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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第1章:前世の記憶の入口~西の砦の攻防とサファイアの剣の継承~
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第1話:プロローグ(記憶の入口)

「はぁ・・・はっ、はぁはぁ・・・・うぅ・・・・」


辺り一面真っ赤に染まっている。


『血液なのか?・・・・いや、炎?・・・・』


その両方が入り混じる中央に私は両膝をついていた。

左手に青白く光る鋭い短剣を握りしめ勢いよく自身の喉に向ける。


「わぁぁぁーーーーはっ!はぁ、はぁ、はぁ・・・・」


目の前に白い天井が見える。


ゆっくりと身体を起こし、額に手をやる。

全身に汗がしたたりおちているのがわかる。


「また・・・・同じ・・・・夢」


独りベッドの上で暫く額に手を置き、呼吸を整えた。


子供の頃から何度となく見た同じ夢。

最近、その夢をよく見る。辺り一面が真っ赤に染まり、炎に包まれている夢。


もう一つは炎に向かい叫び声をあげている夢。

どちらも大声をあげ目覚める。


断片的なその夢とどこで繋がるのかは解らないが、

灰色の馬にうつ伏せになり、背中に痛みを覚えながら朦朧(もうろう)としている夢もある。


「なぜ、こんな夢を見るのだろう?」


子供の頃、この夢を見るのではないかと眠ることが怖かった。

独りで抱えているのが()えられず母に夢の話しをした。


母は嫌な毒虫(どくむし)でも見る様な目で私を見下し言った。


「・・・・あなた、そんな話をしていると頭のおかしな子だと思われるわよ。

夢は夢。あなたの夢の事まで知らないわ。

私にそんな話しをしないでちょうだい!

それでなくても忙しいのに!」


母の決まり文句だった。


「それでなくても忙しいのに!」


この言葉を聞く度に胸の奥底で何かがうずくと感じていた。

胸の奥のうずきは回を重ねるごとに黒々とした(かたまり)に成長していく。


『もう、どんなに恐ろしくても夢の話しをするのはやめよう』


7歳の誕生日、自身の中で決着をつけた。

それ以来、何度も見る同じ夢の話しを誰かにすることはなくなった。


額に手を置き汗を拭いながら(つぶや)く。


「なぜだろう?今になってまた・・・・」


自身で結論が導き出せないことは考えない様にしている。


「時間のムダだな」


ここでもまた同じ決着のつけ方をした。



48歳、バツイチ、独身、子供なし。

パートナーは・・・・ただ今ビジネスパートナーを絶賛募集中。

社会に出て22年。組織の中で経営企画部に所属していた。

いわゆる企業戦士(サラリーマン)である。


「経営企画部ってどんな仕事をする部署なんですか?」


今ではさほど珍しくもないと思うが、数年前までは名刺交換の度に必ずと言っていい程質問されたものだ。

「企画」の上に「経営」がつく事で職種のイメージがつきにくくなるのだと理由づけをしていた。


経営企画は規模や業態にもよるが組織を将来に向けて活性化、成長する為のトップの構想を具体的に企画立案し、実行できる状態まで落し込む。


押すか引くかの判断材料を情報収集、編集、分析しトップへフィードバックをすると言った所が主な仕事だ。


この仕事、実はかなり泥臭くハードで休日がない事もしばしばある。

今であれば確実に法令違反と言えるだろう。


その頃の私は仕事が趣味で趣味が仕事だった。その為何の疑問も抱いておらず


「120%の成果を出して初めて仕事と言える!」


等と周りが引く様な事を当たり前の様に思っていた。


ついたあだ名は『サイボーグ』。

なぜ?そんなあだ名がついたのか?それとなく部下に聴いてみる。


「感情を一切表に出さず、目的を成し遂げる為にあらゆることをやり尽くすから」


だそうだ。部下は続ける。


「たまに思いますよ。感情を表に出さないのではなくて、

感情そのものがないのではないかと!」


(ひど)い言われようだ。


そもそも組織に所属し、その組織から報酬を得ているのだから目的を成し遂げることはしごく当たり前のことで、プロとしての責務(せきむ)だろう。(と、そこは今でも思っている)


とは言え、私とて不本意な仕事をやらざるを得ない事もある。

不本意と思わず、経験と思う様にしているだけだ。


が・・・・


社会に出て20年が過ぎた頃、歩んできた道と将来への道に違和感を覚え始める。


「このまま・・・ずっと・・・不本意な事も仕事だからで済ませていくのか?」と。


性分なのか?無鉄砲なのか?鍛え上げられた習性なのか?定かではないがある日退職届を出す。



「起業します!ので退職します!」


「はっ?どうしたの?突然!」


上司は驚く。


『それはそうだろう。一番驚いているのは何を隠そう私なのだから』


と心の中で思いつつ


「現在手持ちの4案件は完了させますのでご安心下さい!」


啖呵(たんか)を切った。

唖然(あぜん)とする上司と部下達。

その半年後晴れて退職、一年後に起業した。



はじめた仕事自体は経営企画と変わらない。


事業は永遠に継続していく事が理想であるが、時代に合わせて変容させていく事も経営者の役割の一つである。


そんな経営者の構想をヒヤリングし、プロジェクト化する。そこから案件ごとのロードマップを作成し、行動計画とタスク管理ができる状態までをスタッフと共に創り上げる。


PDCAサイクルが回る仕組みを構築し、社内で運用できるまでを組み立てる。

外部にいる戦略参謀と捉えて頂ければよいと思う。

個々の案件で対応できる戦略参謀の仕事は需要があるのだ。


『まるで傭兵(ようへい)だな』


と思いつつも少しづつではあるが、事業として食べていけるまで丸3年を要した。


とにかく大勢の経営者に会う事から始めなければ何も生まれない。

経営者や経営層が参加する異業種交流会に昼夜を問わず、毎日の様に足を運んだ。


起業したてのベンチャー経営者が通る道を私も同じ様に通った。

休日もなく、長時間働く事には慣れているものの3年程経った頃、どうにも体調が優れない。


「年齢のせいなのか?それともこれは更年期とよばれるものなのか?」


等と自問自答の日々を過ごしていた。

そんなある時、出席した異業種交流会で彼女と出会う。


『うん?どこかでお会いした事がある様な・・・・』


彼女をチラチラと見ていると


「あっ!今世でも会えましたね!来世で会おうと約束した事が果たせましたね!」


彼女は嬉しそうに歩み寄り私の両手を包んだ。


あまりに突然にまるで以前からの知り合いに久しぶりに会い、喜びが抑えられないと言わんばかりに向けられた『彼女の笑顔』に私はしばらく見惚(みほ)れ返事に(きゅう)する。


その頃『目に見えないモノやコト』は全くと言っていい程信じてはいなかったが、『輪廻転生(りんねてんしょう)』はあるのだろうとぼんやり思う事はあった。


彼女の言葉にそんな事を思い返していると包み込まれた両手から流れてくる言葉にできない感覚に戸惑いを覚える。


『この懐かしく、胸が熱くたぎるよう感覚はなんだ?』


そこでハッと我に返った。


「初めましてでしょうか?どこかでお目に掛った事がある様に感じていました」


と思ったままを口にしていた。

名刺交換を済ませると(しばら)く話しをした。


通常であれば職業柄『聞き役』に徹する。

当り障りのない世間話から入り、お互いの事業の事等をサラリと話し、何となく馬が合いそうだなと感じると話の内容が濃くなっていくといった具合だ。


だか、彼女は違った。

本当に以前からの知人に思えてならず私生活や最近の体調の事まで『私』から話していた。


彼女は「うん、うん、それで?」と相づちをうち、体調の優れない原因と思われる事柄を語った。


仕事柄、経営トップとお会いする事が多い。

どこの世界も『トップ』というものは背負うモノもコトも多いし、大きいものだ。

そう言う『目に見えないモノやコト』から何かしらの影響を受けるのだそうだ。


「お優しい方ですね。お優しいから影響を受けるのです」


彼女が言う。


「そうなんですか!優しい等と初めて言われました」

『・・・・かつてはサイボーグと呼ばれていたのだから』


相槌(あいづち)を打ちながらも心の中では全く信じられずにいる内に交流会は解散となった。


「また、機会があればお話ししたいですね」


彼女は目が離せなくなる程の満面の笑顔を向ける。


「そうですね。また、どこかでお会いできたら先程の話を聞かせて下さい」


『!!!何を言っているのだ?私は!』


思いもよらず口から出た言葉に驚く。


「はい!是非!信じていらっしゃらないかと思っていました」


彼女はサラリと痛い所をつく。


「・・・・読まれていますね!いや、実は正直、今はまだ信じてはいないです」


私は苦笑いをする。


「ふふふ・・・・

その内にご自身で思い出されてきますよ。そうなったらご連絡下さい」


彼女は意味深(いみしん)な言葉と共に会場を後にした。



何でも試してみたいと思う(たち)である。

思うだけでも考えるだけでも始まらない。行動に移してこそ何かが見えてくると思っている。


彼女と出会ったその日から私は体調不良と事象を体系的にデータ化する事にした。

眼に見えないモノもコトも数値化する事で顕在化(けんざいか)できると考えたからだ。


データ数が増えてくると


『おやっ?これは・・・・あながち信じられない事ではないかもしれない』


と思う様になる。


それからというもの体調が悪くなると彼女に連絡を入れた。


本来、体調の善し悪しを他者へ告知するなどあり得ない事だが、彼女の場合は体調不良の根源を取り除く『対処(浄化)』を得意としていたからだ。


ミラーニューロン効果なのか?

元々人間が持ち合わせていた能力が目覚めたのかは解らない。

が、彼女と出会って半年程経つと行った事もない場所の景色、会った事もない人の顔、いつの時代なのかと思わせる服装で会話をする様子、名前等が突然脳裏に映像で浮かんでくる様になった。


そしてあの決着をつけた子供の頃に繰り返し見た夢を見る頻度が増した。


『働き過ぎか?もしや?』


と思いながらも思い切って彼女に尋ねた。

7歳の誕生日以来、誰にも話す事がなかった夢の話だ。


彼女はあっさりと答えてくれた。


「あぁ!それはですね、前世の記憶です。思い出されてきましたね!

しかも感情が残ったままになっている部分がありますから浄化してあげた方がよいですね。

ひどくなると身体に痛みが出る事もあるのでその時は遠慮なく連絡して下さい」


「・・・・解りました」


『前世の記憶・・・・あの夢がそうなのか?』


と不安に思いながらも何が起こっても受け入れようと覚悟したのだった。



それから数日後の真夜中。右肩から右腕に激痛が走り眼が覚める。


「うぅぅぅぅ痛い、痛すぎて、吐き気がする!」


『何だろう?どこかでひねったか?』


ベットの中で横になりながら左手で右肩から右腕をさするが一向に痛みは治まらない。益々痛みが増している。


『まるで、右肩から切り落とされた様に痛い!動けない!!』


夜明けまで痛みに悶絶(もんぜつ)し彼女へ連絡を入れた。


「右肩から右腕が切り落とされた様に痛むのだけれど・・・・」


もちろん、実際に切り落とされた事等ないのだが、他に言いようがない。

起き上がれずに横になったまま電話越しに状況説明をする。


「あっ!切り落とされていますね!前世で切り落とされていますよ!

戦っている真っ最中です」


と返答がくるのと同時に目の前の景色が変わった。


あの夢が、子供の頃から繰り返し見た夢が、より鮮明に目の前に(よみが)える。


小屋の中、重装備の鎧に金糸で縁取られた蒼いマントを身に纏い、青白く光る剣を手にした私。

右肩を矢で射られ、右腕をバッサリ切り落とされている。

眼の前に重装備の騎士が多数見える。


「これは痛いですね!浄化します!」


彼女の声が遠のき身体がふんわりと(ちゅう)に浮かぶ感覚を覚える。


私の意識は夢ではない別のどこかへ飛んでいた。


お読み頂き、ありがとうございます。

イメージの中でタイムスリップして頂けたら嬉しいです。


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