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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第115話 マデュラ騎士団22:初代との別れ

初代セルジオが時の狭間の中央に立つウンディーネに歩み寄る。


「思い残す事はないか?」


「はい、ウンディーネ様のお計らい感謝申します」


初代はウンディーネの言葉に静かに呼応すると跪いた。


「お前の悔恨と無念の感情は全て水に流した。今世のセルジオの中へ戻り鎮ずかに眠りにつけ」


ウンディーネは跪く初代の頭に左手を置いた。


「お前を今世のセルジオの泉に戻すには今一つ片づけねばならぬことがある」


ウンディーネはアロイスへ目を向けた。


「アロイス、聖水の杯を持て」


初代を呼び出すためにポルデュラが精製した2杯の神聖水は使い果たした。


アロイスはウンディーネの言葉に戸惑いを見せる。


「アロイス、()()()でなくともよい。聖水で構わぬ。杯を持て」


水の精霊が聖水を扱えばそれは神聖水と同じ役目を果たす。


「はっ!」


アロイスはクロードが用意していた水差しから黄金の杯に聖水を注いだ。


静々と時の狭間の中央へ歩みウンディーネに杯を手渡そうと手を差し伸べる。


「アロイス、杯を持ち我の横に立て」


初代の頭に左手を置いたまま、ウンディーネはアロイスに己の横に控える様に告げた。


「はっ!」


アロイスはウンディーネの右横に立つと杯を両の手で握った。


ウンディーネの目の前で跪く初代へ目を落とす。


「お前の中で投影される月の雫の想いをも鎮静させる」


ウンディーネはアロイスの中に芽生えた初代セルジオへの想いをも初代の中へ還す心づもりだったのだ。


「えっ・・・」


アロイスはウンディーネの言葉に哀しそうな声を上げた。


「その想いはお前のものではない。月の雫の想いの投影だ。この先も持ち続ければいずれ禍の種となる。還すのだ。その想いの(あるじ)の元へ。青き泉の中で眠る月の雫に還すのだ」


ウンディーネは少し厳しい口調でアロイスへ告げた。


アロイスはウンディーネへ向けていた哀し気な目を伏せ、小さく呼応した。


ザアァァァァァ・・・・

ザアァァァァァ・・・・


初代セルジオの身体を水泡が覆った。


「アロイス、聖水を我の手にかけよ」


アロイスは初代セルジオの頭上に置かれたウンディーネの左手の上で黄金の杯を傾けた。


初代セルジオの身体を覆った水泡の(ふち)が金色に輝き、サラサラと砂の粒の様に砕けだした。


初代は顔を伏せたままウンディーネに感謝の意を表す。


「ウンディーネ様、感謝申します」


ウンディーネは初代を見下ろし、言葉を繋ぐ。


「お前が眠りにつくまで我が同道する」


ウンディーネは初代が今世のセルジオの中で完全に眠りにつくためには一つやり残したことがあると言っていた。


「感謝申します」


初代はウンディーネに呼応した。


ふっと顔を上げ、アロイスへ目を向ける。


「オーロラ、さらばだ。いつの日か逢まみえるその日まで、さらばだ」


その言葉を最後に初代セルジオの身体は金色の砂に砕かれていく。


サアァァァァ・・・・

サアァァァァ・・・・


砕けた金色の粒がウンディーネの身体に取り込まれる。


「アロイス、杯を」


アロイスが杯を差し出すとウンディーネの中に取り込まれた金色の粒が水と合わさり杯に注がれた。


「我は月の雫と共に今世のセルジオの泉に入る。この杯をセルジオへ飲ませ、暫しの時を待て。我が戻った後に時の狭間を崩す。よいか、暫し皆で待つのだ」


「はっ!」


ウンディーネはアロイスにこの先を示すとザンッと音を立て姿を消した。


アロイスは黄金の杯を手にバルドに抱えられているセルジオに歩み寄る。


セルジオの前で膝を折ると静かに杯を差し出した。


「ウンディーネ様より仰せつかりました。こちらをお飲み下さい」


バルドに杯を手渡す。


アロイスはすっと立ち上がり状況を注視している5人に告げた。


「ウンディーネ様より賜りました。暫しこの場にて待つようにとの事です。セルジオ殿の泉へ初代様をお連れになる様にて。我らは今しばらく見守るとしましょう」


アロイスの表情からセルジオへ向けられていた恋慕の情は消え、凛とした騎士団団長の顔に戻っていた。


5人はアロイスの表情に勇ましさを感じると左手を胸に当て大声で呼応した。


「はっ!」

「はっ!」

「はっ!」

「はっ!」

「はっ!」


バルドはセルジオの口元で黄金の杯を傾ける。


セルジオはゴクゴクと喉を鳴らし杯を飲み干した。


バルドはセルジオを注視する。


初代を呼び出した時の様に激痛に苦しむのではと案じていたのだ。


セルジオも激痛が襲うのを覚悟している様で身体を強張(こわば)らせている。


ところが、激痛が襲うどころか胸の辺りが温かく感じていた。


セルジオはバルドの顔を見上げた。


「バルド、大事ない。痛みもなく、胸の辺りが温かい」


バルドはセルジオをそっと抱きしめる。


「ようございました。痛みがなく、ようございました」


一同は2人の様子にひとまず安どするのだった。

【春華のひとり言】


今日もお読み頂きありがとうございます。


初代セルジオとの別れの回でした。


共鳴や同調とは少し趣が異なる「投影」


良くも悪くも相手の感情が自分の感情だと認識してしまう事の様です。


自分から発した言葉も想いも必ず自分に還ってくる。


ならば気持ちのよい言葉、感情を発していたいと思った次第です。


次回で初代セルジオは完全に鎮静されます。


次回もよろしくお願い致します。

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