第42話 ラドフォール騎士団30:大地の魔導士の来訪
ザザザッ・・・・
パカッパカッパカッ・・・・
ガサッガサッ・・・・
パカッパカッパカッ・・・・
木々を分け入る蹄の音が大きくなる。
ガサッガサッ!
銀色の長い髪を後ろで一つに束ね深い緑色の瞳をした鍛冶師の装いのウルリヒが木々の間から姿を現した。
その後ろから青灰色の短髪に薄い青色の瞳をした大地の城塞、第一隊長のベアテが続いた。
バルドとオスカーは銀色の長い髪、深い緑色の瞳を目にすると手にした短剣を鞘に収め、カルラの左右でかしづいた。
銀髪と深い緑色の瞳はラドフォール公爵家の血統を表すからだった。
カルラは、火焔の城塞が管理する山深い場所に人が馬に乗って現れたことに戸惑いを見せる。
馬上のウルリヒが微笑みを向け、カルラの名を呼んだ。
「カルラ、久しいの。
元気そうで何よりだ。
ふむ。既に蒼玉の目覚めは終えたか・・・・」
ウルリヒはカルラがラドフォール公爵家の裏の紋章である薔薇の刻印をし、八芒星の魔法陣で結界を敷いた空洞へチラリと目をやると呟いた。
ハッ!!
カルラはやっと事態が飲みこめた様子でバルドとオスカーに倣い、その場でかしづいた。
「叔父上様、お久しゅうございます。
突然のお出ましに戸惑いました。
失礼を致しました」
カルラは素直に自身の状態をウルリヒに伝える。
「ふむ。カルラが珍しいな。
その一瞬の間が命取りとなることを重々承知しているであろう?
バルドとオスカーが同道しておるからと油断したのか?」
ピクリッ!
バルドとオスカーは己の名前を呼ばれ、驚く。
セルジオ騎士団第一隊長ジグラン直属配下であったとはいえ、従士であったバルドとオスカーをラドフォール騎士団先代団長が見知っているとは思ってもみなかったからだ。
カルラはかしづいたままウルリヒの問いに答える。
「いえ・・・・はい、そうかもしれません。
『慈愛と誠実の二柱』が傍近くにおりますことは
この様に心強いものかと感じておりました」
カルラはありのままを伝える。
トサッ!
トサッ!
ウルリヒとベアテは馬から下りた。
ウルリヒは手綱をベアテに渡すとかしづくカルラに近づく。
「カルラ、バルド、オスカー。面を上げよ」
ウルリヒの言葉に3人は顔を上げる。
「叔父上様、お久しゅうございます。
まずは昨日からの経緯を言上致します」
カルラはセルジオ達が火焔の城塞南門を通るとすぐに蒼玉の共鳴が起こったこと、蒼玉の共鳴の元はポルデュラがセルジオとエリオスに授けた月の雫の首飾りとバルドとオスカーへ授けた蒼玉の短剣であったこと、新たな蒼玉の採掘場が見つかったことを端的に伝えた。
ウルリヒは黙ってカルラの話を聴いていたが、どこか上の空でかしづくバルドをじっと見つめていた。
「以上が、今この場におりますことまでにございます。
叔父上様は、蒼玉の共鳴が起こったことで
我が火焔の城塞へお越し下さいましたか?」
カルラはウルリヒの突然の訪問の意図を計りかねていた。
「うむ。カルラ、
昨夕ベアテが使い魔を遣わしたが、
そなたの元に到着してはいないのか?」
ウルリヒはカルラが自身の到着があまりに突然だと二度も口にした事を怪訝に思っていたのだ。
「使い魔でございますか?
いえ、到着してはおりません。
早朝に城塞を離れましたから・・・・
ベアテ殿、直接、私へ遣わして下さいましたか?」
カルラも不審思い、ベアテに訊ねる。
2頭の馬の手綱を手にしていたベアテにウルリヒとカルラの視線が注がれた。
「はい、蒼玉の共鳴が起こりました直ぐ後に
カルラ様へ直接お届けする様に使い魔を遣わしました。
ハヤブサを遣わしましたので夕刻には到着しているものと思っておりました」
ウルリヒとカルラはベアテの返答に顔を見合わせる。
ラドフォール公爵家領内で放った使い魔が行く先を違える事など考えられないからだ。
考えられるとすれば魔導士の妨害だが、こちらもラドフォール公爵領内でしかも大地の城塞から火焔の城塞へ向けて放った使い魔を妨害できる力を持った魔導士がいるとは考えられない。
ウルリヒは蒼玉の共鳴が関わっていると思い至る。
ウルリヒはチラリとバルドへ目を向けた。己の考えは口に出さず、おもむろにバルドへ訊ねる。
「バルドよ、
そなたこのことどう考えるか?
そなたの考えを申してみよ」
ウルリヒは使い魔がカルラの元へ到着していない事態のバルドの考えを訊ねた。
バルドは躊躇なく、呼応する。
「はっ!蒼玉の共鳴が関係していると存じます」
「ふむ。なぜそう考えるのだ?」
「はっ!昨日、蒼玉の共鳴が起こりました折、
我が主セルジオ様と守護の騎士エリオス様が
耳と胸に非常に強い痛みを訴えられました。
痛みは直ぐに治まりましたが、
先程まで蒼玉の短剣から蒼い光は
放たれたままにございました。
ハヤブサは耳で方向を捉えます。
蒼玉の短剣から蒼い光が放たれている間は
火焔の城塞の周辺に何らかの影響があり、
近づくことができずにいたと考えます」
「ふむ。なるほどな。
そなたらはどうなのだ?耳に痛みはないのか?」
ウルリヒはバルドとオスカーへ身体の状態を訊ねる。
「はっ!蒼玉の共鳴が起こりました際は、
耳をつんざく音に驚きはしましたが、
痛みは感じませんでした」
「はっ!私もバルド殿と同じにございます」
バルドとオスカーはそれぞれの状態をウルリヒに伝える。
「そうか・・・・
ならばそなたが言うように蒼玉の共鳴が
使い魔の行く手を阻んでいたのであろうな」
ウルリヒはバルドの考えに同調した。
ピィィィーーーー
ピィィィーーーー
上空でハヤブサの声が響いた。
「フェルス!」
ウルリヒは上空で旋回しているハヤブサを呼んだ。
ピィィィーーーー
バサッバサッバサッ!
名前を呼ばれたハヤブサは急下降するとウルリヒの差し出した左腕にすぅととまった。
ウルリヒは満足そうに使い魔フェルスへ目を向けると右足に装着されたカルラ宛ての書簡を外しカルラへ渡した。
カルラは黙ってウルリヒから書簡を受け取る。
「・・・・叔父上・・・・
バルド殿の推察通りと言う事か?」
カルラは小さく丸められた書簡を開くと内容を確認した。ベアテが放った使い魔で、火焔の城塞にウルリヒとベアテが二週間滞在する旨が書かれていた。
「そうだな。バルドの申した通りと言う事だな」
ウルリヒはバルドへ微笑みを向ける。
「バルドよ、そなた私を覚えておらぬであろうな。
なに、直接顔を合わせたことはないからな。
私がそなたの幼子の頃の姿を見知っているだけだ。
シュタイン城でそなたが芸をした姿をな」
ウルリヒは懐かしそうな目でバルドを見るとカルラへ向き直った。
「カルラ、
アロイスを火焔の城塞へ招いて欲しいのだが・・・・
既に手筈は整っているか」
「はっ!
昨日の蒼玉の共鳴が起こりました事を
ラドフォール公爵とウルリヒ叔父上、兄上、
そして、訓練施設におられるポルデュラ叔母上に使い魔を遣わしました」
「そうか。
流石、火の精霊サラマンダー様に仕える火焔の城塞カルラだな。
手回しがよい。
アロイスが到着し次第、話しがあるのだ。
カルラ、バルド、オスカーも参席せよ」
ピクリッ!
バルドとオスカーはかしづいたままお互いを横目で確認した。
バルドとオスカーが参席すると言う事は、当然、これからのセルジオとエリオスに関わることだと思ったからだ。
3人はウルリヒの言葉に呼応した。
「はっ!承知致しました」
「では、カルラ、火焔の城塞へ向かうとしよう。
早朝よりの早がけだった。馬を休ませたい」
ウルリヒはベアテから1頭の馬の手綱を受け取る。
カルラとバルド、オスカーの3人が辿ってきた樹木が生い茂る山道へ歩みを進めるのだった。
【春華のひとり言】
いつもお読み頂きありがとうございます。
蒼玉の共鳴が起こった事で、物語が一気に進みだします。
起こるべくして起こる宿命に備え、外堀が埋められていく感じがしています。
次回は火焔の城塞にラドフォールの3つの城塞主が揃います。
次回もよろしくお願い致します。
セルジオとエリオスは元気かな?