表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
188/211

第129話 マデュラ騎士団36:真剣と短剣の手合わせ

マデュラ騎士団訓練場で正式対面を果たしたセルジオ達一行は、団長ブレンの勧めでしばし訓練の様子を見学していた。


騎士団の訓練は日の出前から早朝にかけてが一般的だが、マデュラ騎士団は船着き場での交易品の荷下ろしと荷積みを終えてから日の入り前までを訓練に充てていた。


団長ブレンの号令で再び150名程の重装備の騎士達が剣を手に取り手合わせを開始する。


間近で見る真剣での手合わせは交わる剣から火花が飛び散り、木剣の手合わせとは比較にならない程、鬼気迫るものだった。


訓練場の端に設けられた天幕に案内されたセルジオは、あまりの熱気に身体をブルリと震わせた。


団長ブレンはセルジオの様子にふっと微笑む。大人びた口ぶり、生まれながらに持ち合わせた影響力と存在感、王国最強と謳われたセルジオ騎士団で活躍したバルドとオスカーを従えているとは言え、幼い子らに変わりはない。


150名もの重装備の騎士が真剣で手合わせをする光景を目にすれば怖気づくのも無理はない。


ブレンはセルジオに声を掛けた。


「セルジオ殿、真剣での手合わせは初めてですか?ここまでの訓練は他の貴族騎士団では珍しい事でしょう。通常の手合わせは木剣を使いますから怪我をするにしても命を落とす事はございません。しかし、真剣となれば怪我よりも命が掛かっておりますから一瞬たりとも気が抜けぬのです。命に関わる緊張感が己を高める最良の訓練となります」


セルジオはブレンを見上げ、大きく頷いた。


セルジオが怖気づいていると思ったブレンにいたずら心が芽生えた。


「どうです?セルジオ殿。真剣での手合わせに混ざってみますか?」


その言葉に目を見開いたセルジオにブレンは断り言葉が返ってくると思った。


「はははは・・・・いささか、いたずらが・・・」


と、口にするかしないかの内にセルジオは身を乗り出した。


「よいのですか!!」


「えっ?!」


セルジオの思わぬ言葉にブレンは度肝を抜かれた表情を浮かべる。


「真剣での手合わせに参加させて頂けるのでしたらお願いもうしますっ!木剣での手合わせでは青き血の訓練で力の加減をせねばならぬのです。真剣であれば今持てる力がどれほどのものか知る事ができます」


唖然とセルジオを見つめるブレンにセルジオは深く青い瞳を輝かせ、己の訓練の状況を説明する。


セルジオは後ろで控えるバルドへ顔を向けた。


「バルドっ!よいか?ブレン様のお計らいを受けてもよいか?」


嬉しそうに訓練への参加可否を確認している。


バルドは静かに頷いた。


「ブレン様からの折角のお計らいです。有難くお受け致しましょう」


バルドはブレンの前に進み出ると跪いた。


「ブレン様、我が主へのお計らい感謝申します。できますればエリオスの参加もお願いできますでしょうか?」


バルドは平然とした様子でエリオスの参加も取り付ける。


ブレンは困惑した表情をバルドへ向けた。ふいに抱いたいたずら心が取り返しのつかない事態を招いてしまったのではないかと後悔する。


しかし、今更言い出した己から引くことはできない。ここは真剣での手合わせは危険である事を理由にこの場を収めようと考えた。


「バルド殿、私のいたずら心から思いもせぬ事を申しました。セルジオ殿とエリオス殿に怪我でもありましたら取り返しがつきません。まして、まだお2人には真剣は重く扱いは困難かと思いますが」


バルドはブレンへ微笑みを向けた。


「確かに我が主とエリオスに真剣の扱いは困難です。さすれば、こちらは短剣を持たせて頂きます」


ブレンは表情を強張らせた。短剣で真剣に挑むとは相手の剣技を馬鹿にしている行いに等しい。バルドのまるで勝算があるかのような口ぶりにブレンの闘争心に火が点いた。


「承知したっ!ならば私がお相手しましょう。セルジオ殿、エリオス殿、お2人同時にかかってまいれっ!」


いささか怒気を含んだ言葉でブレンは立ち上がった。


「皆の者っ!中央を空けよっ!これより二対一にて短剣と真剣での手合わせを執り行うっ!各々騎射、弓矢、槍の訓練へ入れっ!見物したい者はこの場に留まることを許すっ!」


ブレンは左手を大きく振り払い号令をかけた。


団員は珍しく強い血香を纏うブレンを目にするとほんの一瞬どよめきを見せたが、各々予定している訓練へと入って行った。


その場には第一隊長コーエンと第二隊長エデルが残った。


2人はここまでの道中でセルジオ達一行の力量が予想を遥かに超えていると認識していた。


マデュラの訓練の様子に少しは怖気づき、圧倒されてはくれまいかと秘かに願っていた。


しかし、団長ブレンの様子はまるで戦場にいるかのような血香を纏っている。


セルジオもエリオスも怖気づいている様子は微塵もなく、それどころか真剣での手合わせに心躍らせている様にさえ見える。


コーエンとエデルは顔を見合わせ、団長ブレンに近づきそっと耳打ちをした。


「ブレン様、あの者達を侮ってはなりません。小さな子らと思わぬ事です。短剣での申し出も他意はないでしょう。剣が扱えぬから扱い慣れている短剣でと申しているに過ぎません。決して我らを侮蔑している訳ではありませんので、くれぐれもお心を鎮めて挑まれませ。『一切の傲りを持たぬ事』我らマデュラの戒めを忘れてはなりませぬ。あの者達は小さな子らではありませぬぞ。次期セルジオ騎士団団長と第一隊長であると思われませ」


ブレンはコーエンとエデルの言葉に高ぶっていた気持ちを自覚する。


『一切の傲りを持たぬ事』この戒めの言葉は青と赤の因縁からの教訓だった。


『この様な小さな出来事の積み重ねだったのかもしれぬ・・・青と赤の因縁の始まりは、我らが抱いた傲りがなければ避けられた事だったのかもしらぬな』


ブレンは因縁の始まりがお互いの私念だったと認識はしていた。しかし、真因は日常の些細な出来事から発する『傲り』の積み重ねが招いた結果であったのではないかとこの時初めて戒めの教訓の真意を知った気がしていた。


バルドとオスカーに防具用の革の胸当を装着してもらい、セルジオとエリオスが訓練場の中央で待ち構えるブレンの前に進み出た。


2人は左手を胸に当て、騎士の挨拶をする。


「ブレン様、この度は真剣での手合わせの機会を頂き、感謝もうします。よろしくお願いもうします」


先ほどまで天幕内の椅子にちょこんと座っていた様子とはガラリと変わり、闘志が漲り既に騎士の佇まいを匂わせるセルジオとエリオスの姿にブレンは一瞬息を飲んだ。


挨拶の呼応が少し遅れる。


「こっ、こちらこそ、よろしく頼みます」


ブレンは慌てて左手を胸に当て、同じように騎士の挨拶をする。


バルドとオスカーが監視役として左右についた。


バッ!!!


バルドが左手を空へ掲げた。


「これより、マデュラ騎士団団長ブレン様、セルジオ騎士団団長名代セルジオ、エリオスとの真剣での手合わせを行います。双方、危険を感じた場合は早々に手を引くこと。互いの急所は避けること。我らの合図に従うこと。以上を合意の上、はじめます」


「はっ!」

「はっ!」

「はっ!」


3人はバルドの号令に子気味よく呼応した。


「構えっ!」


ザッザッザッ


相手と背中合わせになり、その場から三歩前に進み、正面に身体を戻す。


シャンッ!!


ブレンが鞘から剣を抜いた。


カチャンッ!!

カチャンッ!!


セルジオとエリオスは左右の腰から短剣を抜くと両手に構える。蒼玉(そうぎょく)が埋め込まれたラドフォール騎士団先代団長ウルリヒから授かった魔剣だ。


バッ!!!


「はじめっ!!」


バルドが空へ掲げた左手が勢いよく下ろされ、真剣と短剣の手合わせが始まった。

【春華のひとり言】


今日もお読み下さり、ありがとうございます。


青と赤の因縁の終わりの始まりを宣言したいと願う団長ブレン率いるマデュラ騎士団とセルジオ達一行。


目標は一致してはいるものの、お互い今一つ距離を縮める事ができません。


永い年月『因縁』の言葉に囚われた『感情』はいつしか『思想』に発展するのだろうなと感じた次第です。


思い切りぶつかり合うのもお互いを知る方策の一つですが、争うのではなく相手を受け入れる姿勢のある議論で解決の糸口を探る事ができたらいいなと思っています。


さて、真剣と短剣の手合わせの行方はどうなるのか?


次回は恐らく皆さんお気付きの展開になるかと思います。


それでも、次回もよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ