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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第65話 クリソプ騎士団2:バルトの不安

クリソプ騎士団団長アドラーが他家名からの訪問を阻む北門を開けさせた。


ザッザッザッ・・・・

ザッザッザッ・・・・


アドラーは第一隊長オッシと第二隊長エマを従え、フェルディとバルトの元へ駆け寄ったセルジオ達に歩み寄る。


ザッ!!!

ザッ!!!


セルジオ達は歩み寄るアドラーの前でかしづいた。


アドラーはにこやかな微笑みを携え、セルジオに近づくと膝を折り、セルジオと目線を合わせた。


「セルジオ騎士団団長名代セルジオ様、私はクリソプ騎士団団長アドラー・ド・クリソプにございます。この度の我が家名の所業、大変失礼を致しました。セルジオ様のご到着に合わせて参る所、遅れましたことお詫び申し上げます」


アドラーはそのまま姿勢で頭を下げた。続いてカリソベリル騎士団第一隊長フェルディへ顔を向ける。


「フェルディ様、大変に失礼を致しました。カリソベリル騎士団団長フレイヤ様よりセルジオ様にご同道されていること使い魔にて知らせを受けておりました。我が家名の体たらくをお許し下さい」


アドラーはフェルディへも深々と頭を下げる。


フェルディが呼応した。


「アドラー様、頭をお上げください。ご懸念のこと重々承知致しております。されば我が団長フレイヤが私目をセルジオ様ご一行に同道させたのです。アドラー様がフレイヤと同じご苦労をされていることも承知しております。どうか、お気になさらずに。北門をお開け頂けましたこと感謝申します」


フェルディはアドラーへ頭を下げた。


「お心使い感謝申します」


アドラーはフェルディの言葉に一言礼を言うとセルジオの後ろで控えるバルトとオスカーへ目を向けた。


「バルト殿、オスカー殿、お久しゅうございます。覚えておいででしょうか?叙任前の私が王都で主催の御前試合の席で道に迷っている所をお助け頂きました。お二人はセルジオ騎士団第一隊長ジグラン様に仕えていらした。

助けて頂いた時のお二人のお姿が美しく、凛々しく、見惚れた私は御礼すらまともにお伝えできませんでした。遅ればせながらこの場にて当時の感謝をさせて頂きます」


アドラーは左手を胸に置き、バルトとオスカーへ向けて頭を下げた。


バルトとオスカーは顔を見合わせる。


バルトとオスカーが叙任を受けて間もない頃に行われた御前試合で王都競技場の警備をした事があった。


18貴族の貴族騎士団が集結する競技場で叙任前の従士が迷えば恐怖を抱き右往左往するのが当たり前だ。

しかし、アドラーは通路脇で留まり騎士と従士の行き来に目を向けていた。


自身が所属する騎士団の騎士か従士が通り掛かるのを待っていたのだ。


不安を悟られない様、努めて顎を上げ表情を消し、その場に留まる事を当たり前にみせる様に。


そこに警備に当たるバルトとオスカーが現れ、声を掛けたのだった。

バルトとオスカーはその時の光景を思い返すとアドラーへ呼応した。


「アドラー様、頭をお上げください。我らはその時の役目を務めただけにございます。我らを覚えていて下さったこと、大変に光栄にて感謝申します」


バルトとオスカーも左手を胸にあて、頭を下げた。


セルジオはアドラーが頭を下げたまま次の言葉を発しないかじっと待った。


相手が言葉を発しなくなるのを確認してから口を開く様にとバルトとオスカーから諭された事を実践する。


「・・・・」


アドラーもセルジオを試しているのだろう。頭を下げたまま姿勢を崩さずセルジオの様子を窺っている様だった。



辺りがしーんと静まりかえるとセルジオは口を開いた。


「アドラー様、お初にお目にかかります。セルジオにございます。こちらは我が守護の騎士エリオスにございます。バルトとオスカーの事はお見知りおきとのこと。これより二週間、クリソプ騎士団にてお世話になります。何卒、よろしくお願い申し上げます」


セルジオとエリオスはかしづいたまま頭を下げた。


直ぐに頭を上げると北門開錠の件の礼を言う。


「そして、この度の北門開錠のこと、感謝もうします」


サッ!!

サッ!!


セルジオの言葉にエリオス、バルト、オスカーそしてフレディが今一度アドラーへ頭を下げた。


アドラーはセルジオの言葉に満足そうにふっと笑うと顔を上げる。


セルジオへニコリと微笑みを向けた。


「セルジオ様、左様にかしこまらずお願い致します。お会いできて光栄です。さっ、では陽が暮れぬ内に我が城塞へまいりましょう。クリソプ騎士団城塞は残念ながらバルト殿とオスカー殿にお入り頂くことができぬのです。お二人は所領東門にあります従士居住棟へご案内致します。何卒、ご勘弁の程を」


アドラーは申し訳なさそうにバルトとオスカーへ頭を下げた。


バルトがすぐさま呼応する。


「アドラー様、重々承知しております。我らへお気遣いは無用に存じます。フェルディ様がご同道下さいましたのもそのためにて」


バルトは解ってはいたもののセルジオから離れる事に不安を抱いていた。


アドラーはバルトの不安を取り除きたい思いで言葉に力を入れた。


「バルト殿、オスカー殿のご心配、重々承知しています。セルジオ様とエリオス様は我が両翼第一隊長オッシと第二隊長エマが身命を賭してお守り致します。どうかご安心下さい」


サッ!!

サッ!!


アドラーの両脇で控えていた第一隊長オッシと第二隊長エマが左手を胸にあて頭を下げた。


バルトはすぐさま礼を述べた。


「アドラー様、感謝申します」


ザッ!


バルトの言葉にアドラーは立ち上がった。


「では、我が城塞へご案内致します」


サッ!!

サッ!!


セルジオ達は立ち上がり、後方にいる馬へ歩んでいった。



カコッカコッカコッ・・・・

カコッカコッカコッ・・・・


一行は北城門を通り抜ける。


ゴゴゴゴゴ・・・・


後ろで落し格子が落とされる音が聞こえる。


ギィギギギィィィ・・・・

ガコンッ!!


続いて北城門が閉じられる音が聞こえた。


北城門脇にはフェルディが現当主の私兵だと

言っていた近習従士30人程が待機していた。


近習従士の隊長らしき人物が先頭を行くアドラーへ駆け寄り、馬の歩調に合わせて随行してくる。


アドラーは横目でチラリと見下(みおろ)すと一言告げた。


「同道はいらぬっ!下がれっ!安心しろっ!この度のこと、父上からの命であろう?そなたらもそなたらの役目を務めただけのことだ。幸いどなたも怪我を負ってはおらぬ。今は不問に付しておく。安心いたせっ!」


アドラーは強い口調で忌々(いまいま)し気に近習従士に告げた。


ピタリッ!


馬の歩調に合わせて随行していた近習従士は歩みを止めた。


「はっ!アドラー様、感謝もうします」


歩みを止める事なく進むアドラーの後ろ姿へ礼を告げた。


「・・・・」


アドラーは無言で北城門を南へ向けて歩みを進めた。


カコッカコッカコッ・・・・

カコッカコッカコッ・・・・


ピタリッ!


暫く進むとアドラーは馬の歩みを止め、後ろを振り返った。


「少し、歩みを早めましょう。陽が暮れる前にバルト殿とオスカー殿に従士棟までご案内致します」


「はっ!」

「はっ!」


セルジオ達はアドラーに呼応した。


バルトはセルジオへ耳打ちする。


「セルジオ様、足の付け根は痛みませんか?少し早がけとなるかと思います。ベルトを繋ぎますが、大事ございまんか?」


セルジオはクルリと首を後ろへ向けるとバルトを仰ぎ見た。


「大事ない。今日はそれほど長く早がけしてはいないゆえ、足の痛みもないぞ。バルト感謝もうす」


日が傾き寒いのかセルジオの声は少し震えていた。


「セルジオ様、お寒いですか?」


バルトは心配そうな眼差しをセルジオへ向ける。


「・・・・少し・・・・寒い」


セルジオは申しわけなさそうに呼応した。


「承知しました」


バサッ!

キュッ!


バルトは自身のローブでセルジオを包むとセルジオの身体をキュッと引き寄せた。


「いかがですか?これで少しは寒さがしのげます」


セルジオの背中にバルトの腹部があたり暖かく感じる。


「バルト、暖かい!感謝もうす」


セルジオは首をひねるとバルトへ微笑みを向けた。


「セルジオ様、これから二週間はお休みになる時はエリオス様に抱えて頂いて下さい。私もオスカー殿も共にいる事ができません・・・・」


ローブの中でセルジオを後ろから右腕で抱きしめ心配そうに呟く。


「・・・・バルドと離れて眠るのは・・・・初めてだ・・・・」


セルジオは寂しそうな声音でバルドに告げる。


バルトは居たたまれない思いに駆られた。


ギュッ!!!


後ろからセルジオを右腕で抱きしめると頭に口づけをする。


「左様にございますね。西の屋敷で滞在の折は離れてはおりましたが、同じ部屋でしたから・・・・この度の様にセルジオ様のお姿がなく夜を明かすのはセルジオ様にお仕えしてから私も初めてのこと。私の方が寂しく眠れぬ夜となりましょう」


バルトは不安で仕方がなかった。


ただ単に滞在先が離れる事でからくる不安だけではない気がしていた。


セルジオにこの不安を悟れないように敢えて寂しいとだけ告げた。


しかし、用心のための道筋を伝える事は怠らなかった。


「セルジオ様、騎士団城塞で何か違和感を感じましたら直ぐにカイを遣わして下さい。私とオスカー殿が滞在する騎士団従士居住棟は東門にございます。騎士団城塞までは早がけにて小一時間程時を要します。そして、クリソプ男爵領は他国からの侵略に備え、早がけができぬ様に入り組んだ街並みになっております。セルジオ様とエリオス様の御身に何かありましてもすぐさま我らが駆け付けることが叶わぬのです。アドラー様と第一隊長オッシ様、第二隊長エマ様がお守り下さったとしても始終ご一緒とはいきません。この度は城塞内情を探る事はお考えになりませんように。セルジオ様とエリオス様、ご自身の安全を第一にお考え下さい。よいですね。無理に何かをなさらずともよいのです」


バルトはセルジオの耳元で小さく告げると今一度セルジオをギュッと抱きしめた。


「後は、お食事は銀食器に盛り付けられた物のみ召し上がって下さい。召し上がる時はアロイス様から頂いた銀のスプーンとフォークをお使い下さい。直ぐに口に運ばずに暫くスプーンとフォークの色が変わらないかを確認してからお召し上がり下さい。アドラー様を疑っているのではありません。これは騎士団団長がご自身を守るための最低限のマナーです。よいですね」


バルトは念を押すとセルジオの頭に口づけをした。


バルトの声も頭に触れた暖かい口唇も少し震えている事をセルジオは感じていた。


それほど危険なのだろうと察すると己の腹に回されているバルトの右腕をギュッと握った。


小さな声で呼応する。


「バルト、大事ない。全てバルトから教わった通りにする。何かあったらすぐにカイを遣わす。食事をする時は特に注意をする。毎朝の訓練の時に全て話しをする。だから安心してくれ」


ギュッ!!!


バルトが腹に回す右腕に力を込める。

セルジオもバルトと同じ様に両手で握るバルトの右腕に力を込めるのだった。

【春華のひとり言】


今日もお読み頂きありがとうございます。


クリソプ男爵領に入る所から不穏な空気が漂います。


生まれて初めてバルトとオスカーから離れる事になったセルジオとエリオス。


身を守るための最低限に指導をするものの不安を隠せないバルトの回でした。


この先、バルトの不安が確信に変わる出来事が起こります。


クリソプ男爵領を無事に抜け出す事ができるのか?


次回もよろしくお願い致します。


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