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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第103話 マデュラ騎士団10:アロイスの役目

ザアァァァァァ


大きな水音を立てて作り出された『時の狭間』がシーンと静まり返った。


重装備の鎧の初代セルジオがゆっくりと立ち上がるとドーム状の空間に水の精霊ウンディーネの声が響いた。


「アロイス、悔恨を残し今なお今世に留まろうとする愚かな古の騎士を正しき道に導け。そなたの役目ぞ」


真白な流れる衣服を身に着けたアロイスは天井に向かい呼応した。


「承知しました。ウンディーネ様のご助力に感謝します」


ウンディーネに呼応するアロイスへ初代セルジオは目を向けた。


「オッ・・・・」


目を見開き驚いた様子でアロイスへ近づく。


アロイスの頬に触れようと伸ばした手をピタリッと止めた。


「すまぬ、アロイス殿であったな」


ふっと一つ溜息を漏らし、アロイスへ愛しき者を見る目を向ける。


アロイスは少し背丈の高い初代セルジオを間近で見上げた。


「お会いしとうございました。初代様」


アロイスの言葉に初代セルジオはフルフルと身体を震わせている。


かつて心から愛した光と炎の魔導士オーロラを重ねているのだろう。


二人の間に独特の空気が漂っていた。


「アロイス、お前が惑わされてどうする」


ウンディーネの低い声が響く。


「お前の感情はオーロラの感情ではない。正しき道へ導くのであれば今ある感情を捨てよ」


アロイスの目の前で水の泡がパンッと音を立てて弾けた。


我に返ったアロイスは初代セルジオの前で(ひざまづ)く。


「初代様、失礼を致しました。まずは、お出まし下さり感謝申します」


いくら水の精霊の力を持ってしても当の本人である初代セルジオに悔恨を流し去る意思がなければ封印されている今世のセルジオの中からは呼び出す事はできない。


アロイスはそのことに礼を尽くした。


「この先、ご承知の通りセルジオ殿がマデュラ子爵領に入ります。このまマデュラ領に入れば黒魔術の思うづぼ、恰好の餌食となりましょう。黒魔術が入り込む隙などないよう、今ここで、初代様の悔恨を残された想いを全て水に流して頂きたく存じます」


アロイスは込上げる想いを必死で抑え、初代セルジオへ事の次第を丁寧に伝えた。


初代セルジオはふっと微笑むとアロイスへ立つ様に手を差し出した。


「アロイス殿、重々承知しております。先ほど、ウンディーネ様より最後の機会を頂きました。この先、今世のセルジオの中で鎮かに

眠れとお言葉を頂戴しました。今少しだけお力をお貸し下さい」


ガチャッ!


アロイスは初代セルジオの手を取り、立ち上がった。


初代セルジオは今、水の精霊ウンディーネが作り出した『時の狭間』で実体化している。


その身体に触れることが可能なのだ。


初代セルジオは立ち上がったアロイスを抱き寄せたい衝動を抑え、そっと手を離した。


「準備はよかろう。始めよ」


ウンディーネの低い声がドームに響いた。


セルジオはバルドに背中を預け、黙って初代セルジオとアロイスを眺めていた。


どこか懐かしいその情景に目を細める。


「セルジオ様のご記憶でもありますから」


左手を握るエリオスがセルジオの代弁をした。


2人は顔を見合わせるとにこりと微笑み合い、初代セルジオとアロイスの話の続きを静かに待った。


初代セルジオがクルリと振り返り、居合わせる一同の顔を見る。


アロイスは祭場の脇にある石の椅子に一同を誘った。


「祭場の中心、水辺に初代様の悔恨を映しだして頂きます。皆に見届けられた悔恨は水辺から下の河へと流れていきます」


アロイスは身振り手振りで初代セルジオの悔恨の浄化方法を説明した。


アロイスは一つ間を置くと初代セルジオへチラリと目を向けた。


その身が滅んでも魂に刻まれた悔恨の感情だ。どれ程の痛みだったことだろう。


ウンディーネの計らいとはいえ、時の狭間の中にいるとはいえ、何が起こるかは誰も解らない。


いや、むしろ時の狭間にいる事で、初代セルジオの悔恨の強さにセルジオがどこかに飛ばされてしまう事もないとは言えない。


アロイスは、一同に説明をしながら対応策を考えていた。


アロイスの説明が一区切りするとバルドはセルジオを抱き上げ、自身の膝の上に座らせた。


セルジオの背後から抱き抱える様にセルジオの小さな身体をしっかりと包みこむ。


「セルジオ様、苦しくはありませんか?」


バルドはセルジオに優しく問いかけた。


「大事ない。バルド感謝もうす。温かい」


セルジオは首を後ろに回しバルドに呼応する。


「オスカー殿、エリオス様も万が一の為に膝の上で抱えて下さい」


何度となく危険な目に合ってきたセルジオとエリオスに仕えている2人は己の役目を熟知していた。


「承知しました」


オスカーはバルドが言い終わらない内にエリオスを膝の上に乗せ、バルドと同じように抱き抱える。


その姿を確認するとバルドはアロイスへ視線を向けた。


アロイスはコクンッと一つ頷くと初代セルジオへ声を掛けた。


「初代様、我らの準備は整いました。どうぞ、良しなに」


祭場の中央の水辺に入り、初代セルジオはアロイスを愛おしそうに見つめた。

【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。


水の精霊が作り出した『時の狭間』で実体化した初代セルジオ。


アロイスの役目は初代セルジオを呼び出すことと気持ちを落ち着かせることでした。


準備は整い、次回はいよいよ、初代セルジオの悔恨を垣間見ます。


次回もよろしくお願い致します。

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