第11話 インシデント7:始まりのはなし2
バルドが語る『始まりのはなし』はシュタイン王国の成り立ちに遡った。
現在のシュタイン王国は神聖ローマ皇帝の承認を得て独立国家とされている。国の支配下に18家名の貴族をおき、貴族は王家から爵位と領国を賜り、世襲制で管理運営を担っている。
王国は大枠の法制度と公道・上下水等のインフラ整備、他国との折衝等を担う。貴族所領の管理運営方法は各々貴族に全て委ねられる。各貴族は自領国内を区分し准貴族に爵位と管理地を与える。この仕組が一国として機能するまでに100有余年の時を要した。
100年有余年前、まだ国が荒れていた時代が、『始まりのはなし』の舞台となる。
18家名貴族の内、3家名貴族は元々は他国の家名であった。
クリソフ男爵、トリフェン子爵、そしてマデュラ子爵。この3家名は東の隣国シェバラル国と南の隣国エフェラル帝国から、それぞれの国の事情でシュタイン王国が引き取った事になっている。
が、その実は内紛の首謀者とみなされた者が一族の中にいた家名や騎士団を有さず、国の守りとなる事を拒んだ家名等、厄介払いされた家だった。
厄介払いされたとはいえ貴族である。武勲を上げ、汚名を晴らそうと躍起になっていたのがマデュラ子爵家であった。
マデュラ子爵家の騎士団は勇猛果敢ではあるが、統制がとれずに騎士崩れの野盗になり果てる者もいた。
当時の騎士団は神聖ローマ帝国からの要請で遠征に赴く事が第一の役割であった。平時は自領国の交易を守護する護衛につく事、自領内の治水や田園等の管理運営、もめ事を治める等その任務は多岐に渡っていた。
元々、シュタイン王国の家名でないマデュラ子爵が名を上げるには相当の力量が必要とされる。思いとは裏腹に騎士団の実態は統制がとれていない。まして勇猛果敢であるが故に王国にとっては危険因子とされていた。
この時のマデュラ子爵家騎士団団長がギャロット・ド・マデュラ。赤毛に赤ひげを携えた大男でその粗野な風貌は、肌が白く洗練されたシュタイン王国他貴族の騎士らから「統制が取れない粗野な風貌のマデュラ騎士団団長ギャロット」とささやかれ、冷ややかな目で見られていた。
特に両国間で交流のあるエフェラル帝国との交易では野盗になりはてたマデュラ騎士団の元従士に荷や命までを奪われる他貴族や商人もおり、神聖ローマ帝国の要請により赴く遠征でどんなに武功を上げようとシュタイン王国国内でマデュラ騎士団団長ギャロットの評判が上がる事はなかった。
その苛立ちはシュタイン王国国内外に名を轟かす伝説の騎士『青き血が流れるコマンドール』の再来と謳われたたエステール伯爵家騎士団団長セルジオ・ド・エステールへの私怨となっていく。
エステール伯爵家はシュタイン王国建国まで遡ると王家の血統であった。領国の治め方が機能的で領主から、軍事、資産、治水や田園、畜産、森林、狩猟、流通等、農業、林業、産業、商業、物流等役割区分が明確になっており、准貴族から商人、農夫に至るまでエステール伯爵家を頂点にピラミッド型に管理体制がしかれていた。
また、土地の恵み豊かなシュタイン王国への侵略を虎視眈々と狙っている西の隣国スキャラル国との国境線を防備する「西の要」としても誉高かった。
『始まりのはなし』は南の隣国エフェラル帝国からシュタイン王国と正式に友好国として国交を結びたいと申出あったことにより両国の国交樹立に向けた書簡のやり取りの護衛をエステール騎士団が担った時に起こった。
正式な国交樹立に際した書簡のやり取りである。通常であれば王国として外交上の役目を担う、王都騎士団団長、もしくは王都近衛師団団長が国王直々に命を受け、その任にあたる。
しかし、国王が直々にエフェラル帝国への書簡と献上品を届ける命を下したのはエステール伯爵家騎士団団長セルジオ・ド・エステールだった。
国王から王都騎士団総長が命を受け、伯爵家であるエステール騎士団へ護衛の任につかせるのであれば道理が通る。
しかし、国王直々にエステール伯爵家騎士団へ命が下ったことで上意下達の規律が乱れることになった。
そこに作為的な何かを感じながらもエステール騎士団団長セルジオは、王命を遂行したのだった。
書簡と献上品を乗せた荷は船を使い、エンジェラ河を下りエフェラル帝国へ入る。護衛は船への同乗とエンジェラ河沿いでの同行の二部隊に分かれて行われた。
エステール騎士団団長セルジオは、無事にエフェラル帝国国王へ謁見し、シュタイン王国国王からの書簡と献上品を上納、エフェラル帝国国王からシュタイン王国国王への書簡と返礼品を受け取り帰路についた。
シュタイン王国国内マデュラ子爵領内に入った時、護衛が野盗に襲撃された。野盗は船の荷には見向きもせず、エンジェラ河沿いを同行するエステール騎士団団長セルジオだけを狙い矢を放った。矢を受けたセルジオを第一隊長エリオス・ド・ローライドが身を挺して逃がす。
エリオスは絶命し、一命を取り止めたセルジオは毒矢を受け騎士としては再起不能となった。
セルジオは、その後しばらくはラドフォール公爵家魔導士オーロラの擁護を受けていたが、そのオーロラが黒魔術を扱う魔女と嫌疑をかけられ狩られる。
嫌疑の首謀者はマデュラ子爵家騎士団団長ギャロット・ド・マデュラ。セルジオをおびき出す為の謀だった。オーロラは即刻火あぶりとなる。
セルジオは火あぶりの処刑場にオーロラの奪還に向かった。が、時すでに遅く炎は燃えさかり救い出す事は叶わなかった。
まんまとセルジオをおびき出したギャロットは本命のセルジオ抹殺に成功する。しかし、セルジオはギャロットを道ずれにした。自身が再起不能になり、エステール騎士団の世代交代がされた後、マデュラ騎士団内にエステール騎士団第二隊長だったミハエル・ド・ラドライトを忍び込ませた。
そこでエステール騎士団第一隊長エリオスを失い、自身も再起不能になった発端がギャロットの企みだと知ったからだった。
バルドはここまでを一気に話し、悲し気な表情を見せた。
「お互いに『私怨』でありました。
マデュラ子爵家ギャロット殿は己の裁量を見誤り、
青き血が流れるコマンドールともてはやされた
初代セルジオ様を妬みました」
「そして、初代セルジオ様は己の裁量を過信しておられました。
第一隊長エリオス様も魔導士オーロラ様も初代セルジオ様の
お命を守ろうとされての事にお気づきにならず、
ギャロット殿に向けられた恨みのみが残り、
復讐という騎士としてあるまじき行いに出られました」
バルドは静かに『私怨』の恐ろしさをベアトレスに伝える。
「『私怨』は判断を誤り、身を滅ぼし、
家名やひいては国の存亡を左右致します。
故に今、我ら騎士や従士は『感情を持たない』事が優先事項とされています」
バルドは続ける。
「このことからそれまでシュタイン王国貴族騎士団団長のみとされていた
『生殖器排除手術』が貴族と准貴族から輩出される
騎士全てにおいて生殖器排除手術が義務付けされる事となりました」
バルドはこれからセルジオが受ける事になる『生殖器排除手術』の理由をベアトレスに承知しておいて欲しい思いでいた。
「このお話しを第一隊長ローライド准男爵家、
第二隊長ラドライト准男爵家がご存知なのは
当事者がいらっしゃったからにございます」
バルドは話を知る者が限られている理由を告げる。
「悲しい事にここから『始まり』ましたエステール伯爵家とマデュラ子爵家の因縁は両家とも騎士団団長が互いの家名に殺された『私怨』が続いていることにございます」
バルドは丁寧に一つ目の『始まりのはなし』を終える。
「ポルデュラ様、足りぬ事等ございますでしょうか?」
バルドはポルデュラが知り得ている事と違いがないかの確認をした。
「うむ、そなたが今、話した通りでよいぞ」
ポルデュラは長椅子で眠っているセルジオの様子を気づかいながら呼応した。
「それでは、二つ目の『青白き炎』のお方のお話しを致します。
ベアトレス様、大事ございませんか?ご気分はいかがですか?」
バルドはベアトレスの反応を見ていた。
「大事ございません。お進め下さい」
ベアトレスは先程までの倒れそうな感覚は一切ないと言わんばかりに力強く答える。
「承知いたしました・・・・・」
バルドは一言付け加え、お茶を一口含み喉を潤す。
そして、二つ目『青白き炎の騎士』の話に入るのだった。




