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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第105話 マデュラ騎士団12:悔恨の浄化2

悔恨の一つを水に流した初代セルジオはふぅと大きく息を吐いた。


再び天井を見上げると静かに目を閉じた。


セルジオは鼓動が速さを増していくのを感じていた。初代セルジオが悔恨の情景を思い返そうとしているのだろう。


だが、先ほどの様な胸の痛みは感じられない。セルジオは違和感を覚えていた。


ドーム状の時の狭間は静まり返り、初代の言葉も悔恨の情景も一向に映し出されない。


セルジオは水の精霊ウンディーネの言葉を思い返した。


『次は誰の助けも入らぬ。お前自身がお前を受け入れ、弱さを認め、今世のセルジオの中で眠る覚悟を持たねば悔恨を水に流すこと等できぬぞ』


ウンディーネはそう言っていた。


セルジオは初代が悔恨を水に流すことを躊躇(ためら)っていると感じ、天井を見上げるその姿をじっと見つめた。


アロイスに姿が生き写しの光と炎の魔導士オーロラは初代セルジオが心の底から愛した女性(ひと)だった。


オーロラの死も初代は己の浅はかさが原因だと思っている。


悔恨を残した当初は、マデュラ騎士団や黒魔女の(くわだ)てにまんまとハマった被害者だと思っていた。


だが、今世のセルジオの中に封印され、セルジオの成長を見守る内に己の行動を己の考えを省みる機会を得た。


そして、今、全ての悔恨を水に流す最後の機会を水の精霊ウンディーネに与えられた。


頭では充分すぎる程、解ってはいるはずの事が、いざオーロラの最後を思い返そうとすると鼓動が速さを増すだけで情景が全く浮かんでこない。


セルジオは初代が苦しむ胸の内を同じように感じ取っていた。


「お前は何も変わってはおらぬようだな」


なかなか先へ進まない初代にウンディーネの声がドームに響いた。


「それが、その姿こそがお前だ。己を省みず、己の行いを正当化し、全てをマデュラに押し付け、悪の根源の様に(ののし)る。お前とマデュラの何が異なるというのか。残した事柄が全てだ。マデュラは存続した。お前はどうだ?成すことを成さずに死したではないか」


「しかも、悔恨を今世に残すという悪行までをもしてのける。我は最後の機会を与えると言った。これを逃せばお前だけではなく、今世のセルジオも朽果て、来世を迎える事は叶わなくなる。その魂は永遠に彷徨い、天へ昇る事もできぬ。お前はマデュラを罵るに値しない存在なのだ。己の欲に忠実な黒魔女の行いの方がよほど(ことわり)に叶っていると言えようぞ。お前は己の残した悔恨すら思い返す事もできぬ。そうであろう?」


ウンディーネの辛辣(しんらつ)な言葉は初代の身体をわなわなと震わせた。


「お前ごときに愛された光と炎の魔導士が哀れでならぬわっ!お前に愛されさえしなければ、かの者はあのような無残な最期を迎えずに済んだであろうな。捕えられ・・・・」


「・・・・やめろ・・・・」


(はりつけ)にされ・・・・」


「・・・・やめろ・・・・」


「生きたまま業火にっ」


「やめろぉぉぉぉ」


ブワンッ!!!


ドーム状の時の狭間に初代セルジオの青白い炎が勢いよく湧きたった。


「やめろっ!!やめてくれっ!!!我をっ!我をっ!オーロラの代わりにっ!!!」


頭を抱え、泣き叫ぶ初代セルジオの姿にセルジオは呼吸もままならなくなった。


「かっ・・・・」


バルドの腕の中で身体を丸め、目を見開き、痙攣(けいれん)を起こしている。


「セルジオ様っ!!!」


バルドはセルジオを仰向けに抱えなおし、全身をさすった。


「あっ・・・・かっ・・・・」


呼吸が全くできずにいるセルジオは見る見る青ざめていく。


「セルジオ様っ!!!」


バルドは必死にセルジオの身体をさすり続け、初代に目を向ける。


その姿はセルジオの中に封印された時に目にした初代セルジオの姿と酷似していた。


だが、あの時の様な禍々しさは感じられない。むしろ、悲しみに喘いでいるようにバルドの目には映っていた。


ウンディーネの声が再びドームに響く。


「最後の機会と言ったはずだ。その機会をみすみす逃すのはお前自身だと知れ。今世のセルジオと共に朽ちよ。魂を来世に繋ぐことなく、永遠に暗闇の中を彷徨え。それがお前の選んだ道ぞ。さぁ、今世のセルジオの命が尽きるのを眺め・・・・」


フワリッ・・・・


ウンディーネの辛辣な言葉に泣き叫び頭を抱える初代セルジオを真白な衣が覆った。


「初代様、大事ございません」


アロイスが初代セルジオの胸に抱きついた。


「初代様、先祖オーロラは愚か者ではありません。国を思い、民を思い、王国の繁栄を切に願う初代様と共に戦う同志だったと我が家門に伝わっています。燃え盛る業火の中で悔いる事などありはしない、来世へ想いを繋ぐと申したそうです」


「初代様、先祖オーロラもエリオス様と同様にあなた様の在りようとあなた様の行いに傾倒していたのです。決して、あなた様を恨んだり、愛された事を悔いたりなどしておりません」


「どうか、どうか、初代様の悔恨を今ここで全て水に流し、今世のセルジオ様と共に来世もまた、逢まみえる様に、どうか、どうか、先祖の最期をお見せ下さい」


アロイスの言葉に湧きたった青白い炎は鎮静していった。


初代は呆然と天井を見上げている。


「・・・・がはっ!!!はっはっはっ・・・・」


セルジオは初代の青白い炎が治まると息を吸い込んだ。


「セルジオ様、ゆっくり、深く呼吸を・・・・」


バルドはセルジオが呼吸しやすいように身体を起こす。


「はっ・・・はっはっ・・・・ふぅふぅ・・・・ふうぅぅぅ、ふぅ、ふぅ・・・・」


セルジオはバルドに背中をさすられながら呼吸を整えていった。


「・・・・アロイス殿・・・・」


天井を見上げたまま初代はアロイスの名を呼んだ。


「はい・・・・」


アロイスは初代の胸に耳を押し当て、静かに呼応する。


アロイスの頬にポタポタと初代の涙が零れ落ちた。


「・・・・ぐっ・・・・我は・・・・オーロラを死なせた。エリオスの死を教訓とせず、エリオスが残してくれた機会を活かせず、オーロラをも死に追いやった。そなたの先祖を殺した我を憎くはないのか?」


天井へ顔を向けたまま止めどなく涙を流し、初代はアロイスへ問いかけた。


「なぜ、初代様を憎く思いましょう。ラドフォールは、いえ、シュタイン王国も王国の民も初代様に救われたのです。100有余年前、初代様がおらねば王国は他国からの侵略に合い、露と消え失せていたでしょう。先祖オーロラは初代様と同じ時を生き、共に戦えた事を誇りとしていました。私には判ります。姿が生き写しの私だからこそ、判るのです。我らにこの場に控えます我らと共に初代様の悔恨を水に流して下さいませ。これは先祖オーロラの願いでもあります」


アロイスは初代の顔を見上げた。


初代は天井から視線をアロイスへ落とす。


アロイスの後頭部へ左手を添えるとそっと額に口づけをした。


「アロイス殿、感謝申すぞ。ウンディーネ様が下さった最後の機会をも逃す所であった。今世のセルジオを道連れにする所であった。感謝申す」


初代を見上げるアロイスの目から涙が溢れ、零れた。


「・・・・はい・・・・初代様・・・・」


アロイスが(まぶた)を閉じると初代はアロイスを抱きしめ、『オーロラ』と囁いた。

【春華のひとり言】


今日もお読み頂き、ありがとうございます。


初代セルジオの悔恨の浄化、第二弾始まりました。


悔恨の根が深いだけに浄化への道筋も長く、険しいものとなります。


セルジオの小さな身体が持つのか、ハラハラが収まりませんでした。


このまま初代セルジオの悔恨は無事に浄化できるのか・・・・


初代セルジオが今世のセルジオの中に封印された回は

第2章 第7話 インシデント3:前世の封印


となります。


バルドが立ち会った初代セルジオの封印。よろしければ振り返りでご覧下さい。


次回もよろしくお願い致します。

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