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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第111話 マデュラ騎士団18:目の前の惨劇

「カーティスは我より余程、団長としての資質を持ち合わせていた。我の傲慢な物言いに何ら私念をぶつける訳でもなく、ただただ、我が生きていたことを喜び、皆の士気が高まると申してくれた」


『皆の者っ!!よく聴けっ!!天は我らに微笑んだっ!青き血が流れるコマンドールを再び我らの元に遣わし給うたっ!スキャラルもマデュラも恐れるに足らずっ!先制を誘い出せっ!南城門を解放しろっ!両団を一気に殲滅(せんめつ)するっ!』


カーティスは初代の左手を取り高々と掲げると城塞内に響き渡る声を発した。


「我に花を持たせてくれたのだ。我はカーティスを辱める言葉を発したと言うに・・・・」


カーティスの号令に城塞内の士気は高まった。


城塞内の歓声に戦々恐々としていた団長不在のマディラ騎士団は浮足立ち、堪りかねた弓隊が城門最上階へ矢を放った。


この一撃を待っていたとばかりに城門最上階から火矢が一斉に放たれる。


同時に南門が開かれ、城塞内のエステール騎士団は火矢に右往左往するマデュラ騎士団に怒涛の如くなだれ込んだ。


南城門は閉ざされ、一人たりとも城塞内に立ち入る事は許さぬとカーティスが指揮を執る。


西の屋敷に侵攻していたはずのスキャラル国騎士団は一向に姿をみせず、圧倒的な強さを見せるエステール騎士団、ラドフォール騎士団の混成隊は、見る見るマデュラ騎士団を討ち取っていった。


「それまで不安を抱えていたラドフォールとエステールの混成隊はカーティスの指揮で勢いづいた。統制が取れさえすれば向かう所敵なしの騎士団だ。もはや、スキャラル国騎士団が侵攻したとしても西の砦にたどり着くことすら難しいだろう。戦況を視て、勝利を確信した我はカーティスに何も告げずオーロラが捕えられたマデュラ子爵領へ向かった」


木々が生い茂る西の森の街道を初代は早がけしていた。


「西の屋敷から街道を抜け、マデュラ領へは早くとも3日は要する。オーロラが捕えられ既に4日目だ。我は胸に広がる不安が黒々とした大きな塊になっていく様に感じていた」


初代が疾走する姿にうっすらと黒い靄が掛かって見える。


「黒魔女は我を憑代(よりしろ)とするため、オーロラを捕えマデュラ領へ我を誘い込んだ。怒り、妬み、不安は黒魔女の(かて)となる。オーロラの身を案じてならない我の心は黒魔女に力を与えるだけであった」


目の前に映し出されるかつての己の姿に居たたまれない思いで目を向けているのだろう。


握る拳からポタポタと鮮血が滴り落ちている。


セルジオの吐血は初代の様子と連動する様に増していった。


途中、馬を何度か休ませ水を与える姿が映るが、初代は一睡もせずに3日間走り続けていた。


「マデュラ子爵領へは隣国のエフェラル帝国側、南城門からの侵入を考えていた」


街道を外れ森の中へ入る初代が映る。


「森の番人の装いとはいえ、荷も持ち合わせておらぬ我をすんなり領内へ入れてくれるはずはない。我は荷運びに紛れ領内へ入る事にした」


エンジェラ河の支流近くで馬を止め、水を与える初代が突然立ち上がった。


「大勢の人の気配と木が燃える匂いに胸が締めつけられた」


ゆっくり足音を忍ばせ、匂いの元へ向かっている。


情景に映し出される初代からは勇姿など微塵も感じられず、恐る恐る乱れた呼吸を気にも留めない一人の民の様であった。


初代は木陰でピタリと止まった。


森の木々が切られ、騎士団訓練場を思わせる広場に大勢の人だかりが燃え盛る炎を囲んでいる。


既に何が燃やされていたのか判別がつかない程、焼き尽された状態から辛うじて十字の木枠が視て取れた。


炎を取り囲む人だかりからは『燃えろ!燃えろ!うずたかく燃えろ!魔女を燃やせっ!焼き殺せっ!』と歓喜の声が湧きあがり、その表情はまるで血に飢えた獣の様であった。


初代はよろよろと人だかりに近づいていく。


人だかりを分け入り、燃え盛る炎の前まで進み出た。


黒い衣服にフードを被った火刑執行人が驚いた表情で初代を見ると雨除けの天幕内で腰を下ろす騎士へ目を向けた。


『や・・・やめろ・・・・』


初代は炎に向かって呟いた。


『やめろ・・・・やめろっ!!!火を消せっ!!』


炎の中に飛び込む勢いで初代は悲痛な声を上げた。


初代の声に反応する様に十字の木枠がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。


『おおおおおお!!!魔女が燃えたぞっ!光と炎の魔女が燃えたっ!!!』


その光景に炎を囲む人だかりは益々歓喜の声を上げた。


『やめろっーーーー』


初代の悲痛な叫び声は人々の歓喜の声にかき消された。

【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。


初代セルジオの最大の悔恨は愛するオーロラの死でした。


初代の目の前で燃え盛る炎の中で灰となったオーロラ。


果たして初代はこの最大の悔恨を水に流すことができるのでしょうか。


初代の回想とともに衰弱していく今世のセルジオも心配です。


次回もよろしくお願い致します。

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