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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第101話 マデュラ騎士団8:初代の呼び出し

100有余年前の初代セルジオの時代、光と炎の魔導士として数々の戦いに参加したオーロラ・ド・ラドフォール。


ラドフォール公爵家の本城に飾られた肖像画からその姿を窺い知ることができる。


ラドフォール騎士団第三の城塞、水の城塞の建築に携わり、多くの功績を残したにも関わらず、黒魔女の汚名をきせられ命を落とした。


初代セルジオの目の前で。


アロイスの姿は先祖オーロラに生き写しだった。


負傷した初代セルジオをオーロラが水の城塞で庇護していたとラドフォール公爵家に口伝されてきた言い伝えをアロイスは幼少期から聞かされていた。


姿が生き写しであり、水の精霊に仕え、水の城塞を治めていることからかアロイスの初代セルジオに対する想いは独特なものだった。


まるで初代セルジオを深く愛したのはアロイス本人であるかのように。


初代セルジオの無念の感情が生まれて間もないセルジオの中に封印されたと聞いた時、平静を保つことが難しい程だった。


セルジオに会える機会を心待ちにし、青き血の目覚めを願い、成長の手助けを惜しまない姿勢は影部隊(シャッテン)を預かるラルフからすると危うく映った。


ただ、オーロラ自身が初代セルジオに想いを寄せた事実は伝わっていない。


むしろ、シュタイン王国を共に守る同志の様な存在であったと言い伝えは締めくくられていた。



先祖オーロラが好んで着用した白いドレープが掛かった衣服を纏いアロイスセルジオを見つめていた。


その瞳は愛しい者へ向けられるものだとラルフは感じていた。


アロイスはセルジオの前で膝を折り、目線を合わせると雫が落ちる頬にそっと触れる。


「セルジオ殿、お寒くはありませんか?」


愛おしそうに濡れる頬を拭った。


「・・・・」


セルジオは無言でアロイスを見返し、ぐっと拳を握った。


白い衣服を纏ったアロイスの姿を目にしてから胸が締め付けられる様な痛みを覚えていたのだ。


「セルジオ殿?」


もはや頬を伝うのは水滴ではなく痛みを堪える冷やせだった。


強く握った両拳がフルフルと震えている。


耐えきれなくなり声を漏らした。


「うっ!!!」


「セルジオ様?」


バルドがセルジオの異変に気付き顔を覗く。


痛みに強いセルジオが冷やせをかくほど強烈な痛みを感じているのだろう。


バルドは慌ててセルジオの背中をさすった。


アロイスはバルドの動きに我に返る。


「既に痛みが出ていますね。これより水の精霊ウンディーネ様にセルジオ殿の中へお入り頂きます。クロード殿」


アロイスは祭場の岩壁の階段脇で控えていたクロードへ顔を向けた。


「クロード殿、ミゲル殿とヤン殿と共に神殿でお待ち下さい。何が起きるか分かりません。聖水の守り人を危険にさらすわけにはまいりませんから」


アロイスの言葉にクロードは静かに頭を下げるとミゲルに合図を送った。


ミゲルは頷くと岩壁脇の棚から深い蒼色の小瓶を2つ手に取った。


「アロイス様へお渡しする様にとポルデュラ様よりお預かり致しました。神聖水にございます。セルジオ様の中へウンディーネ様がお入りになる際にお使い下さいとのことです。1つは予備にございます。万が一、一度で事が成せぬ様なら二度まではセルジオ様も堪えられるとの事でございました。ただし、二度が限度であるからよくよく慎重に事を運ぶようにアロイス様へお伝えするよう承りまっております」


ミゲルがラルフへ2つの深い蒼色の小瓶を手渡した。


「クロード殿、叔母との繋き感謝します」


「いえ、全ては神の思し召しです。我らは神殿にて事の成就を祈っております」


3人は頭を下げると岩壁の階段を静かに上っていった。


その間にもセルジオの顔は見る見る青ざめていた。


アロイスが「手筈通りに」と一言告げるとそれぞれ予め指示されていた位置につく。


バルドはセルジオの背中を支える様に両膝をつき、胸をセルジオの後頭部にそっと当てた。


エリオスはセルジオの左側に腰を下ろし、セルジオの左手を両手でギュッと握る。


オスカーはアロイスの左側に就いた。


ラルフはアロイスの右側へ移動すると深い蒼色の小瓶を1つアロイスの胸の前に差し出した。


「はじめます」


アロイスは神妙な面持ちで深い蒼色の小瓶を手に取り開始の言葉を発した。


「水の精霊ウンディーネに仕えし我の願いを聞き届け賜え。この者の中に眠る(いにしえ)の騎士、青き血が流れるコマンドールを鎮める助けを請いたい。我、手にする神聖水よりこの者の青き泉へ降り立ち、古の騎士を我らの前に呼び給うこと聞き届け賜え」


アロイスは深い蒼色の小瓶の蓋を静かに開けるとふぅと息を吹きかけた。


アロイスの口から小瓶へ向けて水色の細い糸の様なものが入り込んでいく。


アロイスは水色の細い糸が小瓶の中へ完全に入り込むとそっと蓋を閉めた。


両手で握った小瓶をゆっくりと頭上へ掲げ、時計回りに回転させる。


再び胸の前に小瓶を戻すと蓋を開け、セルジオの口元へ小瓶を近づけた。


「セルジオ殿、神聖水を飲んで下さい。ゆっくりと一口で飲み干すのです」


バルドはセルジオの体勢を少し後ろへ傾けた。


アロイスが小瓶を傾け、セルジオの口の中へ神聖水を流し込んだ。


「ガハッ!!!ゴホッゴホッ!!!」


セルジオは飲み込もうとした神聖水を全て吐き出した。


吐き出された神聖水の色が濃紺に変わっている。


その色はセルジオが深淵に落ちた際に胸の痛みと共に吐き出した黒々とした塊と同じ色だった。


「ガハッ!!!ガハッ!!!」


何度も濃紺の水を吐き出す。


バルドがハッとしアロイスへ進言した。


「アロイス様、セルジオ様が深淵に落ちられた際に同じ様に胸の痛みと共に濃紺の水を吐き出してみえました。セルジオ様は初代様の悔恨と思い悩むご自身の胸の苦しさだと申されていました。もしや、初代様が拒絶されてみえるのでは・・・・」


セルジオの苦しそうな様子にバルドは居たたまれない思いだった。


あの時、セルジオを深淵から連れ戻す事ができたのはポルデュラがいたからだ。


ポルデュラがこの場にいない今、果たしてこの状態のセルジオを救うことができるのかバルドは必死でポルデュラからの教えを反芻した。


バルドはセルジオが深淵に落ちた時と同じ状況であればと思い至る。


あの時解放されたバルド自身の魔眼、胸に下がる翆玉(エメラルド)のクルス、そして左足の腿と右足首にある六芒星の刻印。


これらは初代セルジオの悔恨が封印された青き泉にたどり着く道しるべだと深淵に落ちたセルジオを探し出す鍵だとポルデュラは言っていた。


鍵が揃っているのであれば水の精霊がセルジオの青き泉へ入る事は容易であるはずだ。


今更、初代セルジオが水の精霊を拒絶するとは考えにくい。


ならばセルジオ自身の不安が神聖水を飲み込めない原因であろう。


バルドはセルジオの頭にそっと口づけをした。


自身の胸にセルジオの耳を押し当て優しく諭す様に言葉を繋いだ。


「セルジオ様、何も恐れることはございません。我らがお側におります。水の精霊ウンディーネ様に初代様にお出まし頂く助けをして頂くだけです。今、やらねばならないのです。今を逃せば初代様がセルジオ様の中で暴走されます。そうなればセルジオ様のお身体は崩れ落ち、初代様もろ共二度と生を受ける事は叶わなくなります。大事ございませんよ。我らがお側におりますから」


トクンットクンットクンッ

トクンットクンットクンッ


セルジオはバルドの言葉と鼓動が自身の中の青き泉に響き渡る様に感じた。


「セルジオ様、初代様にお出まし頂きましょう」


バルドは今一度セルジオの頭にそっと口づけをした。


「うっ・・・解った」


セルジオは胸の痛みが和らいだ様に感じて言葉を発した。


「アロイス様、お願い致します」


バルドは心配そうに2人を見つめるアロイスへ強い視線を向ける。


バルドの視線にアロイスは覚悟を決めた様に頷いた。


「承知しました。二度までしか、初代様にお出まし頂くためにウンディーネ様にお力添え頂けるのは二度まで。これが最後となります。セルジオ殿、少々手荒な事をさせて頂きます」


アロイスは再び水の精霊の呼び出しの呪文を唱えると同じように水色の細い糸を小瓶に注ぎ込みそのまま神聖水を己の口に含んだ。


セルジオの頬に両手を添える。


セルジオの顔を上へ向けると神聖水を口移しでセルジオの喉へ流し込んだ。


塞いだ口は離さずに頬に添えた両手を少し上へ持ち上げる。


セルジオはゴクリッと喉を鳴らして神聖水を飲み込んだ。

【春華のひとり言】

今日もお読み頂きありがとうございます。


なかなか、一筋縄ではいかない初代セルジオの呼び出しの回でした。


先祖オーロラの姿に扮したアロイス。


先祖オーロラの姿は


【第3章】第12話 セルジオの記憶


で、ご覧いただけます。


次回は水の精霊ウンディーネと初代セルジオが再び登場します。


次回もよろしくお願い致します。

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