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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第126話 マデュラ騎士団33:騎士団の役目と役割

大人の腰の高さほどの石壁が森の中のだだっ広い広場をグルリと囲んでいる。


石壁は所々凸凹があり、城塞胸壁の様に設えられていた。


広場の中央は馬術の訓練用だろうか、急斜面と斜面が林立する丘が東の方へとのびていて、先を見通すことができない。


北出入口を入った左手は騎射用の的が円を描く様に左右に配置されていて、短剣の投剣用も兼ねている様だ。


出入口右手は大小の丸太が積み上げられ、その横には大きな樽がいくつも置かれている。


丸太の横には騎士団訓練場にはおよそ似つかわしくない、太いロープが整然と並べられていた。


セルジオ達をマデュラ騎士団訓練場へと先導する騎士は、城塞南門方面へ戻る土道のすぐ横にある北出入口から訓練場へ入った。


セルジオが訓練場の横を通り過ぎた時に目にした十字の木枠が崩れ落ちた場所は北出入口の木陰だった。


セルジオは訓練場入口から右手に進む馬上で木陰へ目を向けた。


風に揺られる木々がサラサラと音を立てているだけで、今は何も見えない。


セルジオはホッと息を吐いた。


セルジオは様子を窺うバルドの手をそっと握る。


正面を見据えたまま「バルド、大事ない」と一言告げた。



積み上げられた丸太の横を通り、急斜面と斜面が林立する丘を前に先導の騎士が止まった。


最後尾にいた騎士が前へ進み出てその横に並ぶとコーエンは2人の間で馬を止めた。


三頭並んで馬の鼻先をセルジオ達に向ける。


バルドとオスカーは三馬身程の距離を保ち、コーエンの前で馬を止めた。


コーエンが馬から下りる。


手綱を右隣りの騎士に預け、すたすたとセルジオ達に近づいた。


コーエンは二頭の前で跪いた。


「我がマデュラ騎士団団長はじめ、騎士、従士150名はこの丘を越えた先でお待ちしております。セルジオ様、エリオス様との相乗りではいささか急斜面にて、ここからは歩いてご案内をと考えております」


コーエンはすっかり礼を尽くした言動に変わっていた。


余程、バルドの言葉が堪えたのだろう。それは、セルジオ騎士団団長へ対する言動そのものだった。


コーエンの言動の変化にセルジオは臆するでもなく、普段と変わらない姿勢を保っている。


バルドはそんなセルジオが誇らしかった。



コーエンは跪いたままセルジオの返答を待っていた。


騎士団の騎士でさえ、これだけの急斜面で自在に馬を乗りこなせるまでには相当の訓練が必要となる。


相乗りで渡るには乗馬の腕もさることながら相乗りする側も重心移動や姿勢など相応の力量が求められる。


セルジオとエリオスの様な小さな子どもが相乗りでは途中で振り落とされる危険があるとコーエンの配慮だった。


コーエンが顔を上げるとセルジオは深く青い瞳でじっと見下(みお)ろしていた。


ギクリッ!!!


吸い込まれそうなセルジオの瞳にコーエンは身体が強張るのを感じた。


先ほどの物言いといい、大よそ騎士団入団前の子どもとは思えない。


目線も声音も醸し出す雰囲気も子どもらしからぬ威厳を帯びている様に感じてならない。


コーエンは溜らず、上げた顔を下ろし地面を凝視した。


身体が小刻みに震えているのが自分でも判る。こめかみに汗が伝い、ポタリと地面に落ちた。


「コーエン様、お気づかい感謝申します」


ビクリッ!!!


コーエンはセルジオの発した言葉に驚き、身体をビクつかせた。


「・・・・」


セルジオの言葉が続かない事にコーエンはハッとする。


セルジオは己へ向けられた礼に対する返答を待っているのだ。


コーエンは慌てて呼応した。


「めっ、滅相もございませんっ!では、ここからは歩いてご案内を致します」


コーエンが立ち上がろうとするとセルジオが呼び止めた。


「コーエン様、お待ちください」


コーエンは体勢を戻し、恐る恐るセルジオを見上げた。


セルジオは凛とした表情をコーエンへ向ける。


「コーエン様、我らはこの度の各貴族騎士団巡回を訓練の場と心得ています。どの様な場であっても訓練を怠らない事が我らのこの先を決める行いだとも思っています。ご配慮はありがたく感謝申します」


「しかし、我が師バルド、エリオスの師オスカーは相乗りにてコーエン様の後に続くことがこの度の訓練と考えているのです。しかもこの場はマデュラ騎士団訓練場です。訓練をする場にありながら訓練を疎かにし、身の安全を優先することはできません。どうか、普段のマデュラ騎士団馬術の訓練を我らにご教授下さい。お願いに申します」


コーエンはまたもや己の言動が浅はかであったと打ちのめされた。


先ほど、バルドからセルジオ騎士団団長の名代として各貴族騎士団巡回をしていると諭されたばかりだというのに。


これではセルジオ騎士団団長の馬術が劣っていると言っている様なものだ。


コーエンは勢いよく頭を下げた。


「はっ!!大変失礼を致しましたっ!我がマデュラ騎士団馬術の訓練に同道下さいますようお願い申しますっ!」


コーエンは大声で口上する。


セルジオは静かに呼応した。


「コーエン様、勝手を申しますことお許し下さい。よろしく頼みます」


「はっ!!!それでは、ご案内致します」


コーエンは立ち上がり、馬に跨がると丘の様子の説明を始めた。


「この丘は急斜面と斜面を林立させ日々、形状を変えています。慣れを避けるためです。また、我が騎士団は商人の交易守護として国外同行の役目も担います。土地によっては起伏が激しく、雨天などで馬が足を取られることも珍しくありません」


「騎馬の訓練は戦闘用よりむしろ、民が安んじて夫々の営みに慢心できるよう守護する事が目的となります。勿論、馬も我らも鍛えられますから結果的には戦闘にも有利となります。民の安心安全と実利を最優先と考える我が騎士団団長ブレンが考案しました訓練方法です」


コーエンは丘の向こうで待機しているであろう団長ブレンの方へ少し誇らしげな顔を向けた。


続けて訓練場北出入口の左右に設置された訓練用具へ目を向ける。


「同じように騎射訓練は荷馬車や人夫の守護と商船の護衛任務に重きを置いています。丸太や樽、ロープは商船への荷積みや荷下ろしの訓練用です。マデュラ騎士団が子爵家でありながら150名を超える騎士と従士を抱えておりますのは守護や護衛とは別にそうした人夫の役目も担うからです」


コーエンは真剣な眼差しで説明を聞き入るセルジオとエリオスへ微笑みを向けた。


「お察しの通り、私は貴族ではありません。他家貴族騎士団では第一隊長が平民であることなどあり得ぬ事でありましょう。エデルも同じです。マデュラ騎士団はそうした意味でも王国内で異質とみなされております」


マデュラ子爵家は元々、シュタイン王国友好国である南の隣国エフェラル帝国に属する公国であったため、独自の特例が認められていた。


国外交易に騎士団を護衛の任に就かせる事は勿論、隊長に平民を任命できること、そして団員の生殖器排除についても一部の者に対する免除が許されていた。


コーエンはマデュラ騎士団に与えられる特例にも触れ、それらは全て領民を守護するための施策であると熱く語った。


「マデュラ子爵家と騎士団のあり様などは後程、団長ブレンからご説明があるかと存じます」


コーエンはふっと一つ息を吐いた。東の空へ目を向けると思い出したかの様に呟く。


「騎士団の役割は王国と領民を守護すること、そして役目は領民の憂いを払う存在であり続けること・・・・」


セルジオとエリオスへ微笑みを向ける。


「団長ブレンに初めて会った時に言われた言葉です。エリオス様と同じ年ごろでありました」


コーエンは懐かしそうに語ると姿勢を正した。


「では、丘を越えます。本日は比較的なだらかな斜面です。また、途中に数か所ではありますが、待避所を設けています。危険と思われましたら我らに構わず待避所を使われて下さい」


「承知した」


「私の後に続いて下さい。ハァッ!」


コーエンはセルジオが呼応すると掛け声を掛け、目の前の斜面を駆け上がって行った。

【春華のひとり言】


今日もお読み頂き、ありがとうございます。


どんな悪党集団だろうと思っていたマデュラ騎士団でしたが、実際には団長ブレンの意志を貫く素晴らしい騎士団でした。


ポルデュラの支援もあり、少しづつ警戒を緩めるセルジオ一行。


このまま青と赤の因縁の終わりを始めることができるか?


次回は団長ブレンとの正式対面となります。


セルジオ達はマデュラ騎士団居城に招かれ、理想と現実を目の当たりにします。


次回もよろしくお願い致します。

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