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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第2章:生い立ち編1~訓練施設インシデント~
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第15話 インシデント11:覚醒

バルドが立てた「最善の策」始動から3ヶ月が経った。バルドは麻布を使い(ふところ)にセルジオを常に抱えていた。離乳食(りにゅうしょく)も始まり、懐で徐々に重くなるセルジオにバルドは喜びを感じていた。


「セルジオ様、本日はエリオス様と従士オスカー殿と共に

城壁最上階の回廊(かいろう)を回ります。

エリオス様の弓射訓練(きゅうしゃくんれん)にございます。

天気もよく、回廊からの眺めはそれは素晴らしいですぞ」


バルドは日々の訓練予定をセルジオに告げていた。

誰と、どこへ、何の為に赴くのか。そして、どんな事をセルジオに見せたいか、触れさせたいか、体験させたいかを聞かせる。


戦略をねる時に必要な目的を明確にした上で全体像を捉え、細部を決めていく。そこには机上だけでは得られない『人の感情』があることを認識させる為だった。


エリオス・ド・ローライド。ローライド准男爵家第二子でセルジオより2歳年上の男子であった。

将来、セルジオ騎士団第一隊長となる人物だ。エリオスは生殖器排除手術を受け、戦闘訓練に入った所であった。


セルジオは首も座り、つかまり立ちができるまでになっていた。バルドは首が座ると遊び道具を与えた。訓練施設での遊び道具は武具が与えられる。物を掴める様になると短剣、弓、矢、槍、石、金づち、小さな(おの)等、普通は子供から遠ざける危険な道具が与えられた。


武具を握る力が出てくる頃になると鶏の胸肉をあぶり豚の胃袋で包んだ『獲物(えもの)』が与えられる。武具で『肉を刺す』感覚と力加減を体得する為の教育だった。


バルドはセルジオに特注の短剣を与えた。赤子でも(ヒルト)が力強く握れる様に(ヒルト)部分を『輪』にしたものだった。


刃の部分は片刃(かたは)両刃(りょうば)を作らせた。まだ、握る力が弱い赤子である事を考慮し、両刃を優先して握らせていた。

握らせた両刃の短剣で『獲物を刺す』訓練を日に30回は行った。


短剣を握ったセルジオの手をバルドが支え、『獲物』に突き刺す。そこから左右に裂く。


グッグサッ!

グッザッ!ザッ!


これを左右の手交互に行う。始まりと終わりは両刃の短剣をセルジオ自身で(さや)へ納めさせた。(さや)をまず左手に持たせる。次いで短剣を右手に持たせて(さや)へ納めさせる。


チッ!

カチャンッ!


もう一方は反対に鞘を右手に持たせ、短剣を左手で鞘へ納める。両刃の短剣を両手で扱える訓練だった。


『流石と言おうか・・・・

短剣のなじみ方が赤子とは思えん・・・・』


バルドはさほど握る力もない赤子が握る位置を自ら調整している(さま)に感心をしていた。


一通りの日常訓練を終えるとバルドはセルジオにエリオス同行の持ち物を告げる。


「セルジオ様、短剣を2口持参致します。こちらを腰へお付けいたします」



小さな腰に合う革のベルトに短剣2口を固定する。セルジオは黙って、バルドに従っていた。


トンットンットンッ!


「バルド殿、そろそろまいります。ご準備よろしいでしょうか?」


オスカーがエリオスを伴いセルジオの武具訓練部屋へ入る。

エリオスはバルドの立てた「最善の策」以降、それまで使っていたセルジオの居室斜め下層階居室からベアトレスが使っていたセルジオの居室2つ隣の部屋へ移っていた。


「セルジオ様、バルド殿、

本日は我が弓射訓練にご同行下さり、感謝申します」


エリオスが3歳とは思えない口調で挨拶をした。

その様子を(かたわ)らのオスカーが目を細めながら見守る。


「エリオス様、オスカー殿、

我らこそ、同行させて頂き感謝申します。

セルジオ様はご覧の通り、まだお言葉が話せませぬ故、

私が(あるじ)に代わり返答致します」


バルドは膝を折り、エリオスの目線に合わせて挨拶をする。

エリオスは真っ直ぐにバルドとバルドの懐に抱えられているセルジオを見て、深く(うなず)いた。


訓練施設最上階回廊へはエステール伯爵家の従者がつめている王都城壁西門の西階段を使う。


最上階は城塞そのもので凹凸壁(おうとつへき)射眼(しゃがん)が設けられている。そこから地上に設けられている(まと)へ弓を射る。上部から下部へ向けての弓射の訓練である。


また、凹凸壁の所々に的が設けてあり、静止状態と動作状態等、実戦に近い状態で訓練ができる設備となっていた。


まだ、3歳のエリオスは静止状態での弓射の訓練から入っていた。

背丈(せたけ)に合わせた短い弓矢で(つる)はやや硬めに張られている。子供の力で弓を引くことができる強さに調整されていた。


オスカーはエリオスが使用する弓矢はエリオス自身に持たせ、城壁最上階回廊へ向け西階段を上った。

階段は外からの侵入防御の為、一段一段が高く造られている。元来の施設使用目的が軍事要塞であることから手すりはない。


エリオスは矢袋に納めた10本の矢を背負い、階段一段毎に弓を置くと、自身が上がりを繰り返し、一度もオスカーの手を借りる事なく回廊踊り場まで登り切った。


「エリオス様、ようお独りで登られました。

どこぞ、痛めてはおりませんか?」


エリオスの後ろからつき随っていたオスカーが微笑みを浮かべ声を掛ける。


「大事ない。時を要しすまぬ」


エリオスの周りへの配慮(はいりょ)にバルドは驚きオスカーの顔を見た。この先が頼もしくあると確信した何とも満足げなオスカーの顔にバルドは胸に熱いものを感じていた。


最上階の堅牢(けんろう)な天井扉を開け、回廊へ出ると(まぶ)しい程の光と初夏を感じさせる南風が4人を出迎えた。


「オスカー殿、城壁はどちらの方角から周りますか?」


バルドはできれば『南門』は遠ざけたいと考えていた。


『南門はマデュラ子爵家の守り所故・・・』


バルドの思案気な表情を気遣う様にオスカーは呼応する。


「ご案じなさいますなバルド殿。南へはまいりません。

本日は西門から北門にかけて静止弓射を行います」


オスカーは辺りを見回し、状況確認をしながらバルドへ返答をした。


「オスカー殿、感謝申します。

私はセルジオ様と共に後を追います。

セルジオ様の歩行訓練を致します故」


バルドはセルジオを(ふところ)から降ろすと柔らかな子羊の革であつらえた(くつ)()かせ、靴ひもを結びながらオスカーへ呼応した。


「承知致しました。

では、各々これより訓練開始とまいりましょう」


オスカーはにこやかに開始の合図をした。

エリオスはオスカーの(さま)を視る様言われ、矢の装着から弓の構え、放ちまでをじっと見ていた。


チャッ

キリリッ・・・・リッ!

ピンッ!スパンッ!


凹凸壁(おうとつへき)射眼(しゃがん)中央にオスカーの放った矢は命中した。


一連の動作が終わるとエリオスはオスカーと同じ動作へ入る。背中に担いでいる矢袋から矢を一本抜き取り、弓へ装着する。弓を縦に構え、凹凸壁の的へ向けて矢を放った。


ガサッ・・・・カッ・・・・

キリリリリリィッ・・・・

ブキンッィィィン!

カランッ・・・・

シャ・・・・


矢は(まと)まで届かず、回廊の石畳へ乾いた音を響かせた。


「・・・・部屋では的へ届いたが・・・・風か?」


エリオスは矢が的まで届かない原因がどこにあるかを自ら考え、頭の中で検証していた。


オスカーが答える。


「左様にございますっ!

ここは城壁最上階、風が強く矢を放つ向き、

早さで的までの妨害(ぼうがい)となります」


オスカーはやってみせた上で今の力量に合わせた最善の策(方法)を見出す糸口を見つける方法を教えていた。


戦場ではこれを瞬時に行わなければ身を守る事も主を守る事もできない。常に死と背中合わせの状況に置かれている事を認識する事が戦闘訓練で一番重要とされていた。


エリオスは弓射の一連の動作を繰り返し行っていた。バルドはエリオスとオスカー師弟のやり取りを見終えるとセルジオへ目を向けた。


凹凸壁を背に両刃の短剣を鞘から抜き、納めるを両手同時に行っていた。しかも左右を交差した状態で抜き、胸の前で構えをした後、今一度左右交差し、鞘へ納める。


これはバルドがセルジオの目の前で見せていた動作ではあるが、セルジオへは片手での動作しかさせた事はなかった。バルドは驚き、セルジオへ駆け寄る。


「セルジオ様っ!大事ございませんか?

どこぞ、切ってはおりませんか?」


両刃の短剣は刃が()がれた状態でセルジオに扱わせていた。その為、流石にバルドといえどもセルジオが一人の時は扱わせていなかった。


「・・・・だだだだ」


セルジオはバルドの驚く様子に『大丈夫だ』と言わんばかりに言葉を発する。セルジオの身体から血が滲んでないかを確認するとバルドは胸をなで下ろした。


『まだ!一歳にもならぬお子がだ!

私の短剣の扱いを真似るとは!』


バルドは自身が感じているよりも早くセルジオが成長している事に恐ろしさを初めて感じていた。


ギャーギャーギャー


突如、動物の大きな鳴き声が聞え、バルドは振り向く。10匹程の真っ赤な目をした大ネズミが南側の凹凸壁の外側からセルジオ目掛け襲いかかってきた。


シュッシュッ!!

スバッ!ガッ!

キィィィィ・・・・


バルドは瞬時に短剣を放った。短剣はネズミの口から後頭部へ突き刺さり三匹を仕留める。


チッ!

シュッ!

ズバッ!ベチョッ!


チッ!

シュッ!

ズバッ!ベッベチョ!


オスカーが気付き、連続して矢を放つ。二匹に命中し、矢と共に地上へ落下していった。


ダッダダッ・・・・

シュバッシュバッズバッ!

ザッザッ


バルドはネズミに向かって走り二匹の首を落とす。


ガッガラッ!

キリキリキリッ!

ビィィィン!シュッ!

ドサッ!


エリオスも矢を放ち、一匹の胴体に突き刺さった。


バルドが残りのネズミに目をやると一匹がセルジオの喉元(のどもと)目掛け大きく口を開けているのが目に入った。


カッシャァァァァ・・・・


バルドの位置から短剣と放てばセルジオをも(つらぬ)いてしまう。


「セルジオ様っっ!!!」


ブッブワワッ・・・・


バルドの叫びと同時にセルジオの身体から『青白い炎』が湧き立った。セルジオは腰の短剣を左手で抜き、ネズミの首から胴体へ向けて振り下ろした。


グザッザァァァァ・・・


ギッギャーーーー

ドッドサッ!


ネズミは大きな声を上げ、振り下ろされた短剣と共にセルジオが座っている足元へ仰向けになる。首から縦に切り裂かれた胴体から内臓が顔を覗かせその身体はピクピクと痙攣(けいれん)をしていた。


セルジオは振り下ろした短剣はそのままに胴体の裂け目に右手を入れ、内臓を引き出した。


グッ・・・グチャッ!

ブチッ!


ギャーーーーー


再びネズミは大声を上げるが、絶命はしていない。返り血を浴び真っ赤に染まったセルジオは深く青い瞳を見開き、青白い炎は勢いを増す。


ビッビチッ!

ブッブッブチッ!


引き出したネズミの内臓を短剣で切り裂いた。


その行動は『肉を切り裂く』日常の訓練そのものであったが、生きたままの動物の内臓を引き出し、切り裂く幼子のその(さま)にオスカーは背筋(せすじ)が凍りつき、エリオスを自身の(かたわ)らに後ずらせた。


サッ・・・・


全てのネズミを仕留めた事を確認するとバルドは青白い炎を携えたまま、ネズミの内臓を切り裂いているセルジオに近づく。


「セルジオ様、命は(もてあ)そんではなりません。

仕留める時は『一瞬の一撃』でございます。

痛みも恐怖も持たぬ内に仕留めるのが騎士の道理にございます」


バルドは静かにセルジオの右手から絡まったネズミの内臓を解いた。胴体の裂け目を開く。真っ赤な胴体の裂け目に規則正しく動いている物を触らせる。


「これが『心の臓』と言われる物にございます。

動いている間は死んではおりません」


そう言いながらセルジオに自身の左胸を触らせる。


「セルジオ様のお身体にも同じ物があり、動いております。

解りますか?」


セルジオの深く青い瞳をじっと見ながらバルドは続ける。


「セルジオ様、ネズミが苦しんでいるのが解りますか?

首から胴体を切り裂かれ、内臓を引き出され、

それでもまだ息があります。

早く、苦しみから解き放つ事が優しさにございます」


そう言うとバルドは再びセルジオに短剣を握らせた。


「一瞬の一撃で仕留めるには首を落とす事が肝要(かんよう)にございます」


グッザバッ!


短剣を握らせたセルジオの手を取り、ネズミの首を落とす。胴体の緊張がゆるみ、暫くするとネズミは動かなくなった。

バルドはセルジオをそっと抱きよせる。青白い炎は納まっていた。


『セルジオ様は、戦いの場で『青白き炎』を出される。

己の(さが)を『覚醒(かくせい)』されたか』


解っていた。セルジオは『青き血が流れるコマンドール』の再来だと解っていた。生まれながらに背負う宿命(しゅくめい)とはいえ、バルドはセルジオが不憫(ふびん)でならなかった。


「ようございました。ご無事でようございました。

初めての『狩り』をなさいましたな」


バルドはセルジオの深く青い瞳を見つめ優しく頭をなでることしかできなかった。


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