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とある騎士の遠い記憶  作者: 春華(syunka)
第3章:生い立ち編2~見聞の旅路~
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第53話 ラドフォール騎士団41:強固な結束

六芒星の魔法陣を敷き、バルドがセルジオの深淵に向かってから半日が経とうとしていた。


日が傾きはじめている。


火の魔導士カルラが治める火焔の城塞はアウイン山の中腹に位置する。

城塞眼下に広がる丘陵地に夕陽が射し込む光景は美しく幻想的だった。


エリオスの腰かける位置から窓の外が見える。

少しづつ外の色合いが変わるのを眺めていると目の焦点が合わなくなってきていると感じた。


ピシッピシッ・・・・


円卓中央に向かう銀色の光の波紋が、時折ぴしぴしと音を立てると楕円に歪む。

ポルデュラは楕円の歪みが起こる部分に銀色の糸を補充する。


『エリオス様は、そろそろ限界だの・・・・

さて・・・・どうするか・・・・バルドよ、早う戻ってくれっ!』


ポルデュラはウルリヒの顔をチラリと見る。

ウルリヒもエリオスの状態を気にかけ、ポルデュラへ目を向けていた。


オスカーが心配そうにエリオスを見る。

エリオスの身体は左右にゆらゆらと揺れ出していた。


「エリオス様、私の顔がはっきりとご覧になれますか?」


エリオスの正面に位置するオスカーがエリオスへ調子を確認する。

エリオスは顔を上げ、オスカーへ目を向けた。


「・・・・はっきりとは見えぬ・・・・

オスカーがはっきりとは見えない。

ぼんやりといつもより大きく見える・・・・」


左右にゆらゆらと揺れる身体を自身では認識していないだろう事がオスカー以外にも解る。


このままではバルドが戻るまで六芒星の魔法陣を保つ事が難しいと判断したポルデュラはベアトレスに指示を出した。


「ベアトレス、悪いがエリオス様を膝の上に乗せ、エリオス様の席についてくれ」


「はい、承知しました」


ベアトレスはポルデュラの指示に即座に動くとエリオスを抱き上げ椅子に腰かけるエリオスを膝の上に乗せた。


「ベアトレス殿、申し訳ありません・・・・

この様な・・・・堪える事ができずに・・・・」


エリオスは申し訳なさそうにベアトレスへ詫びをいれる。


「エリオス様、その様なことお気になさらずに。半日も気をはっておいでなのです。無理もないことです。私へのお気兼ねは無用に存じます。セルジオ様とバルド殿が無事に戻られるように願いましょう。私もエリオス様と共に願います」


ベアトレスはそう言うと目を閉じ、六角形の月の雫にセルジオの無事を願った。


チリッ・・・・

チリッチリッ・・・・

チャリンッ!!!


ベアトレスがエリオスを膝に乗せて椅子に腰かけて直ぐに円卓中央で横たわるバルドとセルジオの身体に巻き付けられた銀色の鎖が音を奏でた。


円卓を囲む7人の視線が円卓中央へ注がれる。


チャリンッ!!!


銀色の鎖が大きな音を奏でた。


ブワンッ!!

ワンッ!!!


円卓中央へ向けられていた銀色の光の波紋が中央から外側へ向け逆転した。


ブワンッ!!!

ワンッ!!!

チャリンッ!!!


風が円卓中央から広がった。


「・・・・」


ブウゥゥン・・・・

フワッ・・・・


六芒星の魔法陣の頂点に置かれた月の雫に灯った光が揺れる。


「うっ・・・・」


ピクリッ・・・・


円卓中央に横たわっていたバルドの右手がピクリと動く。


「バルドっ!!戻ったかっ!」


ポルデュラがバルドの名を呼んだ。

バルドは横たわったままうっすらと瞼を開けた。


「うっ・・・・セ・・・・セル・・・・セルジオ様・・・・」


ゴソッゴソッ・・・・


腕の中に抱えているセルジオの小さな背中をさするとセルジオの名を呼んだ。


「・・・・セルジオ様、お目覚め下さい・・・・」


バルドは徐々に視野がハッキリする中でセルジオの背中をさする。


「セルジオ様!セルジオ様!」

「セルジオ殿!セルジオ殿!」


円卓を囲む7人がバルドに合わせてセルジオを名を呼んだ。


「セルジオ様っ!!お目覚め下さいっ!

エリオスですっ!セルジオ様っ!エリオスですっ!」


エリオスはベアトレスの膝の上で身を乗り出し、円卓の縁を登らんばかりの勢いでセルジオの名を呼ぶ。

バルドはセルジオの背中をさする。


「セルジオ様、戻ってきました。

我らは深淵より戻ってきました。お目覚め下さい。

皆様、セルジオ様のお目覚めをお待ちでございますよ。セルジオ様・・・・」


バルドはセルジオを胸に引き寄せた。


トクンットクンットクンッ・・・・

トクンットクンットクンッ・・・・


セルジオが好きだと言った鼓動を聞かせる。


「セルジオ様、私の鼓動が聞こえますか?

動いておりますよ。大事ございません。さっ、お目覚め下さい」


バルドはそっとセルジオの頭に口づけをする。


ゴソッ・・・・


「・・・・うぅっ・・・・バルド?

戻ってきたのか?我らは戻ってきたのか?・・・・」


ゴソッ・・・・


セルジオが目を開け顔を上に向けた。


「セルジオ様っ!!!」

「セルジオ殿っ!!!」


円卓を囲む7人が意識が戻ったセルジオの名を大声で呼んだ。

バルドは身体を起こそうとするが身動きが取れない事に気付くとそのまま体勢で円卓の7人に帰還の報告をした。


「ウルリヒ様、ポルデュラ様、アロイス様、カルラ様、

エリオス様、オスカー殿、ベアトレス殿、

無事にセルジオ様と共に深淵より戻りました。

セルジオ様はご自身で深淵より戻られました。感謝申します・・・・」


バルドは皆がいる事を(はばか)ることなく、セルジオを優しく抱き寄せると再び頭に口づけをした。


「バルドっ!よくぞ、セルジオ様をお連れし戻ったの。

まずは魔法陣を解く。魔法陣を解かねばそこより動くことはできぬのじゃ。

皆、月の雫の頂点に左掌を乗せよ」


ポルデュラはそれぞれが六角形の月の雫の頂点に左掌を乗せるのを確かめると左手二本指を唇にあてる。


「ふぅぅぅぅふっ!」


シャランッ!!!


バルドとセルジオの身体に巻かれた銀色の鎖が解かれた。


「ふぅぅぅぅぅふっ!」


ワンッ・・・・

フッ・・・・


六芒星の頂点を繋いだ銀色の光を放つ糸が消える。


「ふぅぅぅぅふっ!」


シュゥン・・・・

フッ・・・・


六角形の月の雫の頂点に灯されていたそれぞれの光が消えた。


ザアァァァァ・・・・

グルンッ!!!


ポルデュラは右手を大きく回し、六芒星の魔法陣に張り巡らされた銀色の糸を回収するかのような動きをした。


「ふぅぅぅぅふっ!」


シャランッ・・・・

ランッ・・・・


銀色の糸は光の結晶となって消えた。


「魔法陣を解除するっ!」


ブウゥン・・・・

ウゥゥゥン・・・・

フッ・・・・


円卓中央から外側に向けて波紋が一つ大きく広がると風が吹く。

円卓上に敷かれた六芒星の魔法陣は消えた。


「さぁ、バルド。そこから動くこと叶うぞ。

まずはセルジオ様をエリオス様へ、触れさせて差し上げるのじゃ」


ポルデュラはベアトレスの膝の上に座っているエリオスへ優しい微笑みを向けた。


エリオスはハッとした表情をするとベアトレスの膝の上からストンッと下りた。

円卓の縁に近づく。


バルドはセルジオを抱きかかえ起き上がると円卓の縁に近づくエリオスの前でセルジオを下した。


フルフルフル・・・・


エリオスは震える唇をぎゅっと結び目に涙を浮かべ、円卓の縁を握る。


セルジオはエリオスの前に下されると膝をつき、エリオスの首に両腕を絡めた。

エリオスの右肩に顎を乗せ、ぎゅっとエリオスを抱きしめる。


「エリオス、心配をかけた。もう、大事ないっ!

エリオスやオスカーに傷を付けたくないと強く思っていたのだ。

皆を傷つけるのであれば独りでいた方がよいと思っていたのだ。

それは、愛しいからこその恐怖だとバルドに教えられた。

大切に想うからこそ傷つけたくないと想うのだと教えられた。

私の心は初代様の悔恨と共に封印された。

それでも恐怖を感じることができているとバルドに教えられた。

同じ様にエリオスもオスカーも私が傷つくことを恐れていると教えられた。

だから、もう大事ないっ!

これよりはずっと、ずっと一緒だっ!エリオス、戻ってきたぞ」


ポタリッ・・・・

ポタリッ・・・・


「うぅぅ・・・・うぅっ・・・・セルジオ様・・・・

セルジオ様ぁぁ・・・・よかった・・・・

お戻りになってよかった・・・・

あの様に沢山の血を吐かれて・・・・

その後はお言葉も発せられずに・・・・

もう、セルジオ様とお話しする事が叶わないのでは・・・・

うぅぅっ・・・・ない・・・・かと・・・・うぅぅっ・・・・」


エリオスはポタポタと大粒の涙を流し、小さなセルジオの背中に両手を回すとそっと抱きしめた。


「セルジオ様ぁぁぁぁ・・・・うわぁぁぁぁん・・・・」


エリオスは今まで見せた事がない姿で号泣した。

オスカーはエリオスのその姿に涙を流す。


バルドは円卓から下りると涙を流すオスカーに歩み寄った。

オスカーの右肩に左手を置く。その上に額を乗せた。


「オスカー殿、感謝申します・・・・戻れました。

セルジオ様にお仕えできることこそが幸いであると、

その事だけでよいと思えました。オスカー殿、感謝申します」


オスカーは自身の右肩に乗せられたバルドの左手をそっと握った。


「・・・・バルド殿・・・・」


バルドとオスカーは顔を見合わせると二人並びその場でかしづいた。


「ラドフォール騎士団先代団長ウルリヒ様、

ラドフォール騎士団団長アロイス様、

ラドフォール騎士団火焔の城塞守護カルラ様、

王都騎士訓練施設守護ポルデュラ様、そして、ベアトレス殿、

我らが主君青き血が流れるコマンドールセルジオと

守護の騎士エリオスをお助け下さり感謝申します。

我らこの先もこの御恩忘れることなく身命を賭して

青き血が流れるコマンドールの守護の騎士の役目を全う致します。

感謝申します」


バルドとオスカーは深々と頭を下げた。


二人の姿にわんわんと泣いていたエリオスがピタリと泣き止んだ。

ぐっと泣き声を押し込めるとエリオスはセルジオを抱え円卓の上から床に下した。


タッタタッ・・・・


セルジオとエリオスはバルドとオスカーの前でかしづいた。

四人そろって頭を下げる。


ウルリヒがポルデュラへ微笑みを向けた。

ポルデュラは静かに頷くと頭を下げる四人に視線を向ける。


「なに、全ては必然なのじゃよ。

全て起こるべくして起こることなのじゃよ。

20数年前より今日のことは決まっていたのじゃよ。

我らは同じ時、同じ事柄を共に味わう同志なのじゃよ。

さっ、頭を上げろ。皆でバラの茶を頂くとしよう」


ポルデュラはベアトレスへ目配せをする。


「はい、承知しました」


ベアトレスはポルデュラの目配せに呼応すると木製のワゴンを引き部屋から出て行った。


パタンッ!


ウルリヒがポツリと呟く。


「ラドフォールとエステールの結束を強固にするために用意された天の計らいだな」


窓の外へ目をやると朱色に染まった光が辺り一面を包んでいた。


【春華のひとり言】


今日もお読み頂きありがとうございます。


セルジオ、バルド!!共に深淵より帰還致しました。


起こる事は全て必然といいますが、今回もお互いの信頼関係を強固にするための必然だったのですね。


エリオスが感情をあれだけ露わにするのも初めてのこと。


それぞれが心身共に成長しているのだと感じています。


人と人との関わり中から生まれる信頼、改めて素敵な事だと思いました。


次回もよろしくお願い致します。


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