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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第67話 クリソプ騎士団3:強みと弱み

クリソプ男爵領に入り4日が経った。


セルジオとエリオスはクリソプ騎士団城塞にカリソベリル騎士団第一隊長フェルディと共に滞在をしていた。


バルトとオスカーはクリソプ騎士団城塞から馬で小一時間程離れているクリソプ男爵領東門にある騎士団従士棟に滞在をしていた。


クリソプ男爵居城から東門へ向け商業区域となっている。


その商業区域を囲む様に居城、騎士団城塞、騎士団従士棟が配置されていた。


騎士団の早朝訓練は騎士団城塞南城門の外に設けられた訓練場で行われる。

訓練の様子は誰もが見学ができるように背の低い石壁で囲われている。


日頃の訓練の様子を見せることは隣国シェバラル国との行き来が盛んな商業区域への防犯を促していた。


クリソプ騎士団の従士は東門従士居住棟から商業区域の見回りを兼ねて城塞訓練場へ向かうことが日課であった。


バルトとオスカーは毎朝、陽が昇る前に従士居住棟から城塞訓練場へ足を運んだ。



カコッカコッカコッ・・・・

カコッカコッカコッ・・・・


夜明け前の静まり返った商業区域の石畳に蹄の音が響く。


真っ白な馬の息が気温の低さを感じさせた。


「バルト殿、今朝はことのほか冷えますね。セルジオ様は寒さに震えているのではないでしょうか?」


オスカーが寒がりのセルジオを身を案じる。


バルトはオスカーへ不安な思いを気取られない様、微笑みを向けた。


「オスカー殿、エリオス様が始終ご一緒にいて下さいます。セルジオ様は大事ございませんでしょう。それよりもご自身の事よりセルジオ様を思いやるエリオス様が心配にございます」


バルトとオスカーは互いの主を思いやる己に顔を見合わせて笑った。


「左様にございますね。では、訓練場で暖めた我らの胸に抱えて差し上げましょう」


オスカーはセルジオとエリオスが訓練場に姿を見せる前にバルトへ手合わせをしておこうと誘った。


バルトは快く呼応すると2人は訓練場へ急ぎ向かうのだった。



カンッ!カカッカンッ!!

カンッ!カカッカンッ!!

ガキンッ!!!

ガランッ・・・・


「セルジオ様っ!左脇が甘いっ!」


「つっ・・・・」


「次は私がまいりますっ!」


ザザッザッ!!!

カンッ!カカッカンッ!!

カンッ!カカッカンッ!!


バルトとオスカーが訓練場に到着すると既にセルジオとエリオスはカリソベリル騎士団第一隊長フェルディと木剣を交えていた。


カンッ!カカッカンッ!!

カンッ!カカッカンッ!!

ガキンッ!!!


ブンブンッ!!

ガランッ!!


「くっ・・・・」


フェルディは容赦なくセルジオとエリオスに木剣を叩きこむ。


「エリオス様っ!いかがされたっ!短剣は扱えるが木剣は扱えぬのかっ!手から離れた木剣をすぐさま拾いなさいっ!」


「セルジオ様っ!お早くっ!次を切り込みなさいっ!」


フェルディは寒さで身体が固まるセルジオとエリオスの動きの鈍さを指摘していた。


「実戦では寒いからと敵は待ってはくれませぬぞっ!さっ!お二方ともっ!お早く動きなさいっ!私に参ったと言わせたお二人とは思えませぬぞっ!」


フェルディの声が訓練場に響き渡る。


「くっ!セルジオ様っ!」


エリオスが木剣を拾いながらセルジオへ身体を向けた。


「エリオスっ!ゆくぞっ!」


ダダダッ!!!


セルジオとエリオスは左右からフェルディへ切り込みを入れた。


ザザッ!!!


フェルディが双剣の構えで迎え撃つ。


「セルジオ様っ!そこっ!左脇が甘いっ!エリオス様っ!身体が開き過ぎているっ!」


ガンッカカンッ!!!

ガランッ!!

ガランッ!!


向かってくるセルジオとエリオスの弱みを指摘しフェルディは再び木剣を振るった。


ザンッ!!ザザ・・・・

ドサッ!!


木剣を弾き飛ばされたセルジオは勢いのまま後ろへ倒れ尻もちをついた。


「・・・・あっ・・・・」


ブンッ!!!


フェルディが尻りもちをついたセルジオの喉元へ木剣の切っ先を向かわせる。


「セルジオ様っ!!」


シュッ!!

ガシッ!!

カンッ!!


同じく木剣を弾き飛ばされたエリオスはセルジオへ向かったフェルディの背後から股下を通り抜け、腰の短剣を右手で抜くとセルジオの喉元に向かった木剣を頭上にはじいた。


グルンッゴロンッ!!

ザザッ!!

スチャッ!!


セルジオは身体を転がすと起き上がりフェルディの股下をくぐり背中側へ抜けた。


腰の短剣を両手で抜くとフェルディの両足の腱に外側から勢いよく切り込んだ。


「そこまでっ!!!」


ピタリッ!!!


寸での所でセルジオの動きが止まる。


バルトが場外からセルジオの動きを制止した。


「セルジオ様、エリオス様、おはようございます。フェルディ様、我が主へのご指導、感謝申します」


バルトとオスカーは城内へ急いで入るとフェルディの前でかしづいた。


一瞬の出来事に何が起こったのか解らず動きを止めていたフェルディがバルトとオスカーを見下(みおろ)す。


「・・・・」


「セルジオ様、エリオス様、短剣をお収め下さい。さっ、フェルディ様へご挨拶を」


ササッ!!

ササッ!!


セルジオとエリオスはバルトの言葉にすぐさま反応すると短剣を鞘へ収め、フェルディの前でかしづいた。


「フェルディ様、早朝よりの手合わせ感謝もうします」


「・・・・」


フェルディはエリオスに木剣を弾き上げられた体勢のままかしづく4人を見下した。


セルジオが顔を上げる。


「フェルディ様、我らへのご指導、感謝もうします」


もう一度、力強く手合わせの感謝を伝えた。


「・・・・うっ、いえ・・・・こちらこそ感謝申します。ええ・・・・もしや私は足の腱を切られる所をバルト殿に助けられたのか・・・・・」


やっと事態が飲みこめたのかフェルディはバツが悪そうにバルトを見下ろす。


「いえ、訓練の終了合図を致したまでにございます。丁度、頃合いでございました」


バルトは御前試合でセルジオとエリオスに負けたフェルディのプライドが損なわれない様にあくまでも訓練の終了合図だと伝えた。


「・・・・そうか・・・・」


フェルディは全てを承知した様子で呼応した。


「しかし・・・・セルジオ様とエリオス様のこのご自身の体形を活かした戦闘は・・・・師がバルト殿とオスカー殿であったらばこそでありましょう・・・・この様な幼子がいささか恐ろしく・・・・」


ドキリッ!!


目の前でかしづくセルジオとエリオスの背後に御前試合終了の時と同じ姿が見える。


重装備の鎧に金糸で縁取られた蒼いマントを身に纏った騎士が自身の前にかしづいている。


フェルディは慌ててセルジオとエリオスへ立ち上がる様に促した。


「セルジオ様、エリオス様、お立ちください」


2人に手を差し伸べ近づくと騎士の姿は消えていた。


ホッ・・・・


フェルディは胸をなで下ろす。


「バルト殿とオスカー殿がお出で下さいましたから私は退散することにいたしましょう」


フェルディは4人に微笑みを向けると訓練場から騎士団城塞南門へと歩んで行った。


セルジオとエリオスはフェルディの姿を見送るとバルトとオスカーへ向き直った。


「バルトっ!おはようっ!今朝はとても寒いなっ!」


セルジオはバルト目掛けて駆け寄るとバルトへ飛びついた。


カシッ!!


バルトは両腕を広げて飛びつくセルジオを迎え入れる。


「セルジオ様、おはようございます。昨夜は寒くはありませんでしたか?ぐっすりとお休みになれましたか?」


しっかりとセルジオの身体を抱え込み後頭部に左手をあて抱きしめた。


セルジオはバルトの首に両腕を回し嬉しそうに呼応する。


「大事ない。寒くもなく、ぐっすりと眠れた。エリオスがずっと抱えていてくれたから大事ないっ」


バルトは愛おしそうにセルジオを抱きしめる。


「左様でございましたか。ようございました。

オスカー殿もセルジオ様が寒くはないかと案じて下さったのですよ」


ガバッ!!


セルジオはバルトの両肩に手を置き、顔を上げる。

バルトの深い紫色の瞳をじっと見つめ、オスカーへ顔を向けた。


「そうなのか!オスカー心配してくれ感謝もうす。エリオスがずっと抱えていてくれたから寒くなく眠れたぞ」


バルトと同じ様にエリオスを抱きかかえるオスカーへ微笑みを向けた。


オスカーはエリオスと顔を合わせるとセルジオへ微笑みを向ける。


「左様でございましたか。それではエリオス様も暖かくお休みになれた事でしょう。ようございました」


エリオスは少し気恥ずかしそうに微笑むとストンッとオスカーの腕から下りた。


エリオスの姿にセルジオもバルトの腕から下りる。

申しわけなさそうにバルトを見上げた。


「バルト、感謝もうす。バルトが制してくれねばフェルディ様の足の腱を切る所であった・・・・感謝もうす」


バルトは目を細めてセルジオを見下す。


「セルジオ様、大事ございません。私の制しがなくともご自身で制止されていました。切り込みを入れるまでの勢いではございませんでしたから。大事ございません」


セルジオは徐々に動きを制御することを身に付けていた。


無意識に身体が動く事がなくなってきていたのだ。


それでも気を許すと暴走しかねない思いは拭いきれずにいた。


バルトは下を向きフェルディとの手合わせを思い返しているセルジオの頭にそっと手を置く。


「セルジオ様、大事ございません。もはや、あの時の様にはなりません」


セルジオはバルトを見上げる。


「・・・・わかった。己を信じる」


セルジオはバルトへ微笑みを向けた。



その様子を訓練場場外の樹の影からこげ茶色のマントを頭からかぶった2人人物がじっと見ていた。


ドヤドヤとクリソプ騎士団騎士と従士が訓練場に姿を現したのと同時に姿を消した。


バルトとオスカーは目線を合わせる。


バルトは場外にいた2人の人物が佇んでいた樹の方をチラリと見る。


何事もなかったかの様にクリソプ騎士団団長アドラーへ朝の挨拶へ赴くのだった。

【春華のひとり言】


今日もお読み頂きありがとうございます。


夜明け前から訓練に勤しむセルジオとエリオスの回でした。


真冬の早朝訓練、学生時代を思い出しさぞ寒かろうと身震いしながらセルジオとエリオスにエールを贈りました。


それぞれの騎士団で城塞のあり方や訓練場の様子も異なります。


違いを知ることがコミュニケーションの第一歩なのは今も昔も変わらぬことだなと感じた次第です。


物語はこれからセルジオとエリオスの成長に欠かせない試練へと進んでいきます。


次回もよろしくお願い致します。

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