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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第2章:生い立ち編1~訓練施設インシデント~
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第19話 インシデント15:師弟の絆

ギィィィィーーーー

パタパタパタッ・・・・


城壁最上階回廊へ出ると強い風が視界を遮った。バルドはセルジオの前へ出てマントで風をよける。


「セルジオ様、目をお開け下さい!この様な時が一番危のうございます。

目を閉じるのであれば辺りの『気配』を感じる事です。

我ら戦う事を常とする者は独特の『気配』を携えております。

血香(けっか)』と呼んでおります。

人を殺める者の『気配』にございます。

されどこの『気配』を消す事もまた我らが身に付けること。

風よけにはこのようにマントを使います」


フワッ

ハタハタハタッ・・・・・


バルドは自身が(まと)うマントを顔の前で(おお)い、風よけをしてみせた。


ザッ

カランッ・・・・・


ファサッ・・・・

パチリッ!


バルドはセルジオが背中に担いている矢袋を降ろすと手にしていた麻袋からセルジオの背丈に合わせたマントを取り出し羽織らせ、肩部分にあるボタンをとめる。


「セルジオ様、今一度天井扉の中へお入りください。

外より天井扉を叩きます。叩いた後に扉を開きます故、

マントにての風よけ訓練を致しましょう」


「承知した。扉が叩かれたら外へでればよいのだな」


セルジオはバルドに呼応した。


ギィィィィ・・・・

バタンッ!


バルドはセルジオのみ天井扉から最上階階段踊り場へ戻す。


コンッコンッコンッ!


バルドは短剣の柄で天井扉を3度叩き、扉を開けた。


ヒュゥゥゥゥーーーー

ハタハタハタッ・・・・


バルトのマントが回廊踊り場へ吸い込まれ、ハタハタとはためく。


「セルジオ様?」


扉の前にいるはずのセルジオの姿がない。


「セルジオ様っ!!」


『目を放した(すき)に誰ぞに拉致(らち)でもされたか!階段より落ちたかっ!』


バッババッ!


バルドは慌てて天井扉の中へ入ろうとした。瞬間、扉の壁の影から短剣を手にしたセルジオがバルドの懐目掛けて飛び出した。


ザッザザッ!


バサッ!カカン!ドサリッ!


一瞬の内にバルドはセルジオが(ねら)いを定めたバルドの(ふところ)を斜めによじり、マントでよける。

手にしていた短剣でセルジオの短剣をはたき落とした。向かった勢いでセルジオは回廊の石畳にうつ伏せに転ぶ。


「セルジオ様!直ぐに体勢を整えられよ!」


バルドはセルジオに戦いはまだ終わっていないと告げる。


スチャッ!

バチリッ!

カランッ!

ザッザザッ!


セルジオはマントを外し、背中の木製の剣を鞘から抜いた。左を大きく後方へ引くと切っ先をバルドの腹部へ向け力一杯に石畳を蹴る。


カンッ!

ヒュンヒュンヒュン・・・・

ガランッ・・・・


木製の剣は宙を舞い回廊の凹凸壁にあたり、落下した。


シャッ!

ザッザザッ!


セルジオは体勢を崩さず腰の短剣を両手で抜くとバルトの股下(またした)を通り抜け、背後からバルドの両足首の(けん)へ切りこんだ。


ガキッチッ!


セルジオの両手に握られた短剣はバルドの両足で踏みつけられていた。見上げると目の前に短剣の切っ先がある。


「セルジオ様、お命落しましたぞっ!」


バルトは短剣を(さや)へ納める。


「・・・・」


セルジオはうつ伏せの状態のまま無言で顔を伏せる。背中にコツン!と鋭い物があたった。


「セルジオ様、

背中から心の臓を剣で刺されましたぞ!あきらめてはなりませんっ!

命ある限り、あきらめてはなりませんっ!さっ!そこからどうなさるっっ!!」


バルドの発したその言葉にメラリッ!と音が聞こえた気がした。


ブッブワワッ!


セルジオの身体から『青白き炎』が湧き立つ。


ガサリッゴロッ!

コッココンッ!

ゴロッゴロッゴロッ・・・・

スチャッ!


セルジオは両手の短剣を握りうつ伏せの身体を仰向けに回転させた。背中に突き立てられた木製の剣を短剣ではじく。そのまま3回転半、身体を起こすと再び双剣の構えをした。


ザッザザッ!


バルドへ向かい風を切る。


カン!カン!カン!カン!カーーン!


セルジオの短剣は両手からはじかれ、喉元(のどもと)にバルドの短剣の柄があてられた。


「セルジオ様、お命落しましたぞっ!」


「・・・・まいりました・・・・」


セルジオは観念(かんねん)し、バルドにかしずく。立会の終わりの挨拶をした。


「セルジオ様、今の敗因(はいいん)はどこにございましたか?」


「・・・・先程の訓練の時と同じだ。

扉から出る際に加減(かげん)をした。何も申さずに勝手に私が始めた訓練だ。

バルドが気付かなければ傷をつけると躊躇(ちゅうちょ)した」


少しふてくされセルジオは呼応する。


「セルジオ様、己の未熟(みじゅく)さをお認めにならねばなりません。

加減をせずともセルジオ様は私には(かな)いません。

今、セルジオ様に負ける様では私はお役目を返上(へんじょう)せねばなりますまい」


スッ・・・・


バルドはここで膝を折り、セルジオと目線を合わせる。


「セルジオ様、私の瞳をご覧下さい」


グッ・・・・


両手の(こぶし)を握りしめうつむいているセルジオの顔を上げさせる。バルドはセルジオの両肩にそっと手を置き、セルジオの深く青い瞳をバルドの深く紫色の瞳でじっと見つめる。


「よいですかっ!セルジオ様っ!団長は『強さ』だけでは務まりません。

己の『弱さ』を己自身で認める事が必要です。『弱さ』があってもよいのです」


「騎士と従士の力を借り、力を合わせる事ができて初めて騎士団の『強さ』となります。

団長お一人が『強い』のではございません。

皆の力を合わせることができる団長こそが『強い』のです。

それにはまず己の『弱さ』をお認めになること『謙虚(けんきょ)』になることです」


フワッ・・・・


バルドはセルジオを抱き寄せ、頭をなでる。


「セルジオ様は私に勝てると思っておいででしたな。

されど不意打(ふいう)ちでは卑怯(ひきょう)だとも思われた。

それ故『加減をしたから負けた』と申された」


「これは『加減をせねば勝てた』と言う事にございます。

この言葉はセルジオ様がご自身のお力を『過信(かしん)』されていることになります。

よいのです。今は『勝てず』ともよいのです。

『弱さ』をお認め下さい。訓練は『弱い』からするのではなく、

『強く』なる為のものです。心身共に『強く』なるために訓練があるのです」


バルドはセルジオをギュッと抱きしめる。


「バルド・・・・悪か・・・感謝申す。私の勝手な訓練に立会うてくれ、感謝申す」


セルジオはバルドの胸に顔をうずめ小さな手でバルドのマントを(つか)む。


「よいのです。これで『過信』を体験された。

セルジオ様はこれから益々『強く』おなりになります。

女子である事をご案じなさいますな」


バルドはセルジオの『焦り』の(みなもと)がどこにあるのか気付いていた。


『今日から合同訓練の同行者が増える。

エリオス様、アドルフ様は男子でありしかも2歳と3歳の年長、

ミハエル様は女子であるがセルジオ様より2歳年長でいらっしゃる。

今のご自身の力量で合同訓練で遅れを取らないか、男子より骨が細く、

肉も薄く、力では敵わないと言われた事を気にされたのであろう・・・・』


バルドはセルジオの瞳を見つめ一つ付け加える。


「セルジオ様、訓練は『己より強い者』と行わなければ訓練ではございません。

今日の様にセルジオ様より皆様が年長で、しかも訓練を積んでいらっしゃる。

力量もセルジオ様よりおありの方々です。

なれば訓練のし甲斐もあると言う事!よいことですぞ!」


セルジオはハッとする。


「そうであったな!バルド、私はまた『感謝』を忘れる所であった。

皆、『弱い』私の訓練に立会ってくれるのだな。感謝申すであった」


セルジオは瞳を輝かせる。


「左様にございます!『感謝申す』にございます」


2人は散らばった武具を拾い、装着し身なりを整えるとエリオスらが待つ西門と北門の中程にある合同訓練場所へ向け歩き出した。


「バルド!私はそなたが師で幸せだ。私の師となり、育ててくれ感謝申す」


左斜め後ろを歩くバルドに向かいセルジオは力強く告げる。


「セルジオ様・・・・何よりのお言葉にバルドは胸が張り裂けそうです!」


バルドは目頭(めがしら)が熱くなる。


「バルドの申す通り、私は騎士となり、

騎士団団長となる為にこれから『強く』なるぞっ!己の『弱さ』を認めてな」


自身に言い聞かせる様に話すセルジオの小さな背中を見つめ、バルドの視界は(ゆが)む。少し震える声で呼応する。


「これからが楽しみです・・・・セルジオ様」


『日々の行いで心の土壌は肥沃となろう』


一つ一つの事を通してポルデュラの言葉そのものの意味を感じ、セルジオとの(きずな)が深まっていくのだとバルド思うのだった。


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