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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第128話 マデュラ騎士団35:団長ブレン・ド・マデュラ

バルドとオスカーは斜面を駆け下りていくコーエンを暫く見送った。


眼下に広がる訓練場には1列8名、18列で重装備の騎士が整然と並び跪いている。


ポルデュラから「マデュラ騎士団と団長ブレン殿を信じてみよ」と促されてはいるものの油断すれば命取りになりかねない。


オスカーはコーエンが斜面を下り切り、馬留に馬を止める様子を窺った。合流してからの動きを確かめているのだ。


その間、バルドは魔眼を発動し眼下を俯瞰する。深さを増した深い紫色の瞳は団長ブレンを注視した。


筋骨たくましい恵まれた体躯を持ち、日々の訓練と商船への荷積み、荷下ろしで浅黒く日焼けした肌は何故か王都騎士団総長を思わせた。


団員全てが団長ブレンの背中へ意識を集中している姿勢は正に『一丸(いちがん)』の言葉が相応しい。


団長の見た目と雰囲気、これだけの統制を執るカリスマ性を持ち合わせている事自体が王都騎士団総長の不評を買っているのかもしれないとバルドは少し残念な気持ちになった。


セルジオは動きの止まったバルドに心配顔を向けた。


「バルド、大事ないか?魔眼の使い過ぎで疲れが出たのか?」


バルドは団長ブレンからゆっくり視線を外すとセルジオへ微笑みを向けた。


「いえ、大事ございません」


セルジオの頭に手を置き、ポンッポンッと弾ませる。


セルジオはバルドの顔をじっと見つめた。


「そうか、ならばよい」


一言告げると顔を前方に戻した。


バルドはセルジオの耳元でそっと呟く。


「セルジオ様、団長ブレン様はいかがですか?心行くまでお話はできそうですか?」


バルドは眼下で控えるブレンの第一印象をセルジオに問う。これも訓練の一つだった。


「商船に荷積みをしていた時と今では見た目は別人だが、雰囲気は同じに感じる。叔父上様と同じ様に感じる。柔らかさと硬さの両方を備えていて、悪意は感じられない」


セルジオは真直ぐにブレンを見つめ、揺るぎない声音でバルドの問いに呼応した。


「ただ」とセルジオは言葉を繋いだ。


「我らを警戒している様に思う。我らと同じ様にブレン様も我らを警戒しているのだと思う。警戒を解かねば心行くまで話はできぬな」


初代セルジオの悔恨の感情を浄化してからのセルジオは大人びた物言いをする様になった。


バルドは頼もしさを感じる一方で、言葉の使い方を見誤れば傲慢さを相手に印象付けかねない危うさを孕んでいるとも思っていた。


バルドはセルジオの頭にそっと手を置く。


「左様ですか。では、我らから先に警戒を解く必要がございますね。セルジオ様はどのように警戒を解くおつもりですか?」


バルドは首を回したセルジオの深く青い瞳をじっと見つめた。


「そうだな。今は、何も思わずに斜面を下り、ブレン様の元へ参ることでどうだ?」


バルドはセルジオへ微笑みを向ける。


「今の最善の策にございますね。では、我らの馬術を披露しつつ、ブレン様の元へ馳せ参じましょう」


バルドはオスカーと顔を見合わせ、頷き合う。オスカーはバルドと馬二頭分の幅を持たせ、手綱を握った。


「では、参りましょう。ハァッ!!!」


ドドッドドッドドッ!!!

ドドッドドッドドッ!!!


バルドとオスカーは大きく弧を描く様に並んで斜面を駆け下りた。


ザワッ・・・・ザワッ・・・・


バルドとオスカーが相乗りのまま斜面を駆け出すと隊列が微かに騒めいた。


団長ブレンが脇に控えたコーエンにそっと目配せをする。


「大事ございません。バルド殿、オスカー殿の馬術の腕は我らより上にございました」


コーエンはブレンにだけ届くような小声で伝える。


「そうか。流石は青き血が流れるコマンドールの守護の騎士だな」


ブレンは顔を上げ、軽快に斜面を駆け下りる二頭の馬を見つめた。


ブレンが顔を上げると控えていた騎士達も顔を上げる。


ザワザワとどよめきが徐々に大きくなり、その内歓声に変わった。


「うおぉぉぉーーーー!!、相乗りで斜面を駆け下りるとはっ!」


しかもバルドとオスカーは隊列に突っ込むかと思える程、速度を緩める気配が全く感じられない。


バルドとオスカーは斜面の中腹から更に速度を上げた。


ドドッドドッドドッ!!!

ドドッドドッドドッ!!!


リズムよく斜面を下る。


団長ブレンは立ち上がり、号令をかけた。


「隊列を二手に分けろっ!!!二頭を隊列の中央に招き入れるっ!」



ブレンの号令にピタリッと歓声は止み、一瞬にして隊列は中央から真っ二つに分かれた。


ドドッドドッドドッ!!!

ドドッドドッドドッ!!!


丁度、その間を斜面を下り切ったバルドとオスカーが操る二頭の馬が疾風の様に駆け抜けた。


ヒィヒヒィィン!!!

ブルゥゥゥゥ・・・・


隊の中央を通り抜けるとバルドとオスカーは踵を返す。


パカッパカッパカッ・・・・

パカッパカッパカッ・・・・



その場で馬の足並みを揃えるとタっと馬から下りた。


馬の鼻をひと撫でしてからセルジオとエリオスを馬から下ろす。


セルジオとエリオスはバサッとマントを翻し身なりを整えた。


セルジオは二手に分かれた隊列の先頭で佇むブレンに向けて颯爽と歩み出した。


「ほう・・・・」


ブレンは斜面を駆け下りて直ぐに馬から下りたセルジオがフラつくでもなく平然と歩み出す姿に感嘆の声を上げる。


コーエンがブレンに耳打ちした。


「あの様にセルジオ様、エリオス様も馬術は相当の腕前にございます。落馬する様子は微塵も感じられませんでした」


「そうか」


ブレンは静かに呼応した。


セルジオを先頭にエリオス、バルド、オスカーが隊列の中央を進み、ブレンの目前で跪いた。


「お初にお目にかかります。セルジオにございます。控えますのはエリオス、並びにわが師バルド、エリオスの師オスカーにございます。我らシュタイン王国騎士団総長より18貴族騎士団の友好のため、準備の役目を(たまわ)りましたセルジオ騎士団団長の名代(みょうだい)として、まいりました」


バルドが王都騎士団総長より預かった書簡をセルジオに渡し、セルジオは書簡を両手で頭上に(かか)げた。


「こちらにございます書簡はこの度の我ら滞在に関しますシュタイン王国王都騎士団総長よりの念書(ねんしょ)にございます。お目通しの程、お願い致します」


貴族騎士団巡回の最初の巡回地、ラドフォール騎士団第三の城塞、アロイスが治める水の城塞に出向いた時と同じ様に挨拶を口上する。


ブレンは小さなセルジオが両腕を目いっぱい伸ばし掲げる書簡を大事そうに受け取った。


中央を結んだ革の紐を静かに解くと内容を確認する。


クルクルと書簡を戻し、跪くセルジオ達に穏やかな声音を向けた。


「お役目の程、承りました。我がマデュラ騎士団城塞へようこそ、お越し下さいました。これよりの二週間は我が城塞、子爵家領地をご存分に()()()()見聞なさって頂きたく存じます」


ブレンは「くまなく」の言葉を強調した。マデュラ騎士団は一切の懸念なく、噓偽りのない真実のみを王都騎士団総長へ伝えている矜持の表れた言葉だった。


セルジオはブレンを見上げる。薄い青色の瞳がセルジオの深く青い瞳をじっと見つめていた。


セルジオはブレンの瞳に黒の靄がないことを見て取ると静かに頭を下げ左手を胸に置いた。


「よろしく頼みます」


青と赤の因縁の始まった地での滞在が始まりを迎えた瞬間だった。

【春華のひとり言】


今日もお読み頂きありがとうございます。


いよいよ、第3章の山場が幕を開けました。


マデュラ騎士団団長ブレンと対面したセルジオ。


ポルデュラの仲介があるとはいえ、お互い警戒を全面解除とはいかない様子です。(そりゃそうですよね)


マデュラ騎士団での滞在予定は二週間。その間に青と赤の因縁の終わりの始まりを宣言することができるのか?


マデュラ子爵家当主マルギットの策略に陥ることなく二週間を乗り切れるのか?


信じる者は救われる世界であって欲しいです。


次回は、マデュラ騎士団の館に入ります。断崖絶壁の上に建てられた尖塔から眺める景色をご堪能いただければと思っています。(文章でお伝えできるとよいのですが・・・・)


次回もよろしくお願い致します。

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