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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第110話 マデュラ騎士団17:過ちの連鎖

鮮血を吐き出したセルジオにアロイスが駆け寄る。


「セルジオ殿、お飲み下さい」


ラドフォールのバラの花の茶を聖水で煎じたものだった。


セルジオは言われるままバラの花の茶を口にする。


冷やされたバラの花の茶は胸の痛みを軽減させた。


セルジオは大きく息を吐くと「大事ございません」と力なく呟いた。


情景は第一隊長に(たしな)められた初代が椅子に腰かける姿が映っていた。


第三隊長が一つ一つ丁寧にこれまでの経緯(いきさつ)を説明している。


『マデュラは有余を3日と申しました。3日経ちオーロラ様を引き渡さねば総長の(めい)を断行すると申しました。それまで、この場から一人たりとも城外へ出る事は許さぬと申し、我らを孤立させたのです』


「城外へ出て、国王に進言でもされれば総長もマデュラも一貫の終わりだ。国王もマグノリア様もこの事はご存じなかったのだろう。いや・・・・マグノリア様はこうなる事が解っておいでだった。だからこそ、我が王命に従いエフェラル帝国へ出向く事を止められた。全ては我の浅はかさと過信、誰の助言も受け入れぬ傲慢さが招いたことだ」


初代の悔恨が深い場面になればなるほど、セルジオの胸に激痛が走る。


その度に吐血し、セルジオは徐々に色を失い衰弱していった。


水の精霊ウンディーネが時がないと言っていた意味をバルドはこの時初めて理解した。


セルジオが吐血する度、バラの花の茶を飲ませる。


バルドはポルデュラの言葉を思い出さずにはいられなかった。


『全ては天の采配、セルジオ様を生かそうと思うならば機会は自ずと訪れる。そして、全ては宿命じゃ。起こることは全て必要で、必然なのじゃ。その行いに謙虚でいることじゃ。さすれば天はそなたらに光と微笑みを与えるだろうて。はげめよ』


ポルデュラが貴族騎士団巡回に出立する際に口にした言葉だった。


バルドは色を失っていくセルジオを抱きしめる事しかできない己を不甲斐なく感じていた。


オスカーがバルドの様子にそっと耳打ちする。


「バルド殿、天は我らに微笑みを向けて下さいます。幼いセルジオ様が耐えてみえるのです。我らに今できる事は、初代様の悔恨をよくよく目を凝らし心に刻む事のみ。そして、そのお気持ちを少しでも解って差し上げる事です。大事ございません。天は我らに微笑みます」


オスカーの言葉にエリオスも力強く頷いた。


バルドは初代が見せる情景に再び目を向けた。


第一隊長が止める手を制し、初代は愛馬に跨っていた。


「オーロラがマデュラに捕えられ既に3日が経っていた。第三隊長の話ではオーロラが無事、マデュラ領に入るまでは、西の屋敷の包囲を解かぬとマデュラ騎士団団長のギャロットが言い放ちオーロラを連れ立った。第三隊長は西の屋敷の地下道から抜け出し、我らに急ぎ知らせに走ったそうだ。しかも、スキャラル国の騎士団が西の屋敷へ向け侵攻していると言う」


「オーロラが捕えられ戦意を失ったラドフォールと団長、第一隊長、第二隊長の交代で統制に不安を覚えるエステールでは、マデュラとスキャラルを一度に相手にし、どれほど持ち堪えられるか。我はサフェス湖の守備はラドフォールの第一隊長に任せ、エステールの西の屋敷に向かった。我のこの行動は黒魔女の思うつぼだった」


情景はサフェス湖から街道へ抜け、西の屋敷に向け疾走する初代の姿が映し出された。


西の屋敷、北城門に位置する北塔の先端が見えてきた所で初代は森の中へゆっくりと入っていく。


木々が覆い茂る手前で愛馬から下りると足元の草木をがさがさと除いた。


森の木が根を張る木枠の扉が現れる。


エステール騎士団城塞、西の屋敷の北地下道入口だ。


初代は地面対して斜めに設置された木枠の扉を開けると先に愛馬を進ませた。



扉の外側に草木を散乱させ、静かに扉を閉める。暗い地下道を青白い光が照らした。


壁の所々に埋め込まれた石が発光している。


セルジオとエリオスがポルデュラから与えられた首飾りに埋め込まれた月の雫だ。


初代はひらりと愛馬に跨ると地下道を急ぎ進んだ。


次に映し出されたのは北塔の地下から地上へ出た西の屋敷城塞内だった。


城壁最上部にエステール騎士団とラドフォール騎士団の混成隊が配置されている。


伝令の第三隊長からはマデュラ騎士団は西の屋敷を包囲に留めていると聞いていたが、城塞外から発せられる血香(けっか)は直ぐにも攻め入る程強く感じられた。


「我は我の代わりに団長となった弟、カーティスを探した」


初代が愛馬から下り、西の屋敷内を必死の形相で駆け巡っている姿が映し出される。


初代の姿を目にした騎士たちが驚いた表情で初代の名を口にした。


「我は己が死した事としてあることすら頭になかった。王国をエステールをこのまま滅ぼされてはならぬと・・・・いや、私念だった。オーロラを助けたい一心だった」


西の屋敷、城塞内が騒めき出す。団長らしき騎士が慌てた様子で初代へ駆け寄った。


『姉上!!!生きてっ!生きておられたのですかっ!!』


『カーティス!!戦況はっ!!』


状況が掴めず困惑する弟に初代は怒声を浴びせた。


「まるで、我が団長の様な口ぶりだな。我が生きていることは秘されていたのだからカーティスが驚くのも無理はない。我はこの時、カーティスが驚く様に苛立ちを覚えたのだ。オーロラを奪われ追撃もせずに城内に留まっていたのかと。カーティスにはカーティスの戦略があろうに我は・・・・騎士団団長の考えを皆の前で(はずかし)める言葉を口にした。全てが過ちだった」


初代の中で己の言動の全てが悔恨となっているのだろう。


セルジオは吐血を繰り返した。


バルドは一刻も早くこの状況が終わってくれはしないかと腕の中で衰弱していくセルジオを抱きしめる他なかった。

【春華のひとり言】


今日もお読み頂きありがとうございます。


守るもの、守ることがあると人は強くもなり、弱くもなる。


この時の初代セルジオは明らかに後者であったのでしょう。


弱く、愚かで傲慢、周りを見る目を失った騎士団団長の回でした。


衰弱していく今世のセルジオが心配です。


次回もよろしくお願い致します。

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