第63話 カリソベリル騎士団8:歪みを正す方策
「そこで、これは青き血が流れるコマンドールの守護の騎士であられるお三方にお含み置き頂きたいと考えていることです」
フレイヤは改めてエリオス、バルト、オスカーへ顔を向ける。
「御前試合の一件でもお解りかと存じますが、我が父カリソベリル伯爵はエステール伯爵の意を汲む事を第一と考えております」
フレイヤはチラリとセルジオへ目をやった。
フレイヤは己に向けられるセルジオの真っ直ぐな視線にこれから話す内容を躊躇った。
「フレイヤ様、私へのお気兼ねは無用に存じます」
セルジオはフレイヤの躊躇いを払拭する。
ふっとうつむき加減に一つ息を吐くとフレイヤはセルジオへ微笑みを向けた。
「セルジオ様、感謝申します。お言葉に救われた思いです。では、私が知りうること全てを包み隠さずお話し致しましょう」
フレイヤは姿勢を正した。
「まずは現在の我が家名の歪みからお話し致しましょう。我がカリソベリル伯爵家現当主は父ベルホルトです。しかし、カリソベリル騎士団団長は私です。これがいかなることかバルト殿とオスカー殿にはお解りでありましょう。第一子は既に23歳。当然、父が当主を退き、第一子に後継を継承させて然るべきです。されど、父は当主の座に固執しています。当代でやり残した事があるからと申しておりますが、事実は異なります。当主を退き家名の方針が変わる事を恐れているのです」
「第一子マレーネの考えは父とは異なります。家名と騎士団は役割の違いはあれどあり方と方針は同じであれねばならないと申しているのです。エステール伯爵の意向を第一に考える父とは真逆なのです。エステール伯爵はセルジオ様を青き血が流れるコマンドールの再来を王国の禍とお考えです。100有余年前の悪しき出来事を再び起こす火種とお考えになり、その火種は早々に排除すべきだと公言されています。セルジオ様が実のお子であってもです。このお考えに父は賛同しているのです。されど・・・・」
フレイヤは今一度セルジオの顔を見る。
いくら気丈に振舞っているとはいえ、年端のいかない子が実の父に命を狙われている事を受け止められるかを案じたのだ。
しかし、セルジオは全く動じる素振りもなく先程と変わらず真っ直ぐにフレイヤを見つめていた。
フレイヤはセルジオの視線にドキリッとする。
セルジオがやけに大きく感じ、青く深い瞳に吸い込まれる様な感覚を覚えた。
「・・・・あっ・・・失礼を致しました。その・・・どこまで・・・・」
言葉につまったフレイヤにバルトがセルジオの状態を伝えた。
「フレイヤ様、セルジオ様へのご配慮は無用にございます。お言葉をそのままにお話し下さい。セルジオ様はエステール伯爵がどのようなお考えで、セルジオ様ご自身の身にどのような事が起こる可能性があるかを全てご存知です。その上で我ら三人が守護の騎士としてお仕えしております。セルジオ騎士団団長、ラドフォール騎士団団長やカルラ様、ウルリヒ様、ポルデュラ様からも起こりうる事への対応策もご教授頂いています。ご安心下さい。お言葉をそのままにお話し下さい」
バルトはフレイヤが言葉を選ばずにありのままを話せる様に促した。
フレイヤは驚きの表情を向けるが、深く頷き話しを進めた。
「承知しました。バルト殿、感謝申します。
我が姉マレーネはこの度の御前試合を我が家名の歪みを正す好機と捉えています。青き血が流れるコマンドールの再来は7年前に王家星読みダグマル様が予見されました。そして、王国に禍が起こりうる闇の復活も予見されています。闇の復活と同時に光が再来すると予見されたのです」
「姉はこの度の御前試合でセルジオ様が勝利となれば真に青き血が流れるコマンドールの再来であると公儀の事実となると申しています。そうなれば王国の宝とも言うべきセルジオ様の御身を危険にさらした事を王家へお伝えし当主の座を退く様、陛下直々に諭して頂く企てを致したのです。今頃は既に王家へ赴いている事でしょう。御前試合の許可を王都騎士団総長へ取りました際に陛下への謁見を内密に願い出ておりましたから」
フレイヤは姉の計略と行いに頼もしさを感じている様だった。
「父に伯爵家の家名を返上するか代替わりをするかの選択をさせる様に陛下に願い出ると申しておりましたから父は代替わりをするより他に道はありません。ただ、代替わりしたとしても父の行動に制約はできません。幽閉する訳ではありませんから行動は自由です。その事での懸念はありますが、表向きには今までの様に動けなくなることでしょう。そうなれば王都騎士団総長がお考えの貴族騎士団を一枚岩にするために5伯爵家騎士団の結束が図れるというもの。ここまでが我が家名の歪みを正す姉の計略となります」
フレイヤは姿勢を正し、セルジオへ力強い視線を向けた。
セルジオへニコリと一つ微笑みを向けると真剣な面差しに戻る。
「ここからはこの先の事にございます。代替わりは恐らく一月の内に行われると思います。先ほども申しましたが、父の行動を制約はできません。当主から外れれば自由になる事が一つあります。簡単に自領外へ赴く事が可能なのです。今までは幾人かの手を介して指示されてきたことが、直接行う事も指示する事もできるのです」
「姉と私が懸念している事がここです。セルジオ様と守護の騎士一行が今後貴族騎士団を巡回される道中が今まで以上に危険があると言う事です。今までは噂と推察でしかなかった青き血が流れるコマンドールの再来が御前試合の勝利で公儀の事実となった事でより危険となります。セルジオ様のお命を狙む者が増える可能性が高いと言う事です」
「特に王国東側、我がカリソベリル伯爵領の東は男爵家の所領です。その中でも注意が必要なのが、クリソプ男爵です。黒い噂のある領地にてセルジオ様の御身が案じられてなりません。そこで、第一隊長フェルディをクリソプ男爵領を抜けるまで同道させて頂きたく考えております」
「クリソプ騎士団城塞は貴族以外は城内に入る事ができません。バルト殿とオスカー殿が守護の騎士といえども貴族の称号がなければ城塞外で留まることとなりましょう。フェルディは准男爵です。騎士団城塞内ではフェルディがセルジオ様とエリオス様をお守り致します」
「クリソプ騎士団団長も我らと思いは同じです。王都騎士団総長のご意向に従うと申されています。されど、我が家名と同じ様に当主と考え方が異なります。団長の知らぬ所での企てがないとは言いきれないのです。まして、バルト殿とオスカー殿が城塞内に立ち入れないとなればその時を好機と捉えて然るべきかと。どうか、フェルディの同道をお許し頂く訳にはまいりませんか?」
フレイヤはバルトとオスカーへ懇願する様な視線を向けた。
バルトの深い紫色の瞳はフレイヤの話の最中に深みを増していた。
『深淵を覗く眼』開放された魔眼でフレイヤの真意を読み取っていたのだ。
フレイヤの言葉に嘘偽りがない事を視て取るとバルトはオスカーと目線を合わせる。
じっと見つめ合い頷き合った。
「フレイヤ様、ご配慮感謝申します。セルジオ様をお守りするのに我らだけでは限界がございます。フェルディ様がご同道頂けるのであれば不安が一つ解消できます。お願い致します」
ガタンッ!
ガタンッ!
バルトとオスカーは椅子から立ち上がりその場でかしづいた。
ガタンッ!
ガタンッ!
バルトとオスカーに倣い、セルジオとエリオスも椅子から下りるとその場にかしづいた。
セルジオがフレイヤへ感謝の意を伝える。
「フレイヤ様、数々のお計らい感謝もうします。この先もよろしくお願い申し上げます」
ガタンッ!!
フレイヤは立ち上がるとかしづくセルジオの前に進み出る。
「セルジオ様、頭をお上げください。我らの力が及ぶ所まで同道させて頂きます」
ガタンッ!
ガタンッ!
フェルディとジーニーも立ち上がりフレイヤの両脇に控えた。
セルジオは顔を上げ、フレイヤの青灰色の瞳を見つめる。
表情も瞳も冷ややかだと感じていたフレイヤはまるで女神の様な優しい微笑みを向けていた。
【春華のひとり言】
今日もお読み頂きありがとうございます。
カリソベリル伯爵家の内情と歪みを正す対応策の回でした。
トップの意向が組織全体にそのまま反映するかと言うとなかなか難しいですよね。
それでも正義をあり方を歪めてまでは従う事はできませんよと訴える末端からの声を聴く事も変革をもたらす種になるのではないか?と思います。
はだかの王様にならない様に聴く耳を持ちたいものです。
青き血が流れるコマンドールの再来の王家星読みダグマルの予見の回は
第2章 第29話 インシデント26:星の魔導士の予見
となります。
こちらは再来部分だけに触れています。
闇の復活は外伝~黒魔女のイデアをご覧下さい。
次回もよろしくお願い致します。