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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第64話 クリソプ騎士団1:開かない北城門

カリソベリル騎士団で新たま協力者を得たセルジオ達は次の貴族騎士団へ向かった。


シュタイン王国東方の所領は王都東門を5伯爵家序列第三位のカリソベリル伯爵家が守護している。


カリソベリル伯爵領の東方は隣国シェバラル国との国境を4男爵家名が北から南を東西に4分割した構図で治めていた。


いわばシェバラル国からの侵略に備える防波堤の様な配置となっているのだ。


東方所領で最北に位置するコーパル男爵家はラドフォール公爵領に隣接することからラドフォール公爵家に協力的な家名であった。


真東は2男爵家名が治めていた。

クリソプ男爵とオーロベルディ男爵。東の隣国シェバラル国との国境に最も近いことから交易が盛んに行われていた。


東方所領、最南に位置するベリル男爵家はシェバラル国伯爵家の第三子がシュタイン王国王家星読みの縁で結ばれ現当主の伴侶となっている。シュタイン王国で他国貴族との婚姻は王家を除き珍しいことであった。


カリソベリル伯爵領を出たセルジオ達は4男爵家名が有する騎士団を北から南へ向けて巡回する事にしていた。


カリソベリル伯爵領を出て最初に向かった貴族騎士団は東方で最北に位置するコーパル騎士団であった。

ラドフォール公爵家に協力的な家名であることから騎士団城塞でもラドフォール騎士団と同様にセルジオ達を快く迎え入れた。


騎士団の様子や騎士、従士との手合わせからもシュタイン王国貴族騎士団としての役割認識が高いことが(うかが)われた。


カリソベリル騎士団第一隊長フェルディが同行者として加わった事でコーパル騎士団からも協力者として騎士を数名同行させたいとの申し出があった。


しかし、バルドとオスカーはその申出を丁重に断った。このままでは各貴族騎士団へ立ち寄る度に人数が増えると考えたからだ。


同行者数が増えれば統制がとれにくくなる。貴族騎士団が混在した状態ではセルジオに危険が及ぶ可能性が高まる。また、セルジオ騎士団団長からの密命も果たしづらくなると考えた結果だった。


セルジオ騎士団城塞西の屋敷を出発してから3ヶ月半が経った2月の初旬、予定より3週間遅れて、クリソプ男爵領へ向かった。


当初、1月半ば過ぎにクリソプ騎士団城塞でラドフォール騎士団団長アロイスとラドフォール騎士団、影部隊(シャッテン)隊長ラルフ達と合流する予定であった。


セルジオの青き血の目覚めとラドフォール騎士団火焔の城塞での蒼玉(そうぎょく)の共鳴などの出来事で予定を大幅に遅れてのクリソプ男爵領入りとなっていた。


コーパル男爵領南門を出て南へ向う。クリソプ男爵領北門のすぐ目の前まで来ていた。




カコッカコッ・・・・

カコッカコッ・・・・


ゆっくりと北門に近づくと胸壁が設置された城門前に長槍を手にした重装備の騎士4人が立っているのが見えた。


カコッカコッ・・・・カッ!!


先頭を進むカリソベリル騎士団第一隊長フェルディが馬の歩みを止めた。


カコッカコッ・・・・カッ!

カコッカコッ・・・・カッ!


バルトとオスカーはフェルディの直ぐ後ろまで進むと同じ様に馬の歩みを止める。


チカッチカッ・・・・

チカッチカッ・・・・


「やけに物々しいですね。城壁最上部の胸壁に弓矢を構えた者が見えます」


バルトが深い紫色の瞳を城壁最上部へ向け呟いた。


「これではまるでコーパル男爵領から行き来する者を警戒しているようですね」


オスカーがバルトの視線に合わせ、城壁最上部へ目をやった。


「シェバラル国との国境である東門であれば解りますが、シュタイン王国内の他家からの行き来を阻むのであれば、あの噂が真実であることを自ら露見している様なものであるのに・・・・」


バルトは怪訝(けげん)な顔をする。


フレディがふっと笑い呟く。


「バルト殿の仰ることその通りにございます。あの者達はクリソプ騎士団の騎士ではございません。現当主の近習従士です。私兵と申した方がよいかもしれませんね」


「通常であれば近習従士が領主の居城より出ることはありませんし、領地の外城門は騎士団の騎士と従士が警護にあたることが貴族騎士団に課せられた役目の一つでもありますから。騎士団に任せては好ましくないことがおありなのでしょう。このことは貴族騎士団団長の会合時に懸念されている事柄の一つです」


フレディはぎっと城壁最上部を睨み付けた。


「バルト殿とオスカー殿はこちらで暫く留まって下さい。私が城門を開けて頂く様、話しをしてまいります」


フレディはそう言うとバルトとオスカーへ微笑みを向けた。


「はっ!」

「はっ!」


バルトとオスカーが呼応するとフレディは城門へ向けて馬を進めた。


ガシャンッ!!


フェルディが城門へ近づくと城門前にいる4人の従士が長槍を城門を塞ぐように斜めに掲げる。


フェルディはそのまま城壁最上部からの弓射射程距離まで近づいた。再び馬の歩みを止めると大声を上げた。


「我が名はカリソベリル騎士団第一隊長フェルディ・ド・シトリン。セルジオ騎士団団長名代セルジオ様、守護の騎士エリオス様、バルト殿、オスカー殿をお連れしたっ!速やかに北城門を開けられたしっ!シュタイン王国王都騎士団総長ジェラル・エフェラル・ド・シュタイン様の命であるっ!北城門を速やかに開けられよっ!領内をクリソプ騎士団城塞へ向かうっ!道々の同道を願いたいっ!」


カシャンッ!

カシャンッ!


フェルディの口上に城門前にいた従士4人が反応した。


手にしていた槍をフェルディへ向けて構える。

1人が一歩前へ進み出ると馬上のフェルディへ大声を上げた。


「カリソベリル騎士団第一隊長フェルディ様っ!カリソベリル伯爵よりの通行証はご持参かっ!通行証なき者は何人たりともお通しする訳にはいかぬっ!」


槍を手にした従士はギロリとフェルディを睨み付けた。


フェルディは臆さず口上を続ける。


「通行証は持ち合わせてはおらぬ。しかし、王都騎士団総長からの念書がある。各貴族騎士団を巡回する命と所領の通行と滞在を許可する念書だっ!通行証はなくとも問題なかろうっ!」


フェルディは王都騎士団総長の命であることを強調した。


「我らクリソプ男爵家近習のため、王都騎士団総長の命に従ういわれはないっ!通行証がなければお通しする訳にはまいらぬっ!再度、通行証を持参されるか、このまま東門へ回られよっ!東門であればクリソプ騎士団の騎士と従士が警護にあたっているゆえ、通してくれるだろう」


槍を手にしたクリソプ男爵の近習従士は何を言われようと通さないといった強い視線を向けていた。


フェルディは尚も食い下がった。


「シュタイン王国から所領を預かる貴族であればたとえ近習従士であれど王家第二子である王都騎士団総長の命に従うのは当然であろうっ!そこをお通し頂けないとなればクリソプ男爵家に不穏な動きありと報告せざるを得ないっ!その事、ご承知かっ!」


フェルディはクリソプ男爵が王家の意向を無視し、反乱の恐れありと通告すると告げた。


チカッ!


フェルディの言葉に城壁最上部に構えていた矢じりが光った。


射程距離まで進んだフェルディに狙いが定められている。


バルトはフェルディへ叫んだ。


「フェルディ様っ!お逃げ下さいっ!」


カッカカッ!!!


バルドは手綱を引くと一気にフェルディまで駆け寄った。


シュッシュッ!!!

シュシュシュッ!!!


「うわぁーーーー」


ガタンッ!!!

カランッ・・・・


城壁最上階からフェルディへ向けて4本の弓が放たれた。


と同時に城壁最上階で弓を放った者達が大声を上げ、胸壁から姿を消した。


ヒュンッ!!!

ヒュンッ!!!


ザッザッ!!!


弓を放つ直前に後ろへ倒れ込んだ様で、弓は空へ向かい大きく弧を描くとフェルディの後方地面に突き刺さった。


カッカカッ・・・・

カコッカコッ・・・・

ブルルルルゥ・・・・


フェルディに駆け寄ったバルトはフェルディの隣に馬を寄せると城門を離れることを進言した。


「フェルディ様、この場は一旦引きましょう。このままでは戦闘になります。我らは武装しておりませんし、ここで戦闘になればあちらの思うつぼです。我らをこの場で始末してしまえば言い訳はいくらでも可能です。あの者達が申される様に東門へまいりましょう。今からでは陽が暮れますから野営となりますが・・・・」


バルトはフェルディに進言しながらシェバラル国との国境で野営になる事に不安を抱かずにはいられなかった。


フェルディは馬上のバルトへ目を向ける。

セルジオが馬上にいないことに驚いた顔を見せた。


「バルト殿、セルジオ様はいずこに?」


バルトは城門最上部へ目を向け、続けての弓射に備えながら呼応した。


「フェルディ様がお独りで城門へ向かわれました際にオスカー殿の馬に移って頂きました」


フェルディが振り返るとエリオスの前にセルジオがいるのが見えた。


「かえって、ご迷惑をおかけしました・・・・」


フェルディはバルトへ視線を向ける。


「いいえ、我らだけではこの場の対処はできませんでした。感謝申します」


バルトは目線は城門最上部へ向けたままフェルディへ呼応した。


ギィギギギィィィーーーー


突如、城門が開いた。


ババッ!!!


城門前で槍を構えていた4人が驚き後ろを振り返る。


キィィィ・・・・

ガコンッ!


城門脇の小さな出入口から従士が一人顔を出すと槍を構える4人へ耳打ちをした。


「ちっ!!」


フェルディへ槍を向けた従士は舌打ちをするとフェルディとバルトを睨み付ける。


カツッカツッカツッ


そのまま城門脇の小さな出入口から4人の従士は城門内へ入っていった。


ギィギギギィィィ・・・・

ガコンッ!!!


大きな音を立てて北城門が開いた。


ゴゴゴゴゴ・・・・・


続いて落とし格子が上がる。


カコッカコッカコッ・・・・

カコッカコッカコッ・・・・


黄色の縁取りがされた黒いマントを纏った重装備の騎士3人が落とし格子が上がった北城門から微笑みを携え姿を現した。


「フェルディ様っ!よく参られましたっ!我が家名のご無礼、どうかお許しを」


スチャッ!

スチャッ!

スチャッ!


3人の騎士は馬を下りるとフェルディとバルトの元へ歩み寄った。



「これはっ!!アドラー様っ!!」


スチャッ!!

サッ!


フェルディは慌てて馬から下りるとその場でかしづいた。


バルトもフェルディに倣う。

後方ではオスカーがセルジオとエリオスを馬から下し、バルトの元へ急ぐ。


姿を現したのはクリソプ騎士団団長アドラー・ド・クリソプと第一隊長、第二隊長だった。


【春華のひとり言】


新年、あけましておめでとうございます。

昨年は、応援下さりありがとうございます!


とても嬉しく、励みになりました。

今年も引続きよろしくお願い致します。


そして、新年の今日もお読み頂きありがとうございます。


やっと到着したクリソプ男爵領と思いきや、城門を開けてもらえない出来事の回でした。


想定外の事が勃発するのが旅ではありますが、常に生死の境にいる緊張が、人の成長速度を速めるのだなと感じています。


今いる、今ある、こと全てに感謝だなぁ~と改めて思った今年最初の回でした。


次回もよろしくお願い致します。


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