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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第2章:生い立ち編1~訓練施設インシデント~
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第1話:プロローグ(前世の探究)

騎士セルジオの記憶を思い出してから二週間。

私は、更に深く「前世の記憶」を探求することにした。

前世と現在がどうリンクしているのか興味があった。

そして、知りたかった。

「騎士が命をかけて守ろうとしたものは何だったのか」を。

騎士セルジオの第1章に至るまでの物語。


右腕を切り落とされた「伝説の騎士セルジオ」の前世の記憶を浄化してから二週間程経った頃、私は彼女と会い経過を報告した。


あれから右肩から右腕にかけての痛みは完全には引いておらず湿布薬が欠かせないでいる。


不思議な事だが炎の中でセルジオが切り裂いたのどと同じ位置に短剣が刺さった様な傷跡が残っていた。


私の報告を聞いた彼女は打開策を提案してくれた。


「身体に影響が出てからの対処では根本的な解決にはならないんですよね。繰り返し痛みに襲われたり、悪夢が続く場合もあるので・・・・。よろしければ前世から残している感情を引き出して浄化して下さる方をご紹介しましょうか?」


(そんな事もできるのか!それはとても興味深い)


彼女の提案に私は興味を抱いた。


実は彼女に会う今日まで体調管理はできうる限り全て実行していた。


健診では数値に全く問題はなく健康そのものであったし、身体をほぐす為の整体やマッサージもそれまでと同じく週に一度は通っている。


毎日3キロのウォーキングと入浴後のストレッチも欠かさず継続しているし、身体に必要な栄養素を補うサプリメントも勿論、服用している。


それでも身体全体が重く、一向に引かない右肩の痛みに耐える日々を過ごしていた。


自分の行動だけではどうにも解決できないことだと重々承知していた私はこの時、わらにもすがる思いだった。


仕事柄、全体像を捉えプロセスを細分化、問題点を可視化する事には慣れている。


彼女の提案が現状を打破する問題解決だと思った私はその場で即依頼をした。





個人情報をさらけ出す訳だから普段の私であれば一旦返答を持ち帰っていたはずだ。


勿論、彼女の知り合いで彼女が信頼を寄せている様子がうかがえたからこそ依頼をする気になったのだが自分のらしからぬ言動に正直、私自身が驚いている。


それから一月ひとつき後、彼女の知人とお会いした。


ウェーブ掛かった薄茶色の髪の長身の女性で穏やかな声音に柔らかい微笑み、初見は雰囲気が彼女とよく似ていると思った。


『霊視コンサルタント 桐谷きりたに沙夜さや』と記された光沢のあるパールホワイトの名刺を手渡され挨拶を交わすか交わさぬかのうちに


「これは!よくお独りでこれだけの荒波を越えてこられましたね!」


と告げられる。


「それは、今世のことですか?」


私の問いに桐谷さんは大きくうなずき続けた。


「はい!よく生きていらっしゃいますね!相当守りが強いです」


確かに・・・自分でも思う事がある。


「よく生きてこれたな」と。


桐谷さんは続ける。


今世での出来事は前世と深くリンクしているのだそうだ。


個人差はある様だが、人間は何度も転生を繰り返す。そして、その時代の生涯のおくり方で感情を残したまま終わりを迎える事が何度となく続くと感情が地層の様に幾重いくえにも蓄積ちくせきされ、自分では取り除く事ができない状態になるらしい。


聞きながら『仕事と同じだな』と思った。


問題を抱えたまま放置していると時間が経てば経つほど、解決の糸口を見出すプロセスが長くなる。


もう一つは『過去から引きづっているクセ』だそうだ。


思考グセと同義どうぎと捉えた。


なるほど、思い当たるふしは重々ある。子供の頃から感情を押し殺す事が美徳びとくと教えられ育った。その為、自分自身の奥底から湧き出る感情に『見ない、言わない、聞えない』を決め込むクセがついている。


そう思っていると


「言いたい事の三分の一も言えていないですね!特に怒りや悲しみにはふたをしてきています」


桐谷さんはサラリと言った。


『ドキッ!』なのか『ギクリ!』なのか桐谷さんが私の瞳から心の奥底へ入り込んでくる様に感じる。


(少し怖いな!全てを見透かされている様で・・・・)


桐谷さんの第一印象だった。


「では、早速、はじめましょうか」


桐谷さんは私の正面に座り姿勢を正す。


「今日は初めてですので、前世の記憶を辿れる所までさかのぼっていきます。彼女の話ではかなり鮮明に記憶されている様ですので、徐々に紐解いていきますからご安心下さい」


桐谷さんは前世の記憶を辿たどる手順を説明する。


「今の時点からまず今世をさかのぼっていきます。今まで嫌だなと思った事で頭にふっと浮かんだ事をお話し下さい」


「途中で、質問をするかもしれません。質問には頭に浮かんだままを答えて下さい」


桐谷さんの話を聞きながら足がガクガクと震え出すのを感じた。


(なんだろう?足が震える・・・・)


始まる前にこの状態を伝えた方がよいのだろうか?迷っていると桐谷さんの隣に座る彼女が優しく語りかけてくれた。


「恐がらなくて大丈夫です。ゆっくりと引き出していきますから」


どうやら私が怖気おじけづいていることもお見通しの様だ。


(こうなったらまな板の鯉だ!自分で選択した事なのだから)


私は覚悟を決めた。


「解りました。よろしくお願いします」


と言った瞬間から突然、嫌な思いをした映像が古い映画のフィルムの様に目の前に浮かんだ。


封建的ほうけんてきな家で育った。


はしの上げ下ろしから話し方、所作しょさに至るまで、できるまで訓練をさせられた。


何より『規律』が重んじられる家だった。


『規律』を乱す事があれば子供であっても容赦ようしゃはない。暑かろうが寒かろうが関係なく屋外にある物置に閉じ込められた。


ただ、その『規律』を乱す行為に対する制裁せいさいは『乱した人物』によって異なっていた。


そこに子供ながらに違和感を覚えていた。


そんな日常の光景が、深く深く胸の奥にしまっていた情景が鮮明に浮かんでくる。


頭ごなしに押さえつけられる言葉、制限される行動、尊重されない意思等ドロドロとした黒いかたまりと一緒に胸の奥底から怒り、嫌悪感けんおかん、憎しみ、恨み、悲しみと湧き出てくる。


堪えきれず咄嗟とっさに抑え込もうとした。


「抑え込まないで!そのまま続けて!」


桐谷さんは胸元で糸でも手繰たぐる様に目を閉じクルクルと手を回している。


「すみません。胸が張り裂けそうな程痛むのですが・・・・」


私は痛みに強い方だと認識している。


それでも今まで感じた事のない程の痛みを胸に感じていた。


本当に張り裂けるのではないか?と感じ自分の胸元にそっと目をやる。


「ここまで硬く、硬く積み重なっているとかなり痛みがあると思います。このまま続けます!」


桐谷さんは少し口調を強めた。


「解りました。我慢がまんします」


その言葉を最後に私の意識は遠のいた。彼女が浄化してくれた時と同じ様にふわりと身体がちゅうに浮く感覚。


私はゆっくり目を閉じ、この状況に身を任せた。

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