手を取った。


セルジオは山小屋の扉を閉める様(うなが)す。


「スキャラル国では部屋から出る際に扉を閉めぬのか?

我が国では、必ず閉める習わしだが・・・・」


セルジオは表扉を閉めるまで、後ろ手を離さないとばかりに言いやった。


メアリは2人の女児の耳元に(ささや)く。


「よいですか!扉が閉じたら裏口から出ます。

走ります故、ドレスの(すそ)をお結び下さい!」


アンとキャロルは小さな震える手で自らのドレスの裾を結んだ。

ヤギンスはセルジオの言葉にしぶしぶ扉を閉めさせる。


「扉を閉めよ」


バタンッ!


大きな音を立てて表の扉が閉まった。同時にメアリは2人の手を取り、裏口から音を立てずに屋敷への隠し道を走り出した。



ヤギンスはセルジオの申出に従ってやったと言わんばかりにしたり顔で言う。


「さぁ、これでいかがですか?セルジオ殿。

私の配下の者を離しては下さらぬか?」


ドサッ!ガチャッ!


セルジオに後ろ手を離された騎士はヤギンスへ駆け寄ると斜線に構える騎士の一番後ろに構えた。

セルジオは8人の騎士から距離を取る。


1人対8人の対峙(たいじ)ができるとヤギンスは怪訝(けげん)そうな顔を向けた。


「しかし、セルジオ殿、この様な所にお独(ひと)りでこられるとは!

宣戦布告した北戦域ではないとはいえ、

余りに我が隊を見くびっておいでではありませぬか?」


ヤギンスら8人の騎士に厳しい目を向けながらセルジオは心の中で呼応した。


『その通りだが、致し方あるまい』


セルジオはここをどう乗り切るかを思案していた。



スキャラル国ジークフリード隊の先鋒は騎馬隊30騎、歩兵隊50名の80部隊だ。歩兵は槍隊・弓隊・剣隊の3部隊に分かれている。


通常の戦いは宣戦布告をし、双方が戦う準備を整えた上で対戦することが習わしであった。スキャラル国が宣戦布告をしたのはオーロラが向かったシュタイン王国の北西に位置する北戦域だった。


西の砦はシュタイン王国の真西に位置する。ヤギンス率いる先鋒隊は明らかに奇襲であり、騎士の戦闘としては卑劣(ひれつ)な行為であった。


しかも、最前線の戦線調査に先鋒隊隊長自らが(のぞ)むことなど考えられない。セルジオはスキャラル国の先鋒隊隊長がこの人数で表立っていることに違和感を覚えていた。


奇襲であればこそ、西の砦にはシュタイン王国の騎士団は到着していないと踏んでいたのだろう。


『だから、先鋒隊長自らか・・・・』


セルジオはヤギンスらの騎士としてのプライドを刺激する心理戦に打って出る。


「スキャラル国の騎士は、騎士の道理をわきまえておらぬようだな!

宣戦布告した北戦域ではなく、西より攻め入るなど

騎士の正義を正義と思わぬ(やから)(ぞろ)いということかっ!

不意打ちなど騎士とは呼べぬなっ!」


セルジオ自身を(おとり)にし、先鋒隊本隊が到着した後もこの場で足止めをする挑発だった。


「なにっ!?」


ヤギンスはセルジオの挑発にまんまとのった。


先鋒隊隊長までつとめる騎士が奇襲(きしゅう)卑劣(ひれつ)と思わない訳がない。このまま王都まで攻め入ることを躊躇(ちゅうちょ)すると考えたのだ。


セルジオは更にヤギンスの持つ奇襲への疑念を膨らませる。


「これはっ!気付いてはいなかったのか?!

奇襲が騎士にとり最も卑劣(ひれつ)な行為であることを

スキャラル国は平然とやってのける!

そうであろう?その様な卑劣な(やから)

騎士を名乗る資格はないっ!!」


セルジオはヤギンスへ見下(みくだ)した目を向けた。


ヤギンスの(こぶし)はふるふると震え、騎士としてのプライドを傷つけられた怒りが煮えたぎる目でセルジオを(にら)みつけた。

セルジオはニヤリと笑う。


『かかったっ!!これで平静さを失う。

後はできる限り、この場に先鋒隊を留めさせることだ!』


セルジオは対峙する8人の騎士と間合いを取りながら山小屋入口からヤギンスらを引き離す方向へ足を進めるのだった。


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