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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第123話 マデュラ騎士団30:因縁の終わりの始まり

バルドとオスカーは左右を木々に覆われた細い土道をマデュラ騎士団城塞東門へ向けて疾走していた。


左右の木々の先は右側がマデュラ騎士団城塞の城壁、左側は騎士団の屋敷がそびえる岩山だ。


城塞東門と南門から挟まれれば逃げ場はない。


バルドは鞍の取手を握るセルジオへ目を向けた。


セルジオの中で眠りについた初代セルジオの姿が現れる気配が感じれない事を確かめると更に速度を上げた。


パカラッパカラッパカラッ!!

パカラッパカラッパカラッ!!


オスカーが離れることなく駆けてきている後方から聞こえる規則正しい蹄の音を耳にするとバルドは先ほどまで感じていた不安が収まっていく様に感じた。


蹄の音で冷静さを取り戻したバルドはマデュラ子爵領に入ってからの状況を今一度反芻することにした。


領門まで出迎えにきていたマデュラ騎士団第一隊長コーエンと第二隊長エデルはかつてセルジオを狙った刺客様な雰囲気はまるでなかった。


騎士団城塞へ足を踏み入れてからも懸念していた黒の影を感じてはいないし、黒の靄を纏った人物も見ていない。


活気あふれる商業地区や船着き場、初代が命を落とした場所である訓練場でさえも黒魔術を思わせる何かを感じることはなかった。


追手と思っていた数十騎の騎馬も強い血香を纏っていた訳ではない。


今、疾走している土道に至っては侵入者を逃さない仕掛けが施されている気配もない。


それどころか、どこか懐かしく温かい()に城塞全体が包まれている様にさえ感じる。


バルドは疾走する馬上でそっと目を閉じ、城塞全体を包む()に意識を向けた。


頬をかすめる柔らかい風は時折、ほのかにバラの花の香がする。


バルドは意識を更に広げた。


城塞全体を銀色(・・)の風が覆っていることに気付くとバルドはハッとし、目を開けた。


『バルド、そなたの魔眼は深淵を覗く眼ぞ。私の姿が見えるはずじゃ』


「ポルデュラ様っ!!!」


上空に浮かんだポルデュラの姿に思わず大声を上げ、馬の歩調を緩めるとピタリと止まった。


セルジオが心配そうに首を回しバルドの顔を見上げる。


「・・・・バルド?いかがした?」


セルジオの言葉に後ろから付き従っていたオスカーが馬を寄せた。


「バルド殿、ポルデュラ様より何かございましたか?」


半ば放心した様に上空を見上げるバルドの呼応を3人は静かに待った。


バルドの深い紫色の瞳には上空から微笑みを向けるポルデュラが映っていた。


ポルデュラは静かにバルドに語り掛ける。


『申したであろう?どのような事をしてでもセルジオ様を我らでお守りすると』


ポルデュラは上空で左手を掲げるとマデュラ騎士団城塞全体をグルリと指し示した。


銀色の風の珠がマデュラ騎士団城塞全体を覆っている。


『銀の風の結界を施した。城塞東門を閉じると結界が作動する仕掛けじゃ。結界が施されている間は黒の影も黒の靄を持つ者もこの地に留まることはできぬ。エンジェラ河にはアロイスが控えておる。ラドフォールの影部隊(シャッテン)ラルフ商会の商船が停泊しておるからそなたが抱える懸念は必要ないぞ』


『バルドよ、ブレン殿を信じよ。ブレン殿が率いるマデュラ騎士団を信じてみよ。今、この時より青と赤の因縁を我らの手で終わらせるのじゃ。黒魔女マルギットの思惑通りになってはならぬ。黒魔女はそなたとオスカーに疑念を抱かせ、ブレン殿との衝突を引き起こそうと目論んでおる。マデュラの地で青と赤の因縁は続いていると王国内外に知らしめたいのじゃ』


『策に乗ってはならぬ。そなたの魔眼を活かすのじゃ。深淵を覗き、真実を見抜け。謀略ではないぞ、進むべき道を見誤らぬ(まこと)を見抜くのじゃ。初代セルジオ様が身罷(みまか)れた地で青と赤の因縁の終わりの始まりを告げるのじゃ。バルド、青き血が流れるコマンドールの守護の騎士として役目を果たせ』


ポルデュラの姿が消えると銀色の風がサラサラと上空から降り注いだ。


バルドは静かに目を閉じ大きく息を吸った。


ふぅっとゆっくり吐くと首を回してバルドを見上げるセルジオへ微笑みを向ける。


続いて馬を寄せるオスカーとエリオスへも微笑みを向けた。


「ポルデュラ様からお言葉を頂戴しました。マデュラ騎士団城塞に銀の風の結界を施して下さったとのこと。ブレン様とブレン様が率いるマデュラ騎士団を信じよと、我らの手で青と赤の因縁の終わりを告げよと申されました」


バルドは静かに3人の顔を見回した。


「承知した」


初めにセルジオが呼応した。


「はっ!!」

「はっ!!」


続いてエリオスとオスカーが同時に呼応する。


4人は大きく頷き合い、馬の鼻先を元来た道へ向き直した。


城塞南門へ戻ろうと手綱を握ると後方から馬の蹄の音が聞こえた。


パカラッパカラッパカラッ!!

パカラッパカラッパカラッ!!

パカラッパカラッパカラッ!!


先ほどまで向かおうとしていた城塞東門の方向から三騎の蹄の音が迫ってくる。


バルドとオスカーが音の先へ顔を向けると重装備の鎧を纏ったコーエンが二騎を従えこちらへ向かってくるのが目に入った。


バルドとオスカーは顔を見合わせた。


「ここから青と赤の因縁の終わりが始まります。セルジオ様、エリオス様、オスカー殿、我らは必ず生きてセルジオ騎士団西の屋敷へ

戻りましょう」


「承知したっ!」

「はっ!!」

「はっ!!」


3人はバルドの言葉に勢いよく呼応するのだった。

【春華のひとり言】


今日もお読み頂きありがとうございます。


馬上で状況確認をするバルドにポルデュラからのメッセージが届く回でした。


ポルデュラからの助言で冷静さを取り戻したバルド。


ラドフォール騎士団団長アロイスも影部隊の隠れ蓑ラルフ商会も万全の協力体制でマデュラ騎士団城塞に潜伏しています。


皆の協力でコーエンとの鉢合わせも戦闘にならずに済みそうです。


次回は青と赤の因縁が始まった地でセルジオ一行とマデュラ騎士団が顔を合わせます。


黒魔女マルギットの思惑に乗せられることなくお互いの想いが伝わりますように。


次回もよろしくお願い致します。

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