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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第75話 クリソプ騎士団12:奴隷の城館

ガタンッ!!

ガタッガタッガタッ・・・・


『・・・・うっ・・・・痛い・・・・』


堅い柱の様なものに額をぶつけて痛みが走った。


静かに目を開けると真っ暗な中に一筋の光がぼんやりと目に入る。


『・・・・ここは・・・・私は何を・・・・』


ズキリッ!!!


『うっ!!!』


考えようとすると頭に痛みが走る。手を動かそうにも身体の自由が効かない。


「・・・・セルジオ様・・・・」


エリオスは一筋の光が入る暗闇の中でセルジオの名を消え入る様な声で呼ぶと再び意識を失った。


ガタッガタッガタッ・・・・

ガタッガタッガタッ・・・・

ガタンッ!!!


朝市で賑わう商店が連なる繁華街を抜け荷馬車は街道を南へ向かっていた。


「おいっ!乱暴に操るなよっ!積荷に傷でもつけたらどうするんだっ!」


「わかってるよっ!仕方がないじゃないか。街道の整備が悪いんだ。これでも俺の腕は確かなんだぞっ!」


「ふんっ!そのご自慢の腕が役に立たずにいたから今こうしているんだろうがっ!とにかくだっ!ご主人の言いつけだけは守れよっ!積荷に何かあったら俺たちの首が飛ぶんだからなっ!」


「わかってるって。大丈夫だよ。兄さんを困られせることはしないから・・・・4年前のオプティシ河の氾濫で畑も住まいも家族も全て失った俺らに救いの手を差し伸べて下さったご主人からの頼まれ事だ。何があってもやり抜くよ」


荷馬車を操る青年は兄と呼んだ男に静かに微笑んだ。


4年前、長雨が続いた年に東の隣国シェバラル国を流れるオプシティ河が氾濫した。


収穫間近の作物は全滅。シェバラル国の貴族が縁のあるシュタイン王国クリソプ男爵領へ避難してきたのだ。


クリソプ男爵は自領南の農村部にある城館を避難先として提供した。


以来、クリソプ男爵とシェバラル国の一部の貴族との交易が盛んになった。


避難先として提供した城館はいつの間にかシェバラル国貴族が集う格好の隠れ家となった。


数カ月に一度、シェバラル国貴族はその隠れ家の城館に密かに他国の貴族を招いて宴を催すようになっていた。


宴の度に荷馬車が領内を行き来はするが、シュタイン王国内の18貴族がそれぞれの自領の城館で催す宴にいちいち目を向けることはなかった。


ガタッガタッガタッ・・・・

ガタッガタッ・・・・


「どうどう・・・・」


「兄さん、南の城館に着きました。開門の合図をして下さい」


「わかった」


弟の申出に呼応すると兄は大きく息を吸い込んだ。


「荷運びギアスが到着しました。開門を願いますっ!」


目前にそびえる堅牢な門に声を張り上げる。


「荷運びのギアス、積荷はいかほどかっ!」


門の中からくぐもった声がした。


「荷馬車一台です。荷の数は木箱が6つです。内の()()はクリソプ男爵からご主人へ宴の余興にお使い下さいとの言伝(ことづて)を賜っています」


「・・・・承知した」


一瞬、返答に間があった。が、直ぐに入城の許可が下った。


「荷運びギアス、入城を許す」


ガコンッ!!!

ギギ、ギギ、ギギ、ギィィィ

ガコンッ!!!


クリソプ男爵領南の城館の門が開かれた。


「ギアス、今日は離れの館で荷を下す様にとのことだ。離れの館へ向かってくれ」


門番があごで離れの館の方を指す。


「かしこまりました」


荷運びの兄弟は城館内に森の様に木々に覆われた小道を進んだ。


ガタッガタッガタッ・・・・

ガタッガタッガタッ・・・・


「・・・・」


二人は暫く無言のまま荷馬車を進めた。


ガタッガタッガタッ・・・・

ガタッガタッガタッ・・・・


サアァァァァ・・・・

ピチュピチュ・・・・

チチチチ・・・・


木々に覆われた小道は風が吹き抜け、小鳥のさえずりが聞こえて心地がよい。


手綱を握るギアスの弟は、鼻から息を大きく吸い込むとそっと目を閉じた。


「・・・・兄さん、この小道は気持ちがいいね・・・・村を思い出す」


弟はギアスに目を向けた。


「・・・・」


ギアスは無言で小道の先を凝視していた。

弟の声にポツリと呟く。


「思い出しても仕方がないだろう・・・・もう・・・・全て・・・・いいから、お前、前を向けよ。手綱をしっかり握ってろ」


ギアスの声が少し寂しそうに感じた弟は、わかったと一言告げると行く手に目を向けた。


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